エネルギーファイナンスの専門家で某大手金融機関・インフラファイナンス部門の担当者は、今回の調達についてこう分析する。
「住宅向けPPAは10〜15年の長期契約が前提のため、キャッシュフローの予測可能性が高い。生命保険会社や地方銀行が参画するのは、年金・保険運用の観点から安定した利回りが見込めるためです。件数ベースで3万件規模になると、個々の物件リスクが分散され、ポートフォリオとしての格付け評価も向上する。シェアリングエネルギーが屋根置き分散型太陽光で国内初のプロジェクトファイナンス格付けを取得したことも、この流れを加速させた重要な実績です」
「所有から利用へ」というシェアリングエコノミーの思想は、かつてカーシェアリングや民泊で既存産業を変えた。今、同じ波がエネルギーセクターに押し寄せている。
「屋根」という固定資産を個人が所有・管理するのではなく、専門事業者がシステムを設置・保守し、居住者は割安な電力を購入するだけでよい。15年の契約期間終了後はシステムが無償譲渡されるため、長期的な資産形成にもつながる構造だ。住宅購入者にとってはランニングコストの削減と脱炭素への貢献を同時に実現できる、いわば「ゼロリスクの再エネ導入」である。
エネルギー政策研究家の佐伯俊也氏は、こうした分散型モデルの意義をこう語る。
「日本のエネルギーシステムは長年、大規模集中型の発電・送電モデルに依存してきた。しかし、気候変動が激化する中で、各家庭が発電拠点になる分散型モデルの優位性は明らかです。送電ロスが少なく、大規模災害時の停電リスクも低減できる。PPAモデルは、こうした分散化をファイナンスの力で一気に加速させる仕組みとして、行政と民間の双方から高く評価されています」
住宅用太陽光の普及が本格化した先には、さらに大きな構造変化が待っている。蓄電池との組み合わせによる昼夜の電力平準化、EV(電気自動車)を大型蓄電池として活用するV2H(Vehicle to Home)、そして複数の分散電源を束ねるVPP(仮想発電所)ビジネスへの展開だ。
FIT満了を迎える住宅約100万戸のうち、2030年までに約60万台の蓄電池が導入されると見通されており、卒FIT後のエネルギー自家消費市場も急速に立ち上がる見込みだ。シェアリングエネルギーはすでにTeslaとの協業でVPP実証事業を完遂しており、太陽光設置済みの家庭を起点に、より高度なエネルギーマネジメントサービスへ展開する布石を打っている。
さらに注目されるのが、アワリーマッチングの動向だ。これは24時間365日の時間帯ごとに「どの時間に再生可能エネルギーを使ったか」を証明・管理する仕組みで、企業のScope 2(エネルギー由来の間接排出)のGHGプロトコル対応や、RE100達成の精度を高める重要なインフラとなりつつある。同社もこの領域の推進を表明しており、住宅から始まった分散電源ネットワークが企業の脱炭素戦略とシームレスにつながっていく将来像が見えてくる。
物価高騰などによる住宅取得費の高騰を背景に、初期費用を軽減できるPPA事業モデルの需要が増しており、2025年度頃から新築住宅への太陽光発電設置が義務化された地域では導入が一般化しつつある。家に電気やガスの配管が当たり前のように整備されているように、太陽光発電が新築住宅の「標準装備」になる時代は、思いのほか早く訪れるかもしれない。
太陽光発電が「終わった市場」ではなく、「ビジネスモデルの刷新によって真の社会インフラへと脱皮する黎明期」にあることは、276億円という累計調達額と、それを支える投資家の顔ぶれが雄弁に物語っている。住宅を選ぶときも、資産を運用するときも、エネルギーは今やビジネスパーソンが無視できない変数になりつつある。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=佐伯俊也/エネルギー政策研究家)