「欧州勢は“環境規制が市場を作る”と考えたが、最終的に市場を支配したのはコストとソフトだった。中国勢はそこを徹底的に磨いた」(同)
米政界では対中強硬姿勢が続く一方、中国企業が米国内で生産・雇用を創出する形態については一定の容認論もある。100%関税で輸入EVを遮断しつつ、現地生産型合弁を通じて技術を取り込む――。これは1980年代に日本メーカーが辿った道を逆再生する構図だ。
「米国は製造業雇用を守ることを優先する。中国企業が資本と技術を持ち込み、米国内で生産するなら政治的許容度は高まる」(同)
つまり、フォードは地政学的“抜け道”を利用しようとしている可能性がある。
フォードの動きは、日本メーカーにも深刻な問いを投げかける。
1. ハイブリッド優位は続くのか
トヨタはハイブリッド車(HEV)で好調を維持している。しかし、中国式低価格EVが北米で量産されれば、構図は変わる。
3万ドル前後の高機能EVが普及すれば、価格帯が重なる可能性がある。だが、「ハイブリッドは過渡期の最適解だが、SDV時代の最終解ではない。ソフトで差をつけられれば価格競争に引き込まれる」と警鐘を鳴らす。
2. SDV競争の遅れ
シャオミの強みは「デバイス統合」。スマホ・家電・車が一体化する体験設計は、日本メーカーが最も苦手とする領域だ。トヨタやホンダもソフト開発を強化しているが、デジタル企業との文化差は大きい。
3. すでに始まる中国との連携
実際、日本勢も中国企業と協業を進めている。
トヨタ:BYD技術活用EV展開、中国IT企業とAI連携
ホンダ:CATL・華為技術との協業深化
つまり「自前主義」はすでに揺らいでいる。
内燃機関時代、自動車の価値はエンジン性能だった。EV時代、価値の中心は電池とソフトウェアへ移った。その両方で中国企業は優位にある。フォードがシャオミやBYDと組むことは、単なるコスト削減策ではない。それは「産業主権の再配分」に踏み込む行為である。
「EVは製造業というよりデータ産業に近い。OSを握る企業が利益の大半を取る構造に変わる可能性が高い」(同)
フォードが中国勢と組めば短期的な競争力は回復する可能性がある。しかし長期的には、ブランドが“殻”になり、中身は中国製という構図も想定される。
これはフォードだけの問題ではない。欧州も、日本も、同じ問いに直面している。自前で遅れて沈むか、中国と組んで主導権を一部手放すか。あるいは独自のソフト基盤を構築できるかーー。
100年に一度の変革と言われたEVシフトは、いまや最終局面に入った。「誰が車を作るのか」ではなく「誰が車を制御するのか」。その問いへの答えが、次の10年の覇者を決める。
フォードの選択は、単なる経営判断ではない。それは自動車産業の地図を書き換える分水嶺である。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=荻野博文/自動車アナリスト)