鹿島建設は2026年3月期に純利益が前期比35.1%増の1,700億円になる見通しで、営業利益は前期比50.1%増の2,280億円、売上高は3兆300億円と、建設業として初めて単体売上高3兆円の大台を突破した。5期連続の増収増益という事実は、この転換が一過性ではないことを示している。
局所的な事例が全国の相場を動かすケースもある。熊本・菊陽町はその象徴だ。
TSMCが大卒の初任給を周辺地域の相場より4割高く設定し、パート従業員も高い賃金を設定したことから、周辺地域の時給が上昇している。工場建設に伴う建設需要の急増は九州全域から職人を吸い寄せ、熊本での賃金プレミアムが他地域での職人確保をより困難にした。菊陽町の工業地の上昇率は32%で全国一となり、賃金と地価の両面で大きな変化が起きている。
この「TSMC効果」は単なる地域現象にとどまらなかった。建設労務費の高騰は全国に波及し、発注者がコスト増を受け入れざるを得ない土壌をさらに強固にした。半導体工場一つが、日本の建設コスト構造を変えた──そう言っても過言ではない。
不動産デベロッパーとゼネコンの力関係も、様変わりしている。かつては「施主は神様」であり、コスト叩きは当然の慣行だった。今や首都圏や大阪の大型再開発を手がけるデベロッパー各社が施工枠の確保に腐心し、追加予算の承認を迫られるケースが珍しくない。「選んでいただく側」から「選ぶ側」への歴史的な逆転が起きている。
構造転換の恩恵は、業界全体には均等に届いていない。
中小・零細の建設業者は、大手ゼネコンからの受注単価が固定的であるため、コスト増を吸収できず、資金繰りが急速に悪化しやすい状況が続いている。
帝国データバンクの調査では、建設業の価格転嫁率は43.7%と全業種平均をわずかに下回った。資材価格高騰分を価格転嫁できず事業継続が困難になるなど、業界を取り巻く環境は依然として厳しい。
大手ゼネコンが手にした利益の原資を突き詰めれば、労務費の高騰という現実がある。その多くをサブコン・職人側が当初負担し、ようやく価格転嫁が上流から下流へと滲み出している途上にある。上流が利益を確保すればするほど、下流のコスト吸収圧力は高まるという矛盾は業界全体の課題として残る。
加えて「2026年問題」が重なる。2025年は多くの熟練職人が高齢を理由に引退するとみられ、人手不足は一層深刻化する。職人確保のための賃上げが求められる一方、賃金引き上げ余力に乏しい中小建設業の倒産が今後も増加する恐れがある。供給がさらに絞られ、工事単価がさらに上昇し、不動産価格を押し上げる──そのスパイラルへの懸念は、現実味を帯びている。
大手ゼネコンの最高益は、単なる業界事情の話にとどまらない。首都圏新築分譲マンションの平均価格は2024年度に8,135万円と4年連続で過去最高を更新し、供給戸数は3年連続で減少している。建設コストが下がらない限り、新築価格の下限には構造的な床がある。
「不動産バブル崩壊論は繰り返し語られてきたが、施工コストが下がらない以上、新築価格には物理的な下値抵抗線が存在する。少なくとも中長期的には、コスト主導型の高止まりが続く可能性が高い」(同)
一方でポジティブな側面もある。大成建設も長年の課題だった不採算工事の解消が進み、建築事業の完成工事総利益率が急改善している。ゼネコンが適正利益を得ることは、職人への賃上げ原資を生み、建設業への若年層流入を促す可能性がある。「安売り」を強いられてきた産業が、正当な対価を受け取り始めた──その構造変化は、デフレ経済の象徴だった日本が、コストを適正に評価する経済へ転換しつつある証左とも読める。
五輪特需を超えた「8年ぶりの最高益」という数字の裏には、単なる景気の追い風以上の意味がある。それは、業界が「価格」というものと向き合い直した、静かなる革命の結果だ。
【2026年3月期 業績ハイライト(確定・最新開示値)】
大手4社合計連結営業利益 約7,300億円(前期比約5割増・8年ぶり最高)
五輪特需期(2018年3月期)比較 5,994億円 → 7,300億円超
鹿島 営業利益 約2,280億円(前期比50%増)・純利益1,700億円
鹿島 売上高 3兆300億円(建設業初の3兆円超)
大林組 純利益 1,700億円(前期比17%増)
清水建設 純利益 1,100億円(前期比67%増)
建設業倒産件数(2024年) 1,890件(過去10年最多)
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=秋田智樹/不動産ジャーナリスト)