なぜ「所有」ではなく「金融スキーム」なのか
SBI側が公表した資料を読むと、その狙いは単なる「金融によるコンテンツ支援」にとどまらないことがわかる。SBIネオメディアホールディングスは、IPの創出から製作・発信・拡散・収益化・ファンコミュニティ形成までを一気通貫で支援し、それを金融サービスや投資機能、Web3基盤と接続することで「感情経済圏」と呼ぶ新たな経済圏の形成を目指すとしている。日テレのようにIPそのものを自社で抱え込むのではなく、金融の仕組みを介してファンや投資家の資金を呼び込み、そこから収益を還流させる——コンテンツの「所有者」ではなく「プラットフォーマー」としての立ち位置を志向している点が、他局との決定的な違いだ。
「テレビ局が自前でIPを抱え込むには巨額の制作費と時間がかかる。フジの選択は、コンテンツを直接保有するより、金融の仕組みで外部資金を呼び込み、そこから収益を得る”胴元”型のポジションを取りにいったとも解釈できる」(メディア業界に詳しい証券アナリスト)
アクティビスト対策としての「安定株主」
もう一点見逃せないのが、フジの厳しい経営環境そのものだ。FMHは2026年3月期に87億円の営業赤字を計上し、認定放送持株会社に移行した2008年以降で初の赤字に転落した。一方で、村上世彰氏が関わる投資会社レノや米ダルトン・インベストメンツといったアクティビストは、不動産子会社サンケイビルのスピンオフ(分離)を繰り返し要求しており、フジのPBR(株価純資産倍率)は1倍を下回る水準で推移してきた。こうした状況下で、経営への重要提案を行わない立場を保ちながら関係を深めるSBIとの提携強化は、外部資本による経営関与圧力に対する一定の緩衝材として機能しうる。資産(お台場の土地や保有株式)に対して株価が割安なフジHDにとって、百戦錬磨の金融グループを安定株主に迎えることは、他のアクティビストに対する牽制にもなり得る。
さらに注目すべきは、SBIが地方銀行との連携で培ってきたノウハウだ。SBIは2019年以降「第4のメガバンク構想」を掲げ、島根銀行や福島銀行など全国9行の地方銀行と資本業務提携を結び、「リージョナルからネーションワイドへ」を合言葉に、地方金融機関のデジタル化と広域ネットワーク化を支援してきた。資本関係を持たずとも中核となって地域金融機関を束ねる「分散型の連合体」というのがSBI流のやり方だ。
フジ系列(FNN/FNS)は全国に系列局を持つネットワークであり、人口減少と広告市場の縮小に伴って経営基盤が細る地方局は少なくない。SBIが地銀連携で磨いてきた「緩やかな連合による再生モデル」が、系列局ネットワークに応用される可能性があるかどうか——現時点で両社はそこまで踏み込んで明言していないが、SBIのこれまでの事業展開パターンを踏まえれば、今後注視すべき論点だろう。
「SBIの地銀連携は、出資先を丸ごと子会社化するのではなく、システムやノウハウを共有しながら緩やかに束ねる”分散型連合”が特徴。同じ発想がテレビの地方局ネットワークに持ち込まれるなら、系列局の経営効率化と引き換えに、SBIの金融インフラが地域メディアの隅々まで浸透していく可能性があります」(金融アナリストの川﨑一幸氏)
日本テレビとテレビ朝日は、それぞれコンテンツと通信インフラという「メディアの延長線上」で勝負する。TBSは不動産という「本業以外の確実な収益源」で経営を安定させる。そしてフジは、メディアという事業の枠組みそのものを、金融プラットフォームに接続し直そうとしている。
最もプライドを賭けた選択をしたのはフジかもしれない。金融のプロフェッショナルであるSBIとの関係を深めることは、コンテンツ制作やメディア経営のノウハウを外部に委ねるリスクと表裏一体であり、一歩間違えれば「メディアの主導権」を金融資本に譲り渡す結果にもなりかねない。しかし、地上波モデルの縮小スピードを考えれば、既存の枠組みにとらわれない選択こそが、結果的に生き残りの近道になる可能性もある。各局の異業種連合が今後どのような果実を結ぶか、事業の進捗を注視したい。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=川﨑一幸/金融アナリスト)