最後に、より根本的な問いを置きたい。
1.9兆円という資金と、洋上風力に割くエネルギーを、日本が技術的な優位を持つ別の分野——たとえばペロブスカイト太陽電池——に向けることはできないか、という議論は依然として有効だ。
薄く、軽く、フレキシブルなペロブスカイト太陽電池は、ビルの外壁やインフラ施設への設置が可能で、「漁業権調整」も「レーダー干渉」も必要としない。海上工事という重い社会的コストとも無縁だ。中国依存という安保リスクを最小化しながら、日本の国土特性(急峻な地形・密集した都市)に適した発電技術として、製造業・化学メーカーが量産投資を加速させている。
「洋上風力と太陽光は競合ではなくどちらも必要」という政策的立場は理解できる。しかし、国民負担と政策資源は有限だ。国内製造基盤が育っていない段階での洋上風力への過重な傾注が、ペロブスカイトなど真に「日本が勝てる分野」への投資機会を圧迫していないか、という視点は持ち続けるべきだろう。
「洋上風力発電のコスト低減が期待しづらいということであれば、なぜ洋上風力に大きな支援を行うのかを問い直さねばならない。三菱商事の撤退を契機として、わが国のエネルギーミックスが過度に再エネに夢を抱いたものになっていないか、改めて検証する必要があろう」——これは国内シンクタンクによる三菱商事撤退後の分析の一節だが、その問いはいまも有効だ。
日英「1.9兆円」合意は、浮体式技術の国際的な地歩を固めるという戦略的根拠を持つ。だが、それが真に日本の「エネルギー主権」を高めるものになるか、それとも他国の地政学的思惑に巻き込まれたコスト負担になるかは、今後の交渉詳細と国内への還元策次第だ。首脳会談の「合意」は出発点に過ぎない。内実を問い続けることが、メディアと国民双方に求められている。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=佐伯俊也/エネルギー政策研究家)