この動きは、単なる供給側の事情にとどまらない。需要側――すなわち実需層の行動変化とも密接に連動している。
2025年第4四半期のデータは、その変化をより鮮明に映し出している。マンション着工が12.7%減(3期連続減)となる一方で、一戸建ては6.4%増(2期連続増)と対照的な動きを見せた。背景にあるのは、圧倒的な価格差だ。
・23区の新築マンション平均価格:1億円超
・東京都の戸建て平均価格:約6000万円
この差は、単なる選好の違いではなく「購入可能性」の問題である。都内の不動産鑑定士は次のように指摘する。
「6000万円前後は、共働き世帯が現実的に借りられる住宅ローンの上限に近い水準です。一方、1億円マンションは完全に別の市場に移行しています。結果として、実需層は選択肢として戸建てに流れざるを得ないのです」
ただし、その「戸建て」の中身も変質している。駅徒歩20分以上、バス便、あるいは敷地面積が極端に小さい「狭小戸建て(ペンシルハウス)」といった物件が増加。利便性や居住環境を犠牲にしてでも「所有権」と「広さ」を確保する動きが広がっている。これは選択というより、“追い込まれた結果”に近い。
では、今後価格は下がるのか。結論から言えば、短期的な下落を期待するのは現実的ではない。
第一に、供給不足が解消する兆しが見えない。着工戸数の減少が続く限り、市場に在庫が積み上がる構図にはならない。
第二に、価格上昇が需要主導ではなくコスト主導である点だ。建設コストが高止まりする限り、デベロッパーは価格を下げることができない。
第三に、市場の二極化が固定化している。都心マンションは投資対象・富裕層向けアセットとして、郊外戸建ては実需の受け皿として、それぞれ別の市場として機能し始めている。
金融面からもこの構造は補強される。ある金融機関の住宅ローン担当者はこう語る。
「金利が上昇局面に入っても、供給が限られている以上、価格が大きく崩れる可能性は低いです。むしろ購買力が低下することで、“買える人”がさらに限られる方向に働くでしょう」
いまの東京市場が示しているのは、極めてシンプルで、しかし厳しい現実だ。「待てば安くなる」という前提は、もはや成立しない。供給が増えない限り、価格は高止まりする。
そして、その間に購買力はじわじわと削られていく。
結果として起きているのは、実需層の“下方シフト”だ。都心マンションを諦め、郊外へ。利便性を手放し、狭小住宅へ。この流れは2026年に入っても続く可能性が高い。むしろ今後は、「どこで妥協するか」が住宅購入の最大のテーマになるだろう。
不動産市場は、単なる資産価格の問題ではない。それは都市の構造、そして生活の質そのものを変える力を持つ。
東京の住宅価格が下がらないという事実は、同時に「誰がこの都市に住み続けられるのか」という問いを、私たちに突きつけている。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=秋田智樹/不動産ジャーナリスト)