営業利益2700億円、2期連続最高益のイオン…3重苦でも収益を生む「裏の設計図」

「GMSを集客装置として位置づけ、利益は周辺事業で刈り取るというモデルは、流通業では教科書的な考え方ですが、これを10兆円規模で実装できている企業は国内では事実上イオンだけです。特にヘルス&ウエルネスの利益成長は、高齢化という長期トレンドをそのままビジネスモデルに転写した結果ともいえます」(同)

 原材料高騰が直撃する食品小売単体では利益を出しにくい局面でも、サービス・金融・不動産がバッファとなる。この「リスク分散の設計」こそ、3重苦を乗り越えた構造的な理由だ。

省人化の目的は「人件費削減」ではなく「人材の再配置」

 2020年から展開を開始した顧客自身がスマートフォンでバーコードをスキャンして精算する「レジゴー」は、2024年6月に300店舗を突破した。注目すべきは単純な「レジ人員の削減」にとどまらない効果だ。イオンリテールが明らかにしているデータによれば、レジゴー利用者の客単価は通常レジ比で約1.3倍高く、買い上げ点数も有人レジ比で15%増加するという。

 この数字は、レジ待ちから解放された顧客が売り場での回遊時間を増やしていることを示唆している。一方で、レジ業務から解放された従業員は惣菜製造や売り場管理など、より高付加価値な業務に再配置される。つまりレジゴーは「コスト削減ツール」ではなく「人的資源の再配置インフラ」として機能しているのだ。

 加えて、発注・見切り値引きのAI化も進んでいる。長らくベテランの経験知に依存してきたこの領域をアルゴリズムに移行することで、食品廃棄ロスの削減と粗利率の改善を同時に狙う取り組みは、今期の「GMS二桁増益」の要因の一つと見られる。

光の裏側…最高益が覆い隠す構造的リスク

 公正を期すため、課題も直視しなければならない。

 まず、SM(スーパーマーケット)・DS(ディスカウントストア)・総合金融は増収ながら今期減益となっており、グループ内での稼ぐ力の格差は拡大している。ヘルス&ウエルネス分野ではウエルシアとツルハの統合推進が続いているが、統合コストや競合との消耗戦が今後の利益を圧迫するリスクもある。

 次に、地方インフラ化の進行という問題がある。地方でイオンモールが唯一の商業施設となったエリアは増えているが、その地域自体の人口減少・購買力の低下は長期的な収益のリスクだ。集客力を背景にした不動産モデルが持続するには、来店需要の維持が前提となる。

 そして、2027年2月期の業績見通しについて同社は「個人消費は緩やかな回復を見込む一方、物価上昇の影響の残存やエネルギーコストへの懸念が続く」と慎重な姿勢を示している。現在の収益改善は構造改革の蓄積が実を結んだものだが、次の成長ドライバーとして海外事業や新領域でのビジネスモデル構築が問われる局面が来る。

イオンから学ぶべき3つの問い

 最後に、イオンの経営設計から抽出できる普遍的な教訓を整理する。

「自社の『トップバリュ』は何か?」 単なる値下げではなく、調達・製造に深く関与してコストをコントロールできる自社ブランド資産を育てられているか。価格競争からの脱却は、販売側の努力よりも仕入れ構造の設計で決まる。

「集客とマネタイズを切り離しているか?」 コスト高の時代、すべての商品・サービスから均一に利益を取ろうとする発想は通用しない。集客のための「薄利・赤字部門」を、金融・情報・サービスなどストック型の高利益部門で回収する複層的な収益設計が求められる。

「デジタル投資の目的を問い直しているか?」 省人化で浮いたコストをそのまま利益に落とすのか、それとも解放された人材を自社の強みに再投資するのか。この問いへの答えが、DX投資の「効率化止まり」と「付加価値創出」を分ける分岐点となる。

 10兆円を超えるグループが成し遂げた最高益の裏には、規模の経済だけでは説明できない「収益構造の設計思想」があった。その本質は、大企業にも中堅・中小企業にも等しく問いかけるものだ。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=高野輝/戦略コンサルタント)