国立大学として異例の5千億円「独自運用」…東京科学大が挑む「稼ぐガバナンス」

 ハーバードでは、この運用益が大学年間収入の約37%を占める。授業料や政府補助金に依存せずとも、世界中から超一流の研究者を高給で迎え入れ、最先端の設備を整備できる「自律的サイクル」が回っている。

 これに対し、日本のトップ私学の慶應義塾大学の基金は約870億円、東京大学が約190億円と、英米トップ大学の数%程度にすぎない(楽待コラム、2025年12月)。格差は歴然だ。

 大学経営を専門とする研究者の間では、「日本の大学がこの差を埋めるには、寄付文化の醸成と同時に、運用そのものをプロフェッショナル化する両輪が不可欠だ。エンダウメントは一朝一夕にできるものではなく、20〜30年単位の戦略設計が求められる」(大学経営・財務研究の専門家)との見方が共通認識になりつつある。

先行する動き…「東大債」と慶應の運用実績

 国立大学として先鞭をつけたのは東京大学だ。2020年代初頭から「大学債」の発行を開始し、2024年12月には3回目となる110億円のサステナビリティボンドを40年物・利率2.877%で発行した。10年間で1,000億円超の調達を目指すこの試みは、大学が初めて資本市場と正面から向き合う象徴的行動として関心を集める。

 私立大学では慶應義塾が先行して独自運用を展開。収益基盤の多様化において私立大学特有のガバナンスの柔軟性を活かしながら実績を積んでいる。

 これらの動きは「大学経営の企業化」という大きなトレンドの一部だ。かつては研究者コミュニティによる合議制が支配していた大学経営に、CFO(最高財務責任者)の設置やプロの運用受託機関の活用といった、民間企業型のガバナンスが持ち込まれてきている。

東京科学大学の「野望」…医工連携とハイブリッド循環

 こうした流れの中で東京科学大学が打ち出した5,000億円ファンド構想は、既存の取り組みと一線を画す。単なる資産運用の拡大にとどまらず、「研究×投資」のハイブリッド循環を設計している点が独自性の核心だ。

 同大が狙うのは、理工学と医歯学の統合から生まれる「医工連携」型スタートアップの育成である。人工関節、医療デバイス、再生医療など、工学的精度と医学的知見を融合させた深層技術(ディープテック)は、社会実装までの道のりが長い一方で、いったん市場化されれば大きな経済価値を生む。大学がその株式やライセンス収入をファンドに還流させることで、「稼いだカネが再び研究に回る」持続可能な循環を描いている。

 文科省が認定時に「日本の新しい大学のモデルとなることが期待される」「臨床系教員の研究時間確保策は野心的」と評した背景には、こうした体制強化計画の具体性がある。また、博士課程学生への経済的支援を年間400〜500万円水準へ引き上げる方針(同大理事長・学長インタビュー、日経新聞2025年12月)も、優秀な人材を国内に引き留めるための布石として機能する。

「東京科学大学のアプローチは、研究資産のマネタイズとエンダウメント積み上げを同時並行させようとする点で興味深い。医工連携はスタートアップエコシステムとの親和性も高く、大学発VCのような機能を内部に持つモデルへの進化も視野に入るだろう」(大学発スタートアップの資金調達に詳しい金融アナリスト・川﨑一幸氏)

変化の本質

 この動きはアカデミアだけの話ではない。企業のR&D担当者やベンチャー投資家にとっても、見逃せない構造変化が進行している。

 第一に、大学が「安定した共同研究パートナー」になりうるという点だ。外部資金への依存度が高い大学では、プロジェクトが単年度予算に縛られがちで、長期的・継続的な産学連携が組みにくかった。自主財源が充実すれば、10年単位の深い共同研究が現実的になる。