現場の疲弊を防ぐDXという視点
省人化DXのもう一つの意義は、人手不足下で現場を疲弊させずに事業を回す仕組みづくりにある。全スタッフに接客対応を求めるのではなく、定型作業をロボットやセルフレジに任せ、人間は清掃や調理品質の管理など、顧客体験の根幹に関わる業務に集中する。これにより、限られた人員でも店舗運営の質を維持しやすくなる。人的資本への負荷を抑えながら生産性を高めるという意味で、他業界の経営企画・DX担当者にとっても参考になる視点だ。
無人化がすべての客層に最適とは限らない
もっとも、省人化DXが万能というわけではない点には留意が必要だ。小さな子ども連れの家族客や高齢者の中には、スタッフによる細やかなサポートを求める層も一定数存在する。卓上タブレットの操作に不慣れな利用者への配慮や、トラブル発生時に人手で対応できる体制を残すことも欠かせない。すかいらーくが完全無人化ではなく、ロボットやタブレットと有人スタッフを併存させる設計を採っている点は、こうしたリスクへの目配りとも読み取れる。効率化の追求と顧客対応の丁寧さは、常にバランスの取れた設計が求められる。
すかいらーくの好決算は、単純な「値上げ成功ストーリー」として片づけられるものではない。地域別価格制やダイナミッククーポンによる精緻な価格戦略、配膳ロボットや卓上タブレットによる省人化投資、そして「ほっといてくれる」空間がもたらした一人客の滞在価値向上——これらが積み重なった結果として、今回の増益がある。
もともと生産性向上のために導入された省人化ツールが、変化する消費者心理と噛み合い、コスト削減と顧客満足の両立という思わぬ相乗効果を生んだ。これこそが、インフレ時代を生き抜くための「現代の構造改革」の正体だと言えるだろう。すかいらーくの取り組みは、価格転嫁の巧拙だけでなく、「顧客が本当に求めているものは何か」を問い直す好例として、外食に限らず幅広い業界にとって示唆に富む。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=杉田誠/外食産業コンサルタント)
【主な参照データ】
・決算:すかいらーく純利益22%増に上振れ 生産性磨きインフレに耐性 – 日本経済新聞
・すかいらーくホールディングス、今期最終を5%上方修正・最高益予想を上乗せ、配当も1円増額 – 株探
・すかいらーくHD 決算/1~6月増収増益、既存店売上高6.4%増・通期予想を上方修正 – 流通ニュース
・すかいらーく、純利益27%増 1~3月 – 日本経済新聞
・すかいらーくHD 決算/1~3月、既存店成長・原価低減で増収増益 – 流通ニュース
・すかいらーく、「ネコ型配膳ロボット」全国2100店舗に導入完了 どんな効果があった? – ITmedia ビジネス
・人間を雇うより、どれだけ安上がり? 配膳ロボットの人件費効果を計算してみた – ITmedia ビジネス
・ガストの猫型配膳ロボット「1台・330万円」が驚くほど安いといえる理由 – ビジネスジャーナル
・すかいらーく/ガスト・バーミヤンで地域別価格導入し値上げ – ダイヤモンド・チェーンストアオンライン
・ガスト、値上げしても客離れず すかいらーくHDの「二極化」戦略とは – ITmedia ビジネス
・ファミレス/1月既存店すかいらーく10.3%増、サイゼリヤ21.6%増 – 流通ニュース
・ガスト「ひとり客」向けボックス席が話題に 仕切り、電源、Wi-Fi…まるでネットカフェ – J-CAST