日本企業で「脱オラクル」加速…高額ライセンスとロックインへの懸念が背景

 Kindle、ECマーケットプレイス、物流管理など巨大サービスの基盤は、最終的にオラクルDBからこれらのシステムへ移行した。AWSのエンジニアリング部門は当時、数千のデータベースを段階的に移行したと公表している。移行によって数億ドル規模のコスト削減効果があったとも報じられている。このニュースは、世界のIT業界に大きな衝撃を与えた。

「世界最大級のトランザクション処理を行う企業が、オラクルを離れられるなら、他の企業にも可能なはずだ」――。そうした認識が、企業のIT戦略を大きく変え始めたのである。

日本企業でも進む「脱オラクル」の具体例

 この潮流は日本でも徐々に広がっている。

 たとえば教育大手のベネッセコーポレーションは、タブレット学習サービス「チャレンジタッチ」の基盤を刷新した。オンプレミスのオラクル環境から、Microsoft Azureのクラウドデータベースへ移行したのである。この移行により、ハードウェア調達コストとライセンス費用の双方を削減。さらにクラウドのスケーラビリティを活用し、アクセス急増にも柔軟に対応できる体制を整えた。

 また、田辺三菱製薬の取り組みはより現実的な戦略を示している。同社はシステムごとに最適なデータベースを選択する「適材適所」の方針を採用している。

・移行可能なシステムはPostgreSQLやSQL Serverへ
・クラウド環境はAzureを中心に再設計
・オラクル依存が強いシステムは仮想化基盤で効率化

 つまり、全面的な置き換えではなく、ハイブリッド戦略による段階的脱却である。

「大企業の基幹システムは数十年の歴史を持つものも多く、一気にデータベースを切り替えるのは現実的ではありません。重要なのは、今後の新規開発をオープン技術に切り替え、徐々に依存度を下げていくことです」(小平氏)

PostgreSQLが変えた勢力図

「脱オラクル」を支えている最大の技術的要因は、PostgreSQLの進化である。PostgreSQLはオープンソースのリレーショナルデータベースだ。
かつては「研究用途のDB」という印象もあったが、現在はエンタープライズ用途でも十分な性能と信頼性を備えている。多くのクラウドサービスがPostgreSQL互換のデータベースを提供しており、代表例は以下の通りだ。

・Amazon Aurora PostgreSQL
・Google Cloud SQL
・Azure Database for PostgreSQL

 オープンソースのためライセンス費用が不要であり、クラウド環境でも柔軟に利用できる。

 IT市場調査会社IDCによると、企業のデータベース選定において「オープンソースDB」を採用する割合は年々増加している。特に新規システムでは、最初からPostgreSQLを採用するケースが急増しているという。

「かつてオラクルDBが選ばれた最大の理由は信頼性でした。しかし現在は、クラウド基盤の冗長化技術やオープンソースDBの成熟によって、その差は大きく縮まっています。コストと柔軟性を考えると、PostgreSQLを選択する企業が増えるのは自然な流れでしょう」(同)

「脱オラクル」を成功させる3つの条件

 もっとも、オラクルからの移行は簡単ではない。長年運用されてきたシステムでは、ストアドプロシージャや専用機能に強く依存しているケースが多いからだ。

 そのため、成功している企業にはいくつか共通点がある。

1 段階的な移行
すべてを一度に移行するのではなく、新規システムや周辺システムからオープン技術に切り替える。

2 技術力の確保
PostgreSQLやクラウドDBを運用できるエンジニアを育成することが不可欠。