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51.ファンタジー三大要素コンプした

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 聞いたところによると、ヴェルメリア皇国皇帝という存在はここ数十年程、でしか他国を訪れていなかったそうな。
思わずなんで?と話し相手の兎耳がトレードマークの爺様に尋ねてみたら、にっこり笑って

「面倒だからと、転移魔法でぴょんぴょん跳んで行かれるからです。」

と教えられた。
 その瞬間、俺の脳裏では兎耳を生やしたロイが華麗にジャンプしていたのは内緒だ。たとえそれが想像の産物であったとしても、絶対誰にも言えない。
 まぁロイって合理主義者っぽいから、必要最低限の人員だけ引き連れてポンポン転移してたっていうのは納得できる話ではある。でも多分元の世界にいた時に、何かで目にした覚えがあるんだけどさ、王様みたいな偉い人の移動ってそれだけで経済回したりするから結構重要………なんじゃなかったか?

「陛下の代わりにセネル殿下が特使や名代として、正式に各国を訪問されておりますので。」

 あぁなるほど、セネルさんが経済回してたのか。
で、半分現実逃避しかけている俺が何を言いたいのかと言うと、

「………じゃあさ、コレってさ、ロイにとっては普通なわけ?」

「約二十年ぶりではありますが、陛下の御幸といたしましては恒例通りにございます。」

「ほー…へぇー……恒例なのか、コレ。………………ドラゴンが。」

 あぁついに、口に出して言ってしまった。
 俺的ファンタジー三大要素、魔法・エルフ・ドラゴン。その最後の一つが今、俺の目の前に在るのだ。
 おそらく全長30mは突破、体高10mはあるだろうという馬鹿でかい図体をした…………顔がカモノハシ、長い首と獅子のような体に蝙蝠翼、太く長い尻尾まで銀色の羽毛に覆われた生き物。
それがこのウルスタリアで、ドラゴンと呼称される存在だった。

 元の世界での想像上の姿の方が遥かにカッコイイような気もするが、目の前の巨大な生き物の存在感に圧倒される。
まるで飛行機に横付けされたタラップのように、階段状になった櫓。その一番上で、俺とファイは目の前にのっそりのっそり歩いてやって来たカモノハシドラゴンを眺めているのだが、何を隠そう、これこそがヴェルメリア皇帝の移動手段なのだという。

「きゅぴっ」

 やけに可愛い鳴き声を上げ、櫓のすぐ傍で膝を追ってお座り体勢になったドラゴンの背中には、巨大な鞍のような物体を床にして、白い天幕が隣り合って三つほど張られている。
 ドラゴンの体に固定するためだろう、何本もの金のロープが天幕から床の木材へと張り巡らされ、それが装飾の一つにもなっているようで、見るからに豪華絢爛だ。

(ヤッバいわー………ここ一週間ロイとの旅行に浮かれてたけど、コレ規模が想像以上だった………)




 ロイに他国へ行く用事があるからついて来てくれ、と言われたのが今から丁度一週間前のこと。
 ほぼ二つ返事で快諾した俺が、行き先はあのペネリュート王が治めるカロディール王国であると教えてもらったのが、その三日後の夜。
それからほぼ丸二日かけて、ファイがつきっきりで色々俺の準備してくれたんだが、これほんと必要か?ってくらい服の用意が凄かったな。
 前々から決まっていた予定にしては、ロイもちょくちょく俺を置いて一人で皇宮に向かったりと、何だか慌ただしそうにしていたし。まぁ、久しぶりの正式訪問らしいから、そのせいだったのか?
そんな中、さぁ明日出発しますよという段階の前夜、つまり昨夜になって、深奥宮殿でロイとセネルさんのバトルが勃発した。

 俺をどういう立場の人間として随行させるか、という話で。
魔導の頂点レグ・レガリア》が気分転換に旅行してマース、というのは流石に却下だったらしい。もしそれを公にした場合、俺を迎えなければいけないカロディール王国も、よくわからんが大変な事になるらしい。

 そういった話が目の前で交わされるまで、そんなこと頭の片隅にもなかったな、俺。こりゃまたご迷惑おかけするパターンだ、でもごめん旅行楽しみっス、と開き直って二人の話に耳を傾けていた。
 セネルさんとしては「陛下の侍従か、その見習いというお立場でお連れするのですよね?」という最終確認に、念のため深奥宮殿まで訪ねてきてくれたそうなのだが―――

