装備ゼロなのに数時間で受注1万件超…ベゾス出資のEVピックアップ「Slate」が爆売れ

テスラ・サイバートラックの脅威になり得るのか

「ラグジュアリー化するEV」へのアンチテーゼ
 対照的な動きを見せているのが、テスラの「サイバートラック」だ。2026年2月に一時5万9990ドルという廉価トリムを投入したものの、わずか10日後には6万9990ドルへ引き上げられ、同年8月にはさらに全トリムで5000ドルの値上げが実施された。現在の価格帯はデュアルモーターで7万4990ドル、プレミアムAWDで8万4990ドル、サイバービーストで9万9990ドルとなっている。半年で1万5000ドル以上値上がりした計算だ。テスラは車種別の販売台数を開示していないが、2026年第2四半期の決算資料からは、サイバートラックを含む「その他モデル」の販売が1万2364台にとどまったのに対し、主力のモデル3・モデルYは46万7762台に達したことが読み取れる。

直撃するターゲット層の違いと共通点
 テスラが自動運転技術やブランドイメージといった「未来感・ステータス」を軸に高価格帯を主戦場とするのに対し、Slateが狙うのはZ世代を含む実用主義的な層や、DIYでのカスタマイズを楽しみたい層だ。両者は同じ「電動ピックアップ」というカテゴリーにありながら、訴求する価値も価格帯もほぼ重ならない。

テスラが最も恐れる「低価格EVの量産化」
 もっとも、両社が無関係とは言い切れない。テスラは2万5000ドル前後の廉価モデル(通称「モデル2」)の投入を検討していたが、イーロン・マスクCEOは2024年10月の決算説明会で計画の凍結を認め、経営資源を自動運転タクシー「サイバーキャブ」(2人乗り、価格3万ドル程度、2026年生産開始予定)に集中させる方針へ転換した。結果として、テスラ自身が模索しながら実現できずにいた「2万5000ドル級EV」という市場を、Slateが先に可視化した格好だ。

「テスラが値上げと高付加価値化に傾く一方で、Slateのように”低価格帯の空白地帯”を突く新興勢が出てくるのは、ある意味で想定された展開です。ただしSlateにとって最大の関門は量産の立ち上げそのもの。インディアナ工場の稼働が計画通り進むかどうかが、この熱狂を実需に変えられるかの分水嶺になるでしょう」(同)

なぜSlateは「日本に入ってきにくい」のか

アメリカ優先の供給体制と右ハンドル化の壁
 Slateは現在、インディアナ州ワーソーにある延べ床面積約13万平方メートルの旧印刷工場を4億ドルかけて改装し、年産15万台規模への拡大を目指す段階にある。2026年4月には追加で6億5000万ドルを調達し、量産の次工程に充てると発表したばかりで、当面はスタートアップとしての生産能力そのものが最大の制約となる。左ハンドル専用で設計された車両を右ハンドル化するには専用の型式認証取得を含め相応の開発コストと時間がかかり、国内販売台数の見通しが立ちにくい段階での投資判断は容易ではない。

日本の安全基準・車検制度とのギャップ
 日本で新車を販売するには、歩行者保護性能や衝突安全性など道路運送車両の保安基準に適合し、国土交通省の型式指定を取得する必要がある。Slateのようにコストを徹底的に切り詰め、後付けアクセサリーで仕様を作り込んでいく設計思想は、完成車として基準適合を一括で証明する日本の制度とは相性が良いとは言えない可能性がある。

「激安EV」の強みを打ち消すコスト構造
 仮に正規輸入が実現しても、輸送費や関税、右ハンドル化・保安基準適合のための改修費が積み上がれば、米国での「約400万円」という価格優位性は目減りしかねない。並行輸入という形態も考えられるが、その場合はアフターサービスや部品供給の面で購入者側のリスクが増す。