すかいらーくHD、10年ぶり最高益の裏側…ネコ型ロボットで値上げと客離れ防止を両立

 さらに2024年11月には、アプリ会員向けに需要へ応じて割引額が変動する「ダイナミッククーポン」を導入した。客単価を確保したい都市部では定価に近い価格を維持しつつ、客離れが懸念される郊外店では割引で実質的な負担を抑えるという、値上げと客数維持を両立させる仕組みだ。

「接客しないこと」が引き寄せた「ソロ客」という金脈

省人化が「余計なお世話をされない快適さ」に転じた

 省人化DXは本来、コスト削減が目的だった。しかし結果として、これが新しい顧客体験としての価値を持ち始めている。「丁寧な接客こそが良いサービス」という従来の常識に対し、現代の一人客には「店員と話したくない」「注文を急かされたくない」「自分のペースで頼みたい」という潜在的なニーズがある。卓上タブレットで好きなタイミングに追加注文でき、配膳ロボットが料理を運び、会計もセルフレジで完結する動線は、こうした「ほっといてもらいたい」という心理と偶然にも合致した。

「これまで飲食店の接客は、いかに手厚く気を配るかが評価軸でした。しかし一人客にとっては、店員との会話それ自体が心理的なコストになり得ます。すかいらーくの無人化は結果的に、対人ストレスを取り除いた快適な滞在空間を提供することになった。これは狙って生まれたというより、省人化投資と消費者心理の変化が偶然噛み合った好例だと見ています」(同)

「ファミレスの書斎化」と客単価の押し上げ

 ガストには以前から、仕切り付きの一人席や電源・Wi-Fiを備えた席が用意されており、テレワークや学習、一人での食事・飲酒の場として利用されてきた経緯がある。無人化オペレーションによって「誰にも見られず、急かされず、長時間滞在できる」空間としての価値がさらに高まり、こうした席は在宅勤務者や受験生、一人での息抜きを求める社会人の受け皿になっている。

 滞在時間が延びれば、追加注文の機会も増える。卓上タブレットでの注文は、店員を呼び止める心理的なハードルがないぶん、「ワインをもう一杯」「デザートも追加で」といった注文が起こりやすい。既存店売上高の伸びが客数・客単価の両輪で支えられているという今回の決算は、こうした一人客の滞在価値向上が積み上がった結果とも解釈できる。

他業界にも応用できる「インフレ耐性」の作り方

「サービス」の再定義

 すかいらーくの事例が示すのは、すべての顧客が同じ濃度の接客を求めているわけではないという点だ。家族連れやビジネス利用など複数の客層を抱える外食チェーンにとって、ターゲットごとに「本当に必要なサービス」を見極め、過剰な部分をそぎ落とす判断力が、コスト構造の見直しにつながる。これは飲食業に限らず、小売や宿泊など労働集約型のサービス業全般に応用できる発想だろう。

「人手不足とコスト高が同時に進む局面では、『人にしかできないこと』と『機械に任せてよいこと』を切り分ける設計力が競争力の差になります。すかいらーくのケースは、その線引きを比較的早い段階から進めてきた成果が、インフレ耐性という形で表れたと言えるでしょう」(同)

 実際、ファミリーレストラン業界の月次動向を見ても、各社の戦略の違いは既存店売上高の伸び方に表れている。2026年1月の既存店売上高(前年同月比)は、すかいらーくが10.3%増だったのに対し、高回転・低価格路線を貫くサイゼリヤは21.6%増と、より高い伸びを記録した。省人化と価格戦略を組み合わせたすかいらーく型と、徹底した効率化で低価格を維持するサイゼリヤ型は、同じ「インフレ耐性」でもアプローチが異なる。どちらか一方が唯一の正解というより、自社の顧客層や立地特性に合わせて手法を選び取ることが重要だといえるだろう。