「それは寝言か?」

とロイが一言。
 ピシり、と笑顔のまま固まったいつ見ても完璧美女のセネルさんに対して、こちらもいつ見ても完璧イケメン皇帝が滔々と語った。
 曰く、侍従等に扮してしまっては俺を伴っていられる場が限られる。

「つまり、公然といちゃつけぬと言うわけですわね?」

 曰く、こんな麗しい見た目の侍従がいるとなると、いくらペネリュート王の膝下とはいえ滞在先でどんな不逞の輩が出るかわからぬ。

「確かに、それは同意いたしますわ。」

 曰く、ペネリュート王には私信の魔法通信で《魔導の頂点レグ・レガリア》が身分を伏せて同行すると既に伝えてある。

「それをなぜ先に言って下さらないのですかッ!!??」

「すまぬ、伝えていなかったか?」

 はい、ホウレンソウはどこでも大事です。というツッコミは放棄して、ファイがいれてくれたホットミルクそっくりな飲み物を啜りながら、俺は寝ぼけまなこで口を挟んでみた。

「結局俺はどうしたらいいんだ?ロイの邪魔はしたくないから、仕事中はファイの傍に……って、そっかファイもロイが仕事している時は傍についてなきゃだもんな………どうしよっか。」

 本題そこだよ、そこ。ロイは仕事しに行くんだからな。
まぁ俺は、ちょっとでもロイと観光的なものが出来れば十分満足だし。ロイが忙しい時は部屋で引きこもっててもいいかなぁ、なんて考えかけた直後、

「決まっているであろう。当然私の恋人として連れて行く故、皇国ここと同じように振舞えば良い。」

ホットミルクふきかけた。

「いやいや、それ《魔導の頂点レグ・レガリア》だから?!ロイの恋人は《魔導の頂点レグ・レガリア》って認識されてるんだろ!?浮気か!?俺に浮気?!」

 《魔導の頂点レグ・レガリア》は俺だけどでもその素性は一応隠して旅行するわけで、つまりロイがこ、恋人として俺を連れて行ったらロイが俺と浮気してる構図に!?あれ?!俺はロイに俺と浮気されてるわけ???は!?
なんて頭こんがらがったんだが、結局あれだ。、というやつで押し通すらしい。

「如何に手を打とうが、カナタが《魔導の頂点レグ・レガリア》である事は完全には隠し通せぬ。故に、あくまでもその素性を伏せている、という建前だ。そうすればカロディール国内であれば、余計な面倒は起きぬ。」

「あー……ロイがそういうなら、それで。むしろ、居てもいないものとして扱ってもらえると、結構助かります………」

「ふむ、採用だ。セネル。」

「『採用だ、セネル』ではありませんわ。畏れ多くもシン様を!《魔導の頂点レグ・レガリア》をそのような扱いでなどとッ………!!!!」

 とまぁそんなこんなでどうにか話がまとまって………まとまった、よな?出発の朝を迎えた今日。
 ロイと一緒にファイが御者をするあの巨大ヒヨコ馬車(お忍びVer.バージョン)で朝方に皇宮を出発し、えっちらおっちらとやって来たのが、皇都の郊外に広がる草原だった。
 既にそこには多くの軍人やら文官らしき人と、見るからに人乗せて飛びますよ、という感じの馬よりも巨大な鳥たちが鞍をつけて集団で待機していた。
見ただけでも人と鳥の多さが圧巻なんたが。ていうか、これ何人いるんだ?

 馬車から降りた俺がそんな周囲の様子をぼけっと眺めていると、しばし待て、とロイが薄青鎧に白マント姿の騎士たちを引き連れてどこかへ向かった。
その後、俺は何故か草原にポツンと設置されている櫓へファイに連れて来られたのだが。

 そこに何処からかのしのしと現れたのが、白銀のドラゴン。て言えば雰囲気ありそうなんだが、ぶっちゃけ羽のある巨大カモノハシだった………。

「聞いてない……旅行にドラゴン必須とか聞いてない………でもカモノハシ……」

「きゅぴぴっ?」

「あ、ごめん、別にお前を悪く言ったわけじゃなくてだな?」

 何か言ったぁ?と長い首を回してつぶらな瞳を向けてくるドラゴンにそう謝っていると、その背にある天幕の一つから出てきたロイが、櫓まで迎えに来てくれた。

「待たせたな、カナタ。では、旅立ちといこうか。」

「うん、空の旅っていうのも今思えば、初耳だな。」

 そうぼやきながらも、相変わらず綺麗な微笑を浮かべるロイの手を取る頃には、俺も自然と笑っていたが。


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