シンデレラの娘たち

daisysacky

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第1章 ママの秘密

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 母親は、困ったように柚を見る。
「おばあちゃんの家はね、もうないのよ」
悲しそうにそう言うと、
「もう、この話、止めましょ」
柚の顔を見ずに、荷物を持ち直して、さっさと家の奥に入ってしまった。

「ママ?」
 いつもなら…柚の靴を脱ぐのも手伝ってくれて、靴箱にしまうというのに?
(何か…いけないことを、聞いたのかなぁ?)
柚には、よくわからない。
「きっと、ママ…お腹が空いたのね」
柚はお腹が空いたら、とてつもなくワガママになる。
きっと、それなんだ。
何も…問題はないはず。
そう思い込もうとしていた。

「ユウ~今日はどうだった?」
 母親から連絡を受けたのか、飛んで帰って来た父親は…
嬉しそうに、娘の頬ずりをすると、柚をお風呂に連れて行き、ニコニコしながら
話しかける。
「うん、楽しかったよ」
いつもはおしゃべりな柚も、お母さんを悲しませてしまった、と思い込み、
少し元気がない。
「みんなと、何をして遊んだの?」
それには気付かないふりをして、ザバーンと湯につかる。
「うん、アヤちゃんと、滑り台で遊んだ」
「そう…アヤちゃんとは、仲がいいんだね」
 ついこの間まで、赤ちゃんだった娘が…いつの間にか、こんなに大きくなった…
と思うと、仕事の疲れも吹き飛ぶようだ。
「パパって、親バカだからねぇ」
妻にはよく、からかわれる。
「いいじゃないかぁ」
むしろ、親バカ上等、と思う。
「そりゃあ、そうだよ。
 キミとユウの顔を見るために、毎日満員電車に揺られて、通っているんだから」
恥も外聞もなく、単純にそう思う。
「まぁ、それはそれは!ご苦労様です~」
笑いながら、そう言うけれども。
でも、この妻も…人知れず苦労してきたことを、彼はとてもよく知っている。
 ママ友との軋轢。
 浮世離れしている、とからかわれたことも、知っている。
今もたぶん…色々あるのだろう。
「だって、本当にそう思っているんだから、しょうがないだろ?」
思わずつぶやくと…
「何が?」
娘のつぶらな瞳が、不思議そうにこちらを向いていた。
「何でもない!
 さぁ、身体を洗おうか」
ザバッと立ち上がると、
ひゃあ~
娘の甲高い声が、風呂場に響く。
よしよし、元気になったぞ!
父親は娘の脇に手を伸ばすと、ひょいと持ち上げた。
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