その論理は数字に表れる。例えば売上1兆円の製造業は、調達額が約6000億円に達する。0.1%の原価低減でも6億円。0.5%なら30億円だ。顧客の稟議書にはその数字が書かれ、A1Aへの投資対効果として計上される。結果として、大手顧客1社あたりの年間単価は4〜5000万円に達するケースもある。
市場規模への懸念については、自動車業界に絞った対象企業数が約250社しかないという問題を正面から認め、こう答えた。
「社数が少ない分、単価を上げるしかない。でも、それが成り立つのは、お客さまんの稟議書に原価低減30億円という数字が書けるからです」
数で勝てない市場では、単価で勝負する。その論理が投資家を納得させたのだ。

自動車業界の購買部門は、外部ツール導入に最も消極的な領域のひとつとされてきた。前例踏襲、自社専用のレガシーEDIへの依存。「コンサバ」という評判は今も健在だ。
だが松原氏は、その評判を否定しなかった。コンサバであることを前提に、戦略を組み立てた。
「コンサバではあります。でも、危機感が強い会社から導入が進みました」
製造業にとって原価低減が重要な理由は、実は2つある。松原氏はそう整理する。
ひとつは利益防衛だ。トヨタの決算を見ると、売上は伸び続けているのに営業利益は減っている。コロナ以降、企業間取引の物価は大幅に上昇した。原材料費、エネルギー費、人件費……あらゆるコストが上がり続けている。市況に左右されない部分で原価を下げなければ、利益が取れない構造になっている。
「市況によらない部分で原価低減していかないと、利益が出せない状況になっているんです」
もうひとつは競争力の問題だ。ハンドルでもサンルーフでも、日本の部品メーカーが長年誇ってきた「品質の高さ」は、中国企業の急速な追い上げによって差別化の根拠として機能しにくくなっている。品質が横並びになれば、残る武器はコストしかない。
「安心・安全というゾーンはある。でも、それを飛び越える何かって、もうそんなにないんですよ。そうなったら、コストの差で見るしかないのです」
2つの圧力が同時にかかる中で、自動車業界の調達部門は静かに、しかし確実に変わっていた。コンサバであることと、危機感を持つことは矛盾しない。むしろ松原氏は、危機感が強いからこそ動けると言う。
「日本企業の特徴なんじゃないかと思います。危機感が強くなると、動くのです」
この構造を読み切った上で、危機感の強い会社から順番に導入されていった。それが、大手7社中4社という実績の裏側にある戦略だ。
調達部門のベテランが経験と勘に頼ってきたのは、意志の問題ではない。構造の問題だ。
調達部門は、社内の他部署からも、サプライヤーからも情報を受け取る立場にある。しかし、自分たちで情報を生み出しているわけではない。営業が見積もりを作り、設計が図面を描くのとは違い、調達の情報は外から来る。バラバラのフォーマットで届く大量の情報を管理するには、「徹底した管理ルールを作るか、全部転記するか」の二択しかない。
だが、車1台で約3万点の部品が存在する。そんな秩序だった管理など、現実には成り立たない。
「これまで、管理する手段や仕組みがないから属人化するしかなかった。勘と経験で勝負するしかなかったのは、構造的な必然だったんです」
UPCYCLEが解いているのは、技術の問題ではなく、この構造問題だ。
調達した10億円を「広告費には使いません」と松原氏は言い切る。テレビCMを打っても、250社しかない自動車OEMの顧客は増えにくい。大量の営業員を並べても、エンプラの受注は増えない。