大成建設、ゼネコン不況でも「利益率17%」の舞台裏…“脱・新築”でストック収益化

「新築偏重の収益モデルは、インフレ局面では“時間”そのものがコストリスクになる。改修工事への傾斜は単なる需要対応ではなく、時間軸の短い案件に資源を寄せることでインフレ耐性を確保する、極めて合理的なリスクマネジメントだ」(不動産ジャーナリスト・秋田智樹氏)

技術的参入障壁「居ながら施工」と価格決定権の確保

 改修工事の多くは、オフィスや商業施設を稼働させたまま進める「居ながら施工」を伴う。テナントを退去させずに騒音や振動を制御し、安全動線や資材搬入経路を限定された条件のなかで確保する施工管理には、新築工事とは異なる高度なエンジニアリングとマネジメント能力が求められる。

 この技術的な難易度の高さは、発注者であるビルオーナー側の経済合理性と結びついたとき、価格決定力の源泉に変わる。オーナーにとって、テナントを退去させずに工事を完了できることは、単なる「工事の巧拙」の問題ではない。賃料収入が途切れる空白期間(ダウンタイム)を作らずに済むという、事業機会損失の回避そのものが最大の価値になる。矢野経済研究所の調査(2026年発表)によれば、非住宅リニューアル市場は2024年度に11兆5900億円(前年度比2.8%増)、2025年度は11.8兆円程度(同2.1%増)に拡大すると見込まれており、その背景として「建設費高騰によりオーナーが新築から既存ストック活用へ投資方針を転換していること」「1980年代後半から90年代前半の建築物がリニューアル時期を迎えていること」「ZEB改修やBCP対策強化など高付加価値なリニューアル需要の活発化」が挙げられている。

 つまり発注者は、単に「工賃が安いか」ではなく「事業への影響を最小化できるか」を基準に発注先を選ぶようになっている。この土俵では、施工品質と情報優位性を持つ元施工ゼネコンが、価格競争に巻き込まれにくい適正価格での受注を実現しやすい。

「ビルオーナーにとって、改修中のダウンタイムはそのまま逸失賃料に直結する。発注先を選ぶ基準は工事費の多寡だけでなく、いかに稼働を止めずに価値を上げてくれるかという“事業継続の保証”に移りつつある。ここに価格の主導権が生まれる」(同)

「売り切り」から「ストックLTV最大化」へ

 この動きは大成建設一社の成功譚にとどまらない。大手ゼネコン各社は2026年3月期決算でそろって増益を確保しており、新築の受注規模(完成工事高)を競う時代から、竣工後のビルが生み出す収益をライフサイクル全体でどれだけ確実に回収できるかという「LTV(顧客生涯価値)」型の競争へと、業界内の重心が移りつつあることをうかがわせる。大成建設自身も中期経営計画とTAISEI VISION 2030達成計画において、2030年度に国内建築事業の売上総利益率10%以上、グループ純利益1500億円、ROE10.0%程度を目標に掲げ、リニューアル事業を「強みであり注力分野」と明記している。

 この構造転換は、建設業界にとどまらず、他産業にも普遍的な示唆を与える。新しい顧客や新しい製品を売り続けることで成長してきた「フロー獲得型」のビジネスモデルは、どの業界でも新規開拓コストの高騰という同じ壁に直面しつつある。製造業では既存設備の保守・大規模改修・機能アップデートで収益を積み上げる動きが広がり、ソフトウェア産業ではサブスクリプション型の継続課金モデルが主流になった。自動車業界でも、新車販売そのものより点検・整備・ソフトウェアアップデートによる継続収益への関心が高まっている。共通するのは、既存顧客が持つデータや関係性という「手元の資産」を起点に、確実な収益を積み上げる発想への転換である。