英BP「山形沖撤退」検討の衝撃…世界で失速する洋上風力、日本勢を待つコスト地獄

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●この記事のポイント
英BPが山形県遊佐町沖の洋上風力発電事業から撤退を検討している背景を起点に、世界的なインフレや金利上昇で洋上風力投資が見直される現状を解説。BPの再エネ戦略転換や三菱商事案件の採算悪化、日本特有の高コスト構造、政府の導入目標とのギャップ、FIT・FIP制度や電気料金への影響まで整理し、日本の洋上風力政策が抱える課題と今後の論点を考察する。

 再エネの切り札と目されてきた洋上風力発電が、世界的なインフレとコスト高騰という「逆風」にさらされている。そんななかで、英石油大手BPが山形県遊佐町沖の洋上風力事業から撤退する方向で調整に入ったことが明らかになった。

 なぜ世界的なエネルギー企業は日本の有望案件から身を引こうとしているのか。そして、なぜ日本だけがこの厳しい事業環境の中で洋上風力への投資を続けようとしているのか。山形沖をめぐる期待と現実、そして残された国内勢が直面する課題を整理する。

●目次

BPの「冷徹な判断」が突きつけた現実

 複数の関係者によると、BPは丸紅が主導し関西電力、東京ガス、建設会社の丸高(山形県酒田市)が参加する事業連合から脱退する方向で協議に入った。山形県遊佐町沖のこの事業は経済産業省と国土交通省の公募により2024年12月に丸紅連合が選定されたもので、発電容量は45万キロワット、2030年6月の運転開始を目指している。丸紅側は「決まった事実はない」としており、BP英国本社も明言を避けているが、丸紅連合自体は事業を継続する方針だ。BPが撤退を検討している具体的な理由は明らかにされていないが、世界的な資材高騰により事業環境が厳しさを増していたことが背景にあるとみられている。

「洋上風力では、発電量の予測だけでなく、建設費、金利、為替、部材調達、海底地盤、工期遅延を一体で管理する必要があります。出資者が1社抜けたからといって直ちに事業が成立しなくなるわけではありませんが、資金調達条件やリスク分担を見直さざるを得ない可能性は高い。特に重要なのは、BPが保有していた役割とリスク負担を、残る企業がどこまで引き受けるかです」(エネルギー政策研究家の佐伯俊也氏)

 これは一企業の投資判断にとどまらない。海外の大手エネルギー企業が日本の洋上風力事業から距離を置く動きが相次いでいるという事実そのものが、日本の再エネ政策が置かれた状況を映し出している。

世界的に見直しが進む洋上風力投資

 洋上風力をめぐる逆風は、日本だけの現象ではない。欧米では資材価格や人件費の高騰、金利上昇によって開発コストが計画時から大きく膨らみ、事業の採算性が崩れる例が相次いでいる。

 象徴的なのがBP自身の方針転換だ。BPは2020年当時、2030年までに再生可能エネルギーの発電容量を2019年比20倍の50ギガワットに引き上げるとし、低炭素分野への投資を年50億ドル規模に拡大するとしていた。しかし2025年2月、この目標を撤回し、再エネ中心の投資額を8億ドル未満に大幅縮小すると発表。同時に石油・ガスの増産に転じる方針を示した。

 背景には、株式の5%を保有するアクティビスト(物言う株主)エリオット・インベストメント・マネジメントによるコスト規律の要求や、2023年から2024年にかけての業績・株価の低迷があったとされる。BPは同時期、正社員約5000人、契約社員約3000人の削減も発表しており、米国の陸上風力発電事業も売却する方針を打ち出している。石油メジャーの間で再エネ投資に最も積極的だったBPのこうした転換は、業界全体の潮流を象徴する出来事といえる。