「BPの戦略転換を『脱炭素の終わり』と捉えるのは正確ではありません。より本質的なのは、再エネであっても採算性と資本効率を厳しく問われる段階に入ったことです。低金利と資材安を前提に組まれた案件は、現在の金融・物価環境では成立しにくい。政府の長期目標が維持されても、個別企業が同じ速度で投資を続けるとは限りません」(同)
一方、日本政府は洋上風力を「再エネ主力電源化の切り札」と位置付け、2030年までに10ギガワット、2040年までに30~45ギガワットの案件形成という導入目標を掲げている。四方を海に囲まれ、陸上での再エネ適地が限られる日本にとって、洋上風力は数少ない大規模導入が可能な再エネ電源とされてきた。
もっとも、この目標はあくまで国の認定を受けた「案件形成」の目標であり、実際に運転を開始した容量を意味するものではない点には注意が必要だ。専門機関の分析では、目標達成のみでは2030年の温室効果ガス排出削減目標に十分寄与するとはいえず、認定された案件を実際に早期稼働させるための追加施策が必要だと指摘されている。
こうした高い目標が独り歩きするなか、国内では第1ラウンドで選定された事業の一部がすでに撤退や見直しに追い込まれている。三菱商事グループは2021年の入札で千葉県銚子沖、秋田県能代・由利本荘沖の3海域を極めて低い価格で一括落札したが、その後のインフレや円安、金利上昇、海底地盤調査による設計変更などが重なり、風車調達費用が公募時の想定から2倍以上に膨らんだとされる。経済産業省・国土交通省の合同会議による分析でも、こうした事業環境の変化が撤退の要因になった可能性が指摘されている。すでに数百億円規模の減損損失が計上されており、政府はこの経緯を踏まえて公募制度の見直しを進めている段階だ。
山形沖のプロジェクトをめぐっては、基地港湾の整備や地元企業のサプライチェーン参入、関連産業の集積など、地域経済への波及効果への期待が寄せられてきた。洋上風力は風車1基あたり1万~2万点にのぼる部品を要し、造船や建設、メンテナンスなど裾野の広い産業であるため、地方港湾都市にとっては新たな雇用創出の機会として注目されてきた経緯がある。
こうした期待自体は不合理なものではない。しかし、事業の採算性が国際的な資材価格や金利動向に大きく左右される以上、地域振興の前提となる事業計画そのものが外部環境の変化によって揺らぎうるという現実も、今回のBPの動きは改めて示したといえる。外資系企業の関与が薄まれば、大型プロジェクトに必要な資金調達力やプロジェクトマネジメントのノウハウをどう補うかが、地域にとっても切実な課題として浮上する。
BPが持っていたとされる大規模洋上風力プロジェクトの海外での開発実績やグローバルな資材調達網は、国内企業が一朝一夕に代替できるものではない。洋上風力は着工から運転開始までのリードタイムが長く、風車本体は依然としてヴェスタスやシーメンス・ガメサといった海外メーカーへの依存度が高い。円安が続けば、輸入する主要機材のコストはさらに膨らみやすい構造にある。
自然エネルギー財団などの分析によれば、日本の洋上風力の設備投資費用は、台風・地震への耐性を踏まえた風車の認証要件や、複雑な海底地質による据付コストの増加などから、欧州の参照ケースに比べて2割程度高いと試算されている。加えて、送電網への接続にあたって変電所増強費用を開発事業者側が負担する制度設計も、コスト増の一因として指摘されている。こうした構造的なコスト高は、外資の有無にかかわらず国内事業者が向き合わざるを得ない課題である。