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 ソルヴェード様曰く。

 『シル』はラクラテア商会の会長の愛人の子、という設定らしい。
 ラクラテア商会と言えば、ここ数年で一気に伸びた商会である。その総売り上げは『跳ねた』と言っても過言ではない程。
 主に装飾品やシャンプーやリンス、化粧品に香水など、身だしなみに関わるものを取り扱う商会で、ソルヴェード様がこの商会を取り上げたことで一気に売り上げが上がったから、会長はソルヴェード様に頭が上がらないらしい。
 確かに、ソルヴェード様は女たらしとして有名だけれど、それだけ女性にとって魅力的な男だというのも事実。ひとたび彼が香水を褒めて使えば、その香水を使おうとする貴族男性は多い。その流れで、ラクラテア商会は何度も恩恵を受けたのだろう。メインに取り扱っている商品が商品だし。

 実際に、会長に愛人はいるらしいので、結構信ぴょう性と説得力のある嘘になる、とソルヴェード様は言っていた。
 一応、大商会の会長の血を継ぐものだから、父親である商会長が認めた女性としか結婚できない、と言いまわっているらしい。実際は、身分を知っている商会長が認める女性なんて出てくるわけがないのだが。
 流石、既に王子という身分を隠して平民女性と遊び歩いているだけあって、結構ちゃんとした設定があるのだな、と、なんだか感心してしまった。変装が半端だから、平民としての設定も、もっと適当なものがくるのだと勝手に思い込んでしまったわ。

「――ちなみに、『リノ』先輩の設定は?」

 わたしに『シル』の設定を教えてくれたソルヴェード様が聞いてくる。
 この設定を聞いた後だと、わたしの方が逆に適当に思えてきた。

「……コンフィッター家のメイドの姉でず」

 わたしが変装する場所を与えてくれたメイドの姉、というのがわたし、『リノ』の設定だ。両親が離婚して父親に引き取られたのが妹、母親に引き取られたのが『リノ』。父親が亡くなって祖母と二人暮らしをしていたメイドの元に、王都に憧れてやってきた姉が『リノ』ということになっている。
 ちなみに、離婚云々の流れは本当らしい。わたしがここで働くために一緒になって設定を考えてくれたメイドから結構細かい話を聞いたので、それなりに辻褄のあう話はできるはず。

 何か茶化されるかな、と身構えていたけれど、特に何かを言われることもなく、「教えてくれてありがとう」と言われるだけだった。
 ……ソルヴェード様、よくわからない人だな。

「ところでそのメイドって美人?」

 株が上がったら下げないといけない病気にでもかかってんのか、こいつ。
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