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 わたしは少し考えてから口を開く。

「……不敬では?」

 わたしがそういうと、ぶは、とソルヴェード様が品なく噴き出した。

「だ、だって!」

 その反応に思わず大声を出してしまうが、すっと、ソルヴェード様の指が伸びてきて、人差し指であごを持ち上げられ、口を閉じられた。ぐぬ。
 でも、余計なことまで口走りそうだったから、こればかりは文句を言えない。

 わたしは呼吸を整えて、少し落ち着きを取り戻してから、周囲の様子をうかがう。急に大声を出したわたしに注目した人は何人かいたようだが、すぐに興味を失ったように目線が消えていく。
 それを見届けてから、わたしは小声でソルヴェード様に話しかけた。

「す、すみません。でも、だって、我が家――うちのこと、知らないわけではないですよね?」

 家名を聞いただけで傾いた家だと判断できたくらいには、我が家が困窮している貧乏伯爵だと知っているはずだ。
 それなのに、友人とは。
 つり合いが取れていないのでは?

 仕事仲間として接している時間が長いから忘れがちになるが、本来、王族と親しく接することができる人間なんて、公爵家や侯爵家くらいのものだ。あとは有力な伯爵家。同じ伯爵家でもうちとは違う、立場も金も歴史もある筋金入りの伯爵家。
 学園時代も、名目上は、王族とてその身分を振りかざすことなく、同じ学生として切磋琢磨すべき、と言われていたが、実際、彼に話しかけていい人間は、暗黙の了解で決まっていた。

 わたしは、話しかけていい人間じゃなかった。
 もちろん、向こうが話しかけてきた場合は別だけど――でも、友人と言うのは、おこがましすぎる。

 いくら女遊びが激しくて、その辺がだらしない男だとはいえ、彼は第四王子なのだ。
 ――でも。

「気にしなくていいよ」

 ソルヴェード様は頬杖をついて、こちらに笑いかけながら言った。

「僕は『シル』で、先輩は『リノ』だから。ね。あのカフェで出会って、意気投合して、仲良くなって友人になっただけ」

 暗に、今は王族と貴族であることを忘れろ、と言っているのだろうか。

「……分かりました」

 まあ、それなら、いいのかな、と思いながら、わたしは全種類、ストロベリーパイを頼んでやろうかな、とメニューに目を落として――ふと気が付く。

「……友人なら、手を繋ぐ必要はないのでは?」

 別に、友人同士が手を繋ぐのも駄目なわけではないけれど、一般的にああやって手を繋いで歩くのは恋人同士か、それに準ずる関係な気がするのだが。

「それはそれ、これはこれ」

 ……この男……。
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