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陰謀

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「え? そんな」

 てっきり、リリアを案内するための軍資金かと思っていた。

 驚いてルーカスを見返すと、気まずそうに目を落とす。

 しかし、オリヴィエは見逃さなかった。

 俯く頬は隠せても、赤くなった耳は丸見えだ。

(私に、服を……贈ろうとしてくれているの? どうして……?)

 嬉しいけれど、何故なのかオリヴィエにはわからない。

「いちいち寮へ帰るのも手間だろう。週末から慌ただしくて、お互い休む間もないし」

「ま、あ……助かりますが」

 どういう訳か、急にルーカスは挙動不審になった。

 だが、リリアを待たせないためだと言うなら、合点がいく。

 喜んでしまった、自分が恨めしい。

「いや、そのつまり、日を見て一度、お前を食事に誘いたいんだが……良かったらその時に着る服でも……と」

 ルーカスは、最後のほうは聞き取れないような尻つぼみな声で囁いた。

「食事……に?」

 オリヴィエは問い返した。

 一瞬遅れて言葉の意味を理解すると、かあっと全身が火照るのを感じた。

 リリアのためだった、とがっかりした気分が、一気に浮上する。

(食事って……それは、デートの誘いってこと……?)

「はい! 行きたい、です。ぜひ……!」

 オリヴィエはロクに、解釈の真偽もせずに返事をしていた。

 食事に誘われたのだと理解したが、間違っていたらとても恥ずかしい。

 けれど、躊躇う余裕もないくらいに舞い上がった。

 行かない、選択肢はない。

「私、都合の悪い日はありません。いつでも、お声がけ頂ければ……」

 ドキドキして、声が上ずった。

 ルーカスは、オリヴィエの勢いに一瞬たじろいだが、直ぐにくしゃりと笑って「そうか」と答えた。

「じゃあ、今日のことは頼んだぞ」

 はにかんだルーカスと目が合う。

 それだけで、オリヴィエの胸は小さく跳ねた。

 オリヴィエが頷くと、ルーカスはそれ以上を口にせず、踵を返して去って行く。

(嬉しい。ルーカス……でも、どうして?)

 去り行く背中を、うっとりと目で追ってしまうのは、恋する乙女の性なのか。

 服や食事に関しての理由や、何故誘われたのかは全く不明だ。

 だが、2人で食事ができるのだから、やっぱり素直に喜んでおきたい。

(……ん? 2人、よね? 確かめれば良かった。けど、そんな間もなかったし)

 ルーカスが完全に見えなくなった。

 そこでようやくオリヴィエは、急に冷静になり、一連の流れを思い返す。

 どんな順番で、何と言って誘われたっけ。

 途中で舞い上がったため、詳細な言葉やニュアンスまでは思い出せない。

 それでもなんとか、勘違いではないと確証が欲しくて頭を捻る。

 しかし、不意に風が吹いたと思ったら、上着の裾を引かれた。

「オリヴィエさん? レヴァンシェル様もう行っちゃったよ」

 リリアの声で我に返った。

「あ、ああ。ごめんなさい。ちょっと考え事を」

 オリヴィエは、上着のポケットに手を入れると、受け取ったばかりの皮袋を仕舞った。
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