
●この記事のポイント
2026年3月、中東有事でWTI原油が一時120ドルを突破。日経平均は2,800円超急落の一方、INPEXや商船三井・三菱重工は高値更新。JAL・マツダは燃料高と物流コスト増で下落。大和総研は150ドル到達時に日本のGDP▲2.0%を試算。有事が加速させる日本株の二極化を徹底解説。
日本時間2月28日、米国・イスラエル両軍によるイランへの軍事攻撃が始まった。翌3月1日、イラン革命防衛隊は「ホルムズ海峡をいかなる船舶も通過することは認めない」と一方的に通告。ペルシャ湾から海外に向けて海路での原油供給網が遮断されるという、エネルギー市場にとって最悪の事態が現実のものとなった。
原油価格の指標となるWTI原油先物価格は、ホルムズ海峡封鎖以降に一時1バレルあたり119.48ドルを記録し、ロシアによるウクライナ侵攻開始時以来の高値まで高騰。国際エネルギー機関(IEA)全加盟国が石油の協調放出で合意したものの価格は再び1バレル100ドルを超え、3月9日には日経平均株価が歴代3番目の下げ幅となる2,800円超の急落を記録した。
だが市場の内側では、単純な「有事売り」だけでは説明できない複雑な選別が起きている。同じ日本株でも、INPEX(1605)が上場来高値を更新し、商船三井(9104)が18年ぶりの高値圏で推移する一方、JAL(9201)は年初来安値を更新し、マツダ(7261)への売りも止まらない。なぜ、これほど明確な明暗が生じているのか。最新の業績インパクトと株価動向を徹底検証する。
●目次
そもそも、なぜ中東有事が日本経済・株式市場にこれほど直撃するのか。背景にあるのは日本固有の構造的脆弱性だ。日本は原油の99%超を輸入に頼っており、世界各国の中でも特に価格変動の影響を受けやすいエネルギー構造を持つ。
その輸送の要衝がホルムズ海峡だ。米EIA(エネルギー情報局)の公表値によると、同海峡を通過する石油・石油製品は日量2,090万バレルに上り、世界の産油量の約2割がこの一点を経由している。日本の中東原油依存度はさらに高く、「ホルムズ封鎖=日本への直撃弾」という構図は必然だった。
野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏は、軍事衝突が長期化しホルムズ海峡の原油輸送に支障が続くメインシナリオとして、原油価格が1バレル87ドルまで上昇し、日本の実質GDPを0.18%押し下げると試算。ホルムズ海峡が完全封鎖される悲観シナリオでは原油が140ドルに達し、GDP押し下げ幅は0.65%に拡大、景気後退入りの可能性も排除できないとしている。
大和総研の試算によれば、WTIが120ドルで定着した場合、2026年度の日本の実質GDP成長率は0.5%pt押し下げられる。さらに150ドルに達し中東からの原油・LNG輸入が10%減少する事態になれば、押し下げ幅は2.0%ptに拡大し、日本経済はマイナス成長に転じるリスクがある。
今回の有事は一過性のパニックではなく、日本経済を長期的に蝕む「静かな失血」となりうるリスクをはらんでいる。
空運(JAL・ANA)
航空大手2社は「燃料費高騰」と「航路制限」というダブルパンチを受けている。中東空域の閉鎖により欧州便の迂回(北回り・南回り)を余儀なくされており、飛行時間の延長は燃料消費増と人件費増を直接意味する。燃油サーチャージによるコスト転嫁には時間的ラグがあり、その間は利益が圧迫され続ける構造だ。3月初旬から株価は大幅続落し、年初来安値を更新する場面も見られた。