もっとも、市場が広がっただけでは、利益率が売上の伸びを上回る理由の説明にはならない。ここで効いてくるのが、防犯ビジネスのモデルそのものの進化だ。
従来型のビジネスは、カメラやセンサーを販売・施工して終わりという「売り切り型」が主流だった。一度売ってしまえば取引はそこで完結し、次の受注のためにはまた新規開拓が必要になる。価格競争にも巻き込まれやすく、利益率を高めにくい構造だった。
これに対し、近年主流になりつつあるのが「機器代金+月額のクラウド利用料+AI解析機能+定期保守」を一体化したパッケージ型のサブスクリプションモデルである。矢野経済研究所の調査によれば、2024年度の監視カメラ・システムの国内市場は前年度比112.8%の2254億円となり、なかでもAIによる画像解析(VCA)とクラウドカメラサービスが市場拡大の中心的な牽引役になっている。スマートフォンアプリで映像をリアルタイム確認できたり、AIが不審な動きを自動検知して通知したりする高付加価値なサービスは、一度契約すると解約されにくいという特性を持つ。毎月の利用料が積み上がっていくストック型収益は、単発の機器販売に比べて限界利益率が高く、業績を下支えする効果が大きい。
「防犯業界の収益構造は、この数年で明らかに変わりました。かつては”売って終わり”のフロー型ビジネスだったのに対し、いまは月額課金によるストック収入の比率を高めるプレイヤーが増えています。一度契約者になってもらえれば、機器の耐用年数を超えて長期的に収益が得られる。この構造転換こそが、売上の伸び以上に利益が伸びている最大の要因だと見ています」(経済ジャーナリスト・岩井裕介氏)
TSRの調査でも、業界関係者が業績好調の背景として「昨今の防犯意識の高まりと、原材料や人件費高騰などで各社が価格転嫁を進めていること」を挙げている。値上げが受け入れられるほど「防犯」の優先順位が消費者・企業双方で上がっている点も、利益率改善を後押ししている。
防犯業界の好業績を語るうえで欠かせないのが、隣接する警備業界の深刻な人手不足だ。警察庁が2025年12月にまとめた資料によれば、同年9月時点の警備業の有効求人倍率は6.70倍と、全職業平均の1.10倍を大きく上回る水準にある。求人を出しても、応募がほとんど集まらない構造的な課題を、警備業界は長年抱えてきた。
一見すると、これは業界にとって深刻なマイナス要因に思える。しかし逆説的に、「人を確保できない」からこそ、テクノロジーによる省人化・自動化への投資が一気に加速したという側面がある。1人のオペレーターが数十台のカメラを遠隔監視し、AIが不審な滞留行動や不法侵入の兆候を自動検知したときだけ、人間が確認・対処に動く。こうした「AI監視+遠隔警備」の仕組みは、常駐警備員を配置するコストよりも安く済むケースが多く、警備会社・顧客の双方にメリットがある高利幅ソリューションとして急速に普及しつつある。
実際、警察庁も2025年12月、警備業界向けに「省力化投資促進プラン」を策定し、AIカメラや警備ロボットなど省力化機器の導入支援に乗り出している。同庁の資料でも、警備業は「過酷な労働環境・低賃金のため人手不足が深刻化している」と明記されており、業界を挙げてテクノロジーへのシフトが進んでいる実態がうかがえる。富士経済の調査でも、セキュリティ関連技術を活用したDXシステム・ソリューション市場は、2024年の1414億円から2029年には75.7%増の2484億円に拡大すると予測されており、住宅や製造現場、建設現場など幅広い分野での利用拡大が見込まれている。