(2)北海道(旭川・十勝)——ニセコ難民が生んだ「分散需要」
かつてインバウンドのスノーリゾートの代名詞だったニセコは、今や土地価格の高騰により新規参入が極めて困難になった。1㎡あたりの地価がバンクーバーやニュージーランドのリゾート地を超えるエリアも出現している。
その結果、「ニセコの次を探せ」という資本の流れが旭川・大雪山系・十勝方面へと向かっている。スキーというコンテンツの強度はニセコに劣らず、土地の仕込みコストは圧倒的に低い。中長期の資本効率という観点では、現時点での参入妙味は高い。
(3)佐賀県(武雄・嬉野)——新幹線が変えた「アクセス方程式」
2022年に開業した西九州新幹線により、武雄温泉・嬉野温泉へのアクセスは劇的に改善した。温泉文化の歴史は1300年に及び、コンテンツとしての深度は折り紙つきだ。
観光インフラ整備と高付加価値化の掛け算が今まさに進行中であり、「インフラ整備直後に仕込む」という王道の投資タイミングと合致している。
では、これらの潮流はビジネスパーソンにとって何を意味するのか。観光投資に直接関わらないとしても、この構造変化から抽出できるビジネス原則は普遍的だ。
「Volume戦略」の終わりと「Value戦略」の台頭。大量の客を集めて薄利で稼ぐモデルは、人口減少と人件費高騰の日本では構造的に行き詰まる。一方で、特定の層に「物語と体験」を高く売るモデルは、まだ市場が整備されていない分野に無数に存在する。
「通過点」の再定義。あなたのビジネスの中で、今「通過点」として素通りされているコンテンツや価値はないか。静岡が「眺めるだけの富士山」を「泊まる富士山」に転換したように、既存の資産の”見せ方と売り方”を変えることで、まったく新しい市場が開く。
「先に動いた者が勝つ」法則。地価が上がってから入っても遅い。投資家が群がってから参入しても遅い。今この瞬間に「離陸前夜」のシグナルを読み取り、動ける者だけが果実を得る。
長らく日本の観光は「安くて質が高い」という価値提案で世界に受け入れられてきた。しかしそれは裏を返せば、日本人の労働と地域の自然・文化が「安売り」されてきたということでもある。
静岡で今起きているホテル投資ラッシュは、その構造を根本から変えようとする試みだ。富士山という世界最高水準のコンテンツを、世界最高水準の価格で売る。それを実現するためのインフラ・体験・ブランドに、国内外の資本が本気で投資し始めている。
「安いニッポン」から「価値あるニッポン」へ。その最前線が、今まさに静岡だ。
そして次の戦場は、徳島かもしれない。北海道かもしれない。佐賀かもしれない。
確かなのは、「物語のある場所」に資本が集まる時代は、すでに始まっているということだ。情報感度の高いビジネスパーソンであれば、この潮流を”知識”として持つだけでなく、自らのビジネスと投資判断に接続する視点を今すぐ持つべきだ。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=湯浅郁夫/観光政策アナリスト)