昭和初期。
幼くして“神童”と呼ばれた佐野正道は、村に根づく悪習――
家柄によって才能が踏み潰される理不尽を正すため、
旧制中学校で原田武を「番長」として据え、
貧しき者が力を持てる秩序を築き上げた。
だが、その変革は豪農・中島昭の憎悪を呼ぶ。
「貧乏人に学力で負けた」と親に罵られ続けた中島は、
原田への報復として十数人を差し向け、重傷を負わせた。
村の均衡を守るため、佐野は直接の報復を選ばない。
代わりに“呪い”という名の罠を仕掛けた。
古井戸に吊るされた一羽のカラス。
「十羽になれば、発端となった者が死ぬ」
その言葉に、中島は日ごと恐怖を募らせていくのであった。
文字数 1,198
最終更新日 2026.06.25
登録日 2026.06.25
河川敷の木の上に建つ小屋で、少年たちは“ケイちゃん”と遊んでいた。
同い年の友達だと信じていたその存在は、ある日を境に記憶から途切れ、
仲間たちの態度も変わっていく。
写真に写っていたのは、少年ではなく、
疲れた目をした三十代の男。
そして、河川敷の闇で札束を受け取る“誰か”の姿。
子供たちが忘れたのは、恐怖か、真実か。
ケイちゃんが守ろうとしたものは何だったのか。
大人になった主人公の前で、封じられた記憶の扉が静かに開き始める。
文字数 1,866
最終更新日 2026.06.24
登録日 2026.06.24
夏休み、祖母の実家を訪れた「俺」は、大学の仲間たちと渓流のほとりで花火を楽しむ。
手持ち花火から始まり、やがて大きな打ち上げ花火へ。
夜空が金色に染まるたび、向こう岸に小さな光が揺れているのに気づく。
最初は、向こうでも花火をしているのだと思っていた。
だが、こちらの花火が派手になるほど、向こうの光はどこか不自然に、寂しげに揺れていた――
文字数 1,061
最終更新日 2026.06.23
登録日 2026.06.23
元探偵の麻木真也は、放浪の旅の途中で漁港の町で幽霊の男・勘助と出会う。
勘助は、死の間際に見た“先祖の幽霊たち”が家に残した警告を家族に伝えてほしいと頼む。
真也が勘助の家を訪れると、
囲炉裏・床下・流し・大黒柱に、それぞれ“定位置で固まった先祖霊”が見える。
真也はそれらの行動を読み解き、家族へ伝える。
井戸水は汚染されている
大黒柱は腐って家が危険
床下には隠された金がある
囲炉裏には古い茶器(報酬)が眠っている
勘助は未練を果たし成仏するが、
家の軋む音と潮の匂いだけが残り、
真也は“これは始まりにすぎない”と感じながら闇の中へ歩き出す。
文字数 1,915
最終更新日 2026.06.22
登録日 2026.06.22
富士の樹海を軽い興味で訪れた二人の青年・古村太郎と野沢智宏。
深い森の静寂の中で、彼らは三本の新品のロープを見つける。
悪戯か、誰かの準備か――そう思って通り過ぎたはずの場所に、
戻ると二つの人影が揺れていた。
スーツ姿の男が二人。
足跡もなく、まるで突然そこに“現れた”ように吊られている。
智宏は「誰かが殺して吊るした」と断言し、
二人は息を潜めてその場を離れるのであるが――
文字数 1,476
最終更新日 2026.06.21
登録日 2026.06.21
都会を離れ、夫の実家へ帰省した「私」は、三歳の娘とともに田園の美しい風景を歩く。
だが、緑の海の中にぽっかりと浮かぶ“乾いた盛り土”だけが、不自然に生命を拒んでいた。
娘はその場所で「ひと、かぞえてるの」と呟く。
しかし大人の目には、痩せ細った木々と乾いた土しか見えない。
