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97.魔術塔の奪還
しおりを挟むレイドが、何故あのような状態になったのかと、ジジィ共を脅して聞き出すと。
黒の禁術機を、馬鹿の父親が持って来たようだ。
それで馬鹿の父親に――『レイドさえいなくなれば。また自由に、魔術塔を自分達の思うままに出来る』と言われたことで。
そのタイミングを、今か今かと全員が狙っていたと白状した。
確かに……。あのような疲労困憊したレイドは、こいつらにとって。またとない機会であり、狙い時だったのだろう。
――けど、術をかけた当人である馬鹿の父親は。レイドに術をかけてから、行方が分からなくなったらしいが……。
そして次に、『魔術塔を自分達の思うままに出来る』と言ったことに関しても、話を聞き出すと。
こいつらに【選考の鍵】が渡っていたようだ。
それは、塔主や、それと同じ力を持つレイドのような者が魔術塔を長い間不在にする場合。
魔術塔に在籍している者が、その運営を維持する為。新しく仲間にしたい者へと用いると、内部に在籍する人数を増やすことが出来るものである。
通常、仲間を増やすには。塔主の俺が、仲間にしようとする人を魔術塔に連れて来て。取っ手に魔力を流してもらい、その魔力を承認するが。
【選考の鍵】はそれに直接、魔力を注げば良いだけだった。
俺が居た時には、俺自身が勧誘して仲間を集めてたのもあるから、皆が【選考の鍵】を使う必要もなかったし……。仮にそれをこっそり使ったとしても、塔主である俺が魔術塔に入る時に、その通知が届くから直ぐにバレるのだ。
俺がヤツィルダとして塔主をしていた時には、そんは子達はひとりもいなかった。
だから、さっきこの魔術塔に入った時。初めて、その通知が届いたのだが……。通知が膨大過ぎて、マジで頭がグルグルした。
だから、記憶が戻り。今の魔術塔に対して思ったことは――【選考の鍵】が、欲のある人間に渡ってしまったのかもしれないな、とそう思っていた。
それで、こいつらは。それを持つ者を、塔主として立たせていたようだけど……それが全然違うんだよな~。
だって、俺がそうだと認めなければ、ここの塔主になることは出来ない。
だから、塔主として一番近いのはレイドなのだ。
それで、恐らくレイドは。自分が不在にしていたからか、引け目を感じ。それらの取り決めを認めていたようだけど……――俺は、そんな暴挙を絶対に認めない。
俺が、何百年。ここの、魔術塔をやって来たと思ってんだ。
まだ、どこから始めれば良いか分からない、初めの時から……。どんどんと大切な仲間を増やしていき、その子達と共に大きくしていった、この魔術塔を――こんな欲だらけの人間達の、隠れ蓑にして堪るかよ。
△▼△▼△▼△▼
「ふ~ん、成る程ね~。あんたらってさ……国の回しもんだろ?」
「はっ! な、何故それを!?」
「あ~、やっぱり? そうだと思った」
そうだという確たる証拠というものはなかったが、己の直感を信じて鎌を掛けることにしたのだ。
――それは、ちょうど魔術塔が有名になった頃。国か開催するパーティーに呼ばれたことがあったのだが。こんな奴らがわんさか居たのを、こいつらと話して嫌でも思い出した。
何だかスゲー苛々したから。その後、パーティーにいくら招待されようが、二度と行くことは無かったけどな。
「き、貴様!! 謀ったのか!?」
「へ~? 謀るも何も……。あんたらの先祖達がここに入り込むために、魔術塔の子達を騙して【選考の鍵】を盗んだんだろ~? だから、先に謀ったのはお前達の方じゃん?」
「はっ! な、何故知っている!?」
こいつらさ……。二度、同じ手に引っ掛かるとか……マジで馬鹿だろ。
「あ~あ~! 分かった、分かった……。今いる奴らは、全員馬鹿ばっかだってことがな! マジで追放だわ!!」
「な、な……! そんなこと、お前のようなガキに出来るかっ!!」
「そ、そうだぞっ! お遊びはここまでだっ!!」
拘束されて床に転がりながらも、ピーピーと元気に言っているジジィ共に……俺は呆れ果てた。
「あのさ~じゃあ、聞くけど……。あんたら、魔術塔の中に【塔主の間】に入れる奴はいるのか?」
「「「「「…………」」」」」
ジジィ共は急に黙り込み、一言も話さなくなった。
――そう、一番分かりやすく権限を示すには【塔主の間】に入れることが出来るか否かでそれが分かる。
恐らく、今いる魔術塔の者達は。たくさん試行錯誤して、そこへと入ろうとしただろうが……。結局は無駄な労力で終わったのだろう。
そりゃそうだ。だって【塔主の間】には本当の塔主が許可した人しか入ることが出来ないのだから。
――それは、レイドであっても、俺が塔主としての権限を与えたわけではないから出来ず。即刻の追放と、【塔主の間】へ入室許可を言い渡せる権限は持っていないのだ。
もしも、魔術塔の、この仕組み自体を変更したいのならば――魔術塔を解体し、また一から作り直さなければならないだろう。
でもな、こんな奴らに魔術塔を作れるレベルの魔法具職人が会うわけないんだ。
魔法具職人って、人の好き嫌い激しく。特に、等位が高い者ほど。何故だか、欲深い人間が嫌いな傾向があった。
けど、それは分かる。丹精込めた自分の作品を、汚い欲の為だけに使われるなんて……。それは、作品を冒涜されているも当然だからだろう。
こいつらが、魔術塔を本当の意味で自分達の物にしようと思っていて。そういう人達を探してたのかは知らないし、どうでも良いけど……。
悪い事はずっと続かないんだって、そろそろ気づいてもらわなきゃな?
「よ~し! じゃあ、そろそ――……ん?」
扉が開く音が聞こえたので、俺はそこへと視線を向けた。
「あ、すみません……。お取り込み中でし――えぇ……?」
この部屋に入って来た、人物は――。
俺が前に、ヒョロヒョロなお兄さんだな~と思っていたその人で。
扉に片足を踏み入れた状態のまま、パチパチと目を瞬かせていた。
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