とはいえ、この取り組みが「儲かるビジネス」として成立しているかは別問題だ。MUJI BASE KYOTO kiyomizuの宿泊料金は1泊1室2万600円からで、全18室という小規模施設である。宿泊料や有料ガイドツアーの収益だけで、投下した改装コストを大きく上回る収益を生み出す構造にはなりにくい。
良品計画が本当に狙っているのは、単体施設の収支ではなく、グループ全体の顧客生涯価値(LTV)の向上だろう。同社は2025年9月、従来の会員アプリ「MUJI passport」を全面刷新し、「MUJIアプリ」として再スタートさせた。マイル制度を廃止し、買い物だけでなく寄付や地域活動支援にもポイントを使える新プログラム「MUJI GOOD PROGRAM」を導入している。MUJI BASEでの滞在体験を通じてブランドへの愛着を深めた顧客が、帰宅後も無印良品の店舗やネットストアで継続的に購買する、あるいは地域の特産品開発・販売に波及する――という、宿泊単体では完結しないエコシステムを設計していると見るのが自然だ。
一方で、このモデルには明確な限界もある。第一に、展開スピードの遅さだ。空き家や廃校、閉館ホテルを見つけ、地域のキーマンや自治体と泥臭い関係構築を重ねる必要があり、5施設で約3年というペースはお世辞にも速いとは言えない。第二に、スケール化のしにくさだ。均質なチェーン展開を前提とするホテルビジネスとは異なり、1棟ごとに地域性を反映したカスタマイズが必要なため、量産型のビジネスモデルにはなりづらい。短期的な収益インパクトは限定的と見ておくべきだろう。
無印良品の事例が示すのは、アパレルや家具、食といった強い世界観を持つライフスタイル企業が、観光・宿泊という領域に参入する余地が広がっているということだ。旅行業界が磨いてきた「効率よく名所を回らせる」ノウハウとは別の軸――「どんな暮らしの物語に共感してもらうか」という軸で、旅行者との関係を築く動きは、今後ほかの異業種にも広がる可能性がある。
単に「モノを売る」「観光客を集める」という発想だけでは、これからの地方創生も自社のブランド価値向上も立ち行かなくなりつつある。地域が抱える課題(オーバーツーリズムや遊休不動産、人口減少)を自社の価値観・世界観と掛け合わせ、一度きりの消費ではなく継続的な関係性を設計すること。それこそが、これからの地方創生とサステナブル経営を両立させる鍵になるはずだ。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=湯浅郁夫/観光政策アナリスト)