夕食の席でその話をすると、夫と祖母は険しい顔を見せる。
そこは昔、飢饉で亡くなった者たちを埋めた場所で、
「死んでも腹が減っとる者たち」が眠る山だという。
文字数 1,377
最終更新日 2026.06.20
登録日 2026.06.20
幼い頃、主人公は母の実家の山にある小さな沼で、
近所の少女・スミとよく遊んでいた。
浅いはずの沼は、中央に水草が密生し、
陽光を受けると濁った鏡のように緑色に光った。
ある夏の日、主人公は腹痛で沼を離れ、
そのまま戻らなかった。
その夜、スミは沼で亡くなって見つかる。
浅い沼なのに這い上がれなかったという説明に、
主人公はどこか納得できないまま、
沼から距離を置いて成長した。
文字数 1,094
最終更新日 2026.06.19
登録日 2026.06.19
冬の夜、聞こえるはずのない「蚊の羽音」。 季節外れの違和感が、日常の隙間から異界への扉を開く。 友人の言葉に疑問を抱いた僕は、やがて奇妙な真実に辿り着く――干からびたヤモリと、逃げられなかった蚊。 供養の煙に包まれて消えた羽音の正体とは。
怪異と哀しみが交錯する、静かで不気味な怪談絵草紙。 百の話を語り終えるまで、語り部は成仏できない――
文字数 39,436
最終更新日 2025.09.19
登録日 2025.09.11
管弦の音が響けば、薬売りが現れる――そんな噂が囁かれる村で、病に苦しむ長者の孫娘を救うため、一人の薬師が現れる。 彼は仏の教えを胸に、鍼と薬草で命を癒す術を施すが、その背後には深い罪と贖いの旅があった。
かつて弟子・長元坊は、仏を疑い、木彫りの仏像を粉にして偽薬として売った。 その罪を背負い、師は人の心に向き合う旅を続ける。 そして、偽りの薬を売った長元坊もまた、己の過ちと向き合い、真の薬師として再生の道を歩み始める。
馬糞に群がりながら青空を舞う鳥「馬糞鷹」のように、穢れを背負いながらも高みを目指す者たちの物語。 仏と人、罪と救い、そして命の尊さを描いた、静かで力強い和風幻想譚。
文字数 4,937
最終更新日 2025.09.13
登録日 2025.09.13
不器用な奉公人が神の力を得て変貌する――その先に待つのは祝福か、呪いか。
小間物問屋で十年奉公するも、昇進も感謝も得られず、罵倒される日々を送る男。ある雨の日、道祖神に塩むすびを供えたことをきっかけに、神から奇妙な力を授かる。「人に嫌われるほど、小判が竹皮の包みに溜まる」という力だった。
男はその力を信じ、店で堂々と物申すようになる。やがて「置き箱」の奇策で名を上げ、手代に昇進し、ついには「駒吉」の名を授かる。しかし、名声と欲望が彼の心を蝕み、神の力は祝福から呪いへと変貌していく。
人に嫌われることで得た富は、果たして真の報酬なのか。信頼と感謝の重み、そして人の心の弱さを描いた、切なくも深い人間ドラマ。
文字数 7,367
最終更新日 2025.09.12
登録日 2025.09.12
赤とんぼを見るたびに、主人公は“兄やん”のことを思い出す。 隣家に住む兄やんは、血の繋がりはないが、少年にとっては本物の兄のような存在だった。 ヨーヨー、釣り、電線に絡まる紐――日常の中にある小さな冒険と笑い。 しかし、兄やんは周囲の偏見と社会の冷たい視線にさらされ、やがて姿を消す。
季節が巡り、少年は兄やんの死と向き合う。 用水路に咲いた曼珠沙華、空を覆う赤とんぼ、そして兄やんの形見のヨーヨー。 少年は兄やんの記憶を胸に、成長していく。
文字数 3,648
最終更新日 2025.09.11
登録日 2025.09.11