「焼肉店倒産57件」と「焼肉きんぐ最高益」の同時進行…明暗を分けた3つの経営判断

 その状況下で、焼肉きんぐを擁する物語コーポレーションが示したのは、「規模の大きさ」でも「運の良さ」でもなく、3つの経営判断の正しさだ。

 第一に、「安さ以外の選ばれる理由」を持っていたか。 機能価値(安さ・量・速さ)だけを競争軸にした企業は、コスト高の局面で最初に体力を失う。情緒価値(体験・共感・物語)を競争軸に組み込んでいた企業は、価格転嫁を伴いながらも顧客を繋ぎ止めることができる。

 第二に、コスト高を「価格転嫁」に昇華できたか。 単純な値上げは顧客離れを招くが、「体験価値の向上とセットにした価格の再設定」は顧客の納得を引き出す。値決めとは経営の意思表示であり、競争環境における自社のポジショニングの宣言でもある。

 第三に、業務効率化で生まれたリソースを「コアな価値提供」に再投資できたか。 DXは削減ではなく再配分のための道具だ。省いた作業コストを、顧客が感動する体験に再投入できた企業だけが、効率化と顧客満足の両立を実現できる。

「引き潮」の時代——市場が縮み、コストが上がり、競合が多様化する局面——にこそ、企業の本質的な実力が問われる。焼肉業界の明暗は、その問いに対する経営判断の差が、最もダイレクトに業績として可視化された事例として、業界を問わず多くのビジネスパーソンに示唆を与えている。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=永田由紀/流通コンサルタント)