これに対しSBGは、一段高いレイヤーで動いている。
「マイクロソフトやグーグルがAIを自社事業の『強化剤』として捉えているとすれば、SBGはAIそのものを次世代の社会インフラの中核に据え、そのレイヤー全体を支配しようとしている。VC的な発想ではなく、『インフラ持ち株会社』への変身を試みている点が本質的に異なる」(AI政策研究家の鈴喜村恵一氏)
SBGが描く青写真は、一枚の三角形で表せる。
頂点はOpenAI(知能・ソフト)。底辺の一端がArm(省電力半導体設計)、もう一端がロボティクスだ。
OpenAIのような大規模言語モデルを動かすには膨大な計算能力と、電力効率の高いチップ設計が不可欠になる。SBGが約90%保有する英Armは、スマートフォンからデータセンターまで幅広く採用される省電力設計の世界標準に近い存在だ。SBGは現在、ArmとOpenAIが共同でAI専用チップ(ASIC)を開発中であり、2026年末に詳細を公表する計画とされている。さらに米国内での10ギガワット規模のAIデータセンター構築、2026年末を目途にABBのロボット事業買収も進めている。
「AIの知能がOpenAI、その知能が走る専用チップがArm、その知能が制御する物理的な実体がロボット——この三者をグループで垂直統合できれば、単なる投資会社ではなく、AI時代の『総合インフラ企業』になる。実現すれば、GNFAの各社とは異なる競争軸を持つことになる」(同)
ただし「垂直統合」は描きやすく、実現は難しい。OpenAIの企業評価が维持されるには、Armによるチップ優位、ロボット事業の黒字化、さらにはOpenAI自体の収益モデルの確立が同時に前進する必要がある。
SBGが抱える最大の問いは「いつ、どうやって投資を現金化するか」だ。
OpenAIは2025年に非営利団体から公益法人(PBC)への転換を完了し、IPO準備を本格化させている。報道によれば目標は1兆ドル規模の評価額での2026年末〜2027年の上場だ。実現すれば、史上最大のIPOとなる。
ただし構造的なハードルがある。第一に、OpenAI自体がいまだ巨額の赤字企業だ。年間売上高の年率換算は250億ドル超と急拡大しているが、インフラコスト(電力費・データセンター費)の膨張により、黒字化の見通しは2029年以降とされている。第二に、ガバナンス構造の複雑さだ。PBCへの転換後も非営利財団「OpenAI Foundation」が全取締役の指名権を保持し、IPO後も純粋な「株主価値最大化」は構造的に制約される。
「OpenAIのIPOはAI投資ブームの集大成ですが、一般投資家にとっては赤字継続・特殊ガバナンス・高い評価倍率という三重の難問を抱えたIPOになります。SBGにとってはこれが最大の出口シナリオですが、上場してもロックアップ期間中は持ち株を売却できない。含み益を現金に変えるには、さらに数年の時間が必要です」(同)
SBGのOpenAI投資は、単純な「ギャンブル」でも「無謬の先見の明」でもない。
OpenAIという未上場企業に10兆円規模の資金を集中投下し、同時にArmという半導体設計の世界標準を押さえ、ロボティクスとデータセンターで「物理層」にも手を伸ばす——この構造は、投機というより「AI産業の次のインフラ配置の先取り」と見るほうが実態に近い。
問題はその構造の実現可能性と、実現までの財務上の耐久力だ。有利子負債12兆円超、営業キャッシュフロー赤字、格付けへの懸念——これらは無視できないシグナルである。
AI投資の本質を問うとき、重要なのは「誰が勝つか」ではなく「どのレイヤーに価値が蓄積されるか」だ。 クラウドに蓄積するのか、チップ設計に蓄積するのか、モデルそのものに蓄積するのか、それとも物理的なロボットや自動化に蓄積するのか。SBGの賭けは「その全レイヤーを自分のグループで抑える」という、きわめて大胆な仮説の実証実験でもある。
答えが出るのは、OpenAIが上場し、Armの新チップが量産され、ロボティクスが実需に到達したとき——おそらく2028年から2030年にかけての数年間だ。その結果は、AI時代の産業地図そのものを塗り替えるだろう。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=鈴喜村恵一/AI政策研究家)