絶対的王者「軽トラ・軽バン」の存在
そして何より、日本には狭い生活道路や駐車場事情に最適化された「軽自動車」という独自規格が存在する。全長3.4m以下・全幅1.48m以下という規格の中で、ダイハツ「ハイゼットトラック」やスズキ「キャリイ」といった軽トラックは、長年にわたり農業・商用の現場で圧倒的な支持を得てきた。しかも2026年2月には、ダイハツがスズキ・トヨタと共同開発した電動化ユニットを搭載する軽商用EV「e-ハイゼット カーゴ」「e-アトレー」を314万円台から発売しており、国内メーカー自身がすでに「軽サイズのEV」という解を提示し始めている。全幅約1.8mのSlateはそもそも日本の軽規格には収まらず、普通車として登録するにしても、取り回しの面では軽トラックに一日の長がある。
「日本の商用車ユーザーが求めているのは”安さ”だけでなく、狭い道でも取り回せるサイズと、故障時にすぐ部品が手に入る安心感です。Slateのコンセプトは魅力的ですが、日本市場に限って言えば、軽トラック・軽バンという極めて完成度の高い代替がすでに存在している点が最大のハードルになるでしょう」(同)
車の「家電化・スマホ化」が進むなか、Slateが示した「素うどん(ベース車)にトッピング(純正アクセサリー)を載せていく」というビジネスモデルは、EV産業における一つの重要な選択肢を提示したと言える。高価格化競争から距離を置き、車体そのものよりもエコシステムで稼ぐという発想は、今後、他の新興メーカーや既存メーカーの一部門にも波及していく可能性がある。
日本市場への直接参入は、右ハンドル化のコストや安全基準への適合、そして何より「軽トラック・軽バン」という強力な国産の選択肢の存在によって、当面は現実的とは言いにくい。実際、Slate自身も現時点で日本を含むアジア市場への進出計画を公表しておらず、まずは米国内での量産の立ち上げと納車の実現に経営資源を集中させている段階だ。しかし、同社が体現した「必要最小限の車体+後付けカスタムで稼ぐ」というエコシステム型のビジネスモデルは、軽自動車メーカーや用品(パーツ・アクセサリー)ブランドにとっても無視できない示唆を含んでいる。まだ量産の立ち上げ段階にあるSlateが、実際に納車を軌道に乗せられるかどうかは未知数だが、その動向は今後の自動車産業のあり方を占ううえで、注視に値するテーマであり続けるだろう。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=荻野博文/自動車アナリスト)
【主な参考データ・出典】
・TechCrunch「Slate Auto: Everything you need to know about the Bezos-backed EV startup」
・TechCrunch「Slate Auto’s radically simple electric truck starts at $24,950」
・TechCrunch「Slate Auto changes CEO months ahead of affordable EV launch」
・Notebookcheck「The electric Slate truck just got $7,500 more expensive」
・Motor1「The Slate Truck Is Way Smaller Than You Think」
・Yahoo Autos「Slate Truly Delivered On Its Sub-$25K EV Promise」
・Not a Tesla App「Tesla Raises Cybertruck Prices by $5,000」
・Forbes JAPAN「テスラが2万5000ドルの「モデル2」を断念」
・ダイハツ公式ニュースリリース「e-ハイゼット カーゴ・e-アトレー発売」
・fwbusiness.com「Slate Auto gives inside look at Warsaw factory」
・Gizmodo Japan「ジェフ・ベゾスも出資する400万円のコンパクトEVピックアップ」