一方のホンダは、2021年に「2040年までに四輪車の世界販売をすべてEVと燃料電池車にする」という、自動車大手としては踏み込んだ目標を掲げていた。エンジン技術を強みとしてきたホンダが脱エンジンを宣言したことは当時大きな注目を集めたが、結果としてこの目標が、需要の見通しが定まらない段階での過大な先行投資につながった面は否めない。
2026年3月の発表では、北米市場をメインに想定していた新型EV3車種の開発中止に伴い、資産の除却・減損費用などで最大1兆3000億円規模の損失を2026年3月期に計上するとされた。米国では、バイデン前政権が導入したEV購入支援策(7500ドルの税額控除)が撤廃され、カリフォルニア州を中心とした排出規制の先行きも不透明になっている。ホンダにとって北米は四輪事業の収益の柱であり、その市場でのEV需要鈍化は経営への打撃が大きかった。
三部社長は記者会見で、このまま量産・販売段階に進めば将来的な損失拡大を招きかねないとして、早期に損失を確定させる「止血」の判断だったと説明している。経営責任を明確にするため、自身を含む経営陣の報酬を一部返上する措置も発表された。ホンダは2026年度と2027年度を業績の「底」と位置づけ、2028年度以降の収益回復を目指すとしている。
日本の2社だけが立ち止まっているわけではない。欧州勢を見ても、メルセデス・ベンツは2030年までに「市場環境が許す限り」新車をすべてEVにするとしていた目標を撤回し、プラグインハイブリッド車やエンジン車の販売継続を明言した。フォルクスワーゲンも工場再編や人員削減を伴うEV戦略の見直しを進めており、米ゼネラル・モーターズやフォードもEVからハイブリッド車へと開発の重心を移している。
一方で、EV市場そのものが縮小しているわけではない点には注意が必要だ。欧州ではEV購入補助金を再導入した国もあり、2026年に入ってからの販売は前年同月比で増加傾向にある地域も見られる。中国では新エネルギー車の比率が新車販売の半数近くに達しており、BYDなど中国メーカーは海外展開を加速させている。つまり世界全体で見れば、EVシフトが完全に止まったというより、地域差をともないながら「想定より緩やかなペースでの普及」という踊り場局面に入った、というのが実態に近い。
自動車アナリストの荻野博文氏は「EVへの投資を止めることと、EVを諦めることはまったく別の話。要素技術の開発を続けながら量産投入のタイミングを市場の成熟度に合わせて調整するのは、製造業としてはむしろ王道のリスク管理」と指摘する。そのうえで「問題はホンダのように、目標とコミットメントを急ぎすぎたケース。減損の規模が大きいほど、経営体力への負荷も大きくなる」と分析している。
トヨタのLF-ZC開発中止とホンダの大型減損は、表面的には「EVで出遅れた日本車の苦境」と映りやすい。しかし実際には、世界的なEV需要の変調という共通の市場環境のなかで、各社が投資のタイミングと規模を見直しているにすぎない側面が大きい。トヨタは技術開発を継続しながら投入車種を絞り込み、ホンダは損失を早期に確定させたうえで収益基盤の立て直しに動いている。
今後の焦点は、各社が温存した技術力をいつ、どのモデルで市場に投入できるかに移る。HEVやPHEVで足元の収益を確保しながら、全固体電池やソフトウェア・ディファインド・ビークル(SDV)といった次世代技術をどこまで磨けるか――。EVをめぐる競争は終わったのではなく、「持久戦」の局面に入ったと見るのが妥当だろう。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=荻野博文/自動車アナリスト)