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第37話:いつも通りのはずだったのに(Side:シホルガ③)

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「シホルガさん! 作業が遅れていますよ! 何度も言わせないでください!」
「はいはいはい! だから、わかってるって!」

 その後もリーダーに怒鳴られる毎日だ。
 すっかり怒られることが定着してしまった。
 今や、他の解呪師たちも完全にアタクシを見下している。
 ギリギリ聞こえるくらいの小声で悪口を言われていた。

「ねえ、シホルガさんのことだけど、やっぱり解呪の素質がないんじゃないの?」
「あなたもそう思う? 私もそう思うのよねぇ。正直、居ても邪魔なだけだわ」
「早く辞めてくれないかしら。直接言いたいところだけど、伯爵家の後ろ盾があるのは厄介ね」

 アタクシの立場などお構いなしだ。
 沸々と怒りが湧き上がってくる。
 好き放題言いやがってえええ。
 もう我慢できない。
 ずかずかと解呪師たちへ近寄った。

「ちょっと! 言いたいことがあるのなら面と向かって言ったらどう!?」
「「……」」

 みな、無言で作業を続けている。
 アタクシの存在などまるで見えないかのようだった。
 ぐっ……こいつらめ。
 憎悪の気持ちで睨みつけるが、何の効果もなかった。

「シホルガさん! サボっているんですか!?」
「サボってません! この人たちがアタクシの悪口を……!」
「変なこと言っていないで、さっさと持ち場に戻ってください!」

 有無を言わさず、ぴしゃりと怒鳴られる。
 ぐっ……。
 リーダーの信用も失っているアタクシとしては、すごすごと引き下がるしかなかった。
 怒りを携えたまま歩きだす。
 タイミングを測ったように解呪師たちが話し出した。

「リーダーも大変ねぇ。ただでさえ忙しいのに、あんな人のお世話までしないといけないんですから」
「キュリティさんが居てくれたら良かったのに。早く戻って来てくれないかしら」
「文句を言うなら、自分で闇魔法の一つでも解呪してから言ってほしいわね。見破ることさえできないのに」

 言い返してやろうとしたけど、正論なので何も言えなかった。
 ドカッと椅子に座る。
 目の前には検査待ちの荷物が山積みだった。
 こ、これ、全部今日中にやらなきゃいけないの?
 見ているだけでうんざりする。
 あ~あ、なんか想像と違ったなぁ。
 王宮勤めはもっと華やかな生活だと思ってたのに。
 公爵や王族なんかの偉い人と知り合いになったり、宮殿のパーティーに参加したり……。
 そんなことは一度もなかった。
 周りにいるのも地味な人ばかりだし。
 もう別の仕事を探そうかしら。
 と、思っていたとき、部屋の外が騒がしくなった。
 人の叫び声まで聞こえてくる。
 
「お、おい、大変だ! 闇魔法が侵入したらしいぞ! もう王宮全体が侵食されつつある!」
「なに!? どうしてそんなことが起きるんだ! 厳重に注意しているのに!」
「俺だってわからねえよ! 急がないとと全滅しちまう! 早く解呪師を……ぐあああ!」

 闇魔法と聞いて、大慌てで窓に近寄る。
 他の解呪師たちも慌てて集まってきた。
 ウ、ウソ……。
 窓の外には信じられない光景が広がっていた。
 王宮は黒いオーラに包まれ、窓ガラスが次々と割れている。
 人々は四方八方に逃げ回り、悲鳴であふれていた。
 激しい火の手も上がっていた。
 まるで地獄のような光景だ。

「みなさん! 大変です! 闇魔法が氾濫しています! 今すぐ王宮に行きますよ!」
「「は、はい!」」
「このような事態の対処法はわかっていますね!? 訓練を思い出すのです!」

 リーダーが震える声で指示を出す。
 今までにないくらい張りつめた顔だった。
 周りの解呪師たちも見たことないくらい緊張している。
 それだけで、今がどれほどまずい状況なのかよくわかった。
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