
●この記事のポイント
京都・清水寺参道に2026年5月開業した無印良品の宿「MUJI BASE KYOTO kiyomizu」。全18室、40年営業したホテルを改装し、早朝ガイドツアーなど「アンチ観光」体験を提供する。オーバーツーリズムに悩む京都で、関係人口を育てる異業種発の地方創生モデルとして注目される仕組みを、最新データと専門家の視点から読み解く。
清水寺へと続く石畳。土産物店が軒を連ねる参道のすぐそばに、2026年5月20日、無印良品を展開する良品計画が新しい宿泊施設をオープンした。その名も「MUJI BASE KYOTO kiyomizu」。全18室、家具や家電、アメニティの約9割を実際に店舗で販売されている無印良品の商品で構成するという、一見すると「無印良品のショールーム」のようなホテルだ。
だが、このホテルが業界内外で話題になっているのは、内装の統一感だけが理由ではない。日本経済新聞は、このホテルを「アンチ観光」というキーワードで紹介した。観光名所を巡らせるのではなく、あえて「何もない日常」を体験させることで、観光公害(オーバーツーリズム)に一石を投じようという狙いがあるという。
京都だけの話ではない。訪日外国人の急増によって、日本各地の観光地で「観光客公害」とも呼べる現象が顕在化している。観光消費額という経済指標は伸びる一方で、混雑や交通渋滞、ゴミ問題によって地元住民の生活が圧迫される――そんな歪みが各地で報告されている。なぜ今、生活雑貨を売る小売大手がこの課題に乗り出し、旅行業界からも注目を集めているのか。その背景を読み解いていく。
●目次
京都市の観光総合調査によれば、2024年の市内観光客数は約5,606万人、宿泊客数は約1,630万人に達し、うち外国人宿泊客数は約821万人と過去最高を記録した。市バスの混雑が常態化し、通勤・通学で利用する住民が乗車できないといった声も報告されている。同時に、外国人観光客が2024年に初めて1,000万人を突破する一方、日本人宿泊客数は減少に転じたとの調査もあり、「日本人の京都離れ」という言葉も聞かれるようになった。
もっとも、この問題を単純に「インバウンドの増えすぎ」と断じることには異論もある。観光庁の統計では、2024年の日本人国内旅行者数(延べ人数)は5億3,995万人であるのに対し、訪日外国人は3,687万人。全体に占めるインバウンドの比率は6.4%にすぎないという指摘だ。
一方でインバウンドの消費額は8兆1,257億円と、旅行消費額全体の24.4%を占める。つまり「量」としてはまだ限定的だが、特定のエリア・時間帯に消費と人流が集中することで、局地的な混雑と住民負担が発生しているというのが実態に近い。国も対応に動いており、関係省庁による「オーバーツーリズムの未然防止・抑制に関する対策会議」がすでに開催されている。
観光政策アナリストの湯浅郁夫氏は、次のように話す。
「オーバーツーリズムは総量の問題ではなく、局所集中の問題です。清水寺や嵐山のように、限られた面積・時間帯に観光動線が集中するエリアでは、たとえ全体の観光客数がそこまで多くなくても、住民の生活実感としては“溢れている”状態になる。分散化と滞在の質の転換が同時に必要な段階に来ています」