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昼頃。
真広に送ってもらい屋敷についた小白は中に入ろうとして昨日桐乃に言われた言葉を思い出した。
そのあとの会議でも小白はねこと認定されなかった。それがまるで桐乃の言葉を肯定するみたいで会いたくなかった。
それでも逃げるのは癪だったので、小白はもし桐乃になにか言われたら蒼真の前でスカートをめくってやろうと決心して屋敷に入った。
しかし小白の覚悟とは裏腹に桐乃は屋敷にいなかった。蒼真もいない。小白はそれに少し安心したが、同時に退屈さを感じた。
絵本を選んでいた小白はねこのことを思い出した。小白はまだ牧師と呼ばれるねこに出会えていない。
小白はねこを探すために屋敷の中を歩き出した。その途中で離れで祖母の世話をする里香を見つける。
「ねこがおらん」
「あら。来てたの」里香はニコリと笑って周囲を見渡した。「朝にはいたんだけどね。あの子も半分野良みたいな感じだから」
「半分……」
小白はその言葉にドキリとして俯くが、すぐに拳を握って顔を上げた。すると老婆と目が合う。老婆は車椅子に乗って静かに小白を見つめて言った。
「会ってどうするの?」
「……いろいろ。聞きたいことを聞く」
小白は少し警戒しながら答えた。老婆はフッと笑った。
「人が本当に聞きたいことなんてない。あるのは言って欲しいことだけ。それを相手が言ってくれることを望み、半ば言わせている。だけどいつも相手が察してくれるとは限らない。それに聞いてしまったからこそ後戻りできない場合もある」
老婆は口をぎゅっとつぐむ小白に色々な経験を含んだ微笑を向けた。
「あのねこは物事の本質を見抜くのが上手い。会うべき時がくれば会えるでしょうね」
老婆は小白にそう言い、小白は老婆を見つめた。そして野球帽のつばを持って少し降ろし、歩き出した。
「……探してくる」
庭に向かう小白を老婆は黙って眺めていた。
小白は広い庭の隅々までねこを探した。植えられた草花の間や木陰、物置小屋など隅々まで見て回ったが、やはり姿はどこにもなかった。
小白が屈んだまま溜息をつくと後ろから誰かが近づいてくる足音が聞こえた。小白の耳は振り向かずにそれが蒼真のものであると分かっていた。
「ねこがおらん」
「え?」と蒼真は驚いた。「ああ。まあ、いない時はいないよ。オレも見ない時はずっと見ないし」
小白は不満そうに立ちあがると振り返った。
「どこにおる?」
「う~ん」蒼真は考え、そして思いついたという顔をした。「秘密基地。あそこで昔見たことあるよ。今から行くつもりなんだけど行く?」
小白は眉をひそめて怪しんだ。
「本当にいるのか? お前はウソつきだからな」
「いや、いるかは分からないけど」
小白は少し考え、渋々了承した。
「しかたないな」
「じゃあ行くか。一応先生にも言っておこう」
蒼真は小白と共に里香の元に向かうと「ちょっと外で遊んでくる」と言って屋敷から出て行った。
屋敷の外に出るとすぐ路地裏に入り、裏山の方へと進んでいく。
「こっち。こっちが近道なんだ」
「ウソだったら叩くからな」
小白はそう言いながらも蒼真についていく。
蒼真と小白は路地裏から整備がされていない細い旧道へと入っていく。足下はコンクリートだが草が伸び、折れた木が転がっていた。
二人はそれを飛び越え、山道へと入っていった。初めての道なので小白は少し不安だったが、蒼真は何度も通っているらしく楽しそうだ。
五分ほど歩くとこの前見た空き家が姿を現した。
鈴原家からだとそれなりにかかるが、屋敷からだとすぐだった。屋敷に飽きたらここで遊ぶのも悪くないと小白が考えていると蒼真が空き家に入りながら奥に向かって言う。
「つれてきたよ」
誰に言っているのか小白が不思議がって後に続くと空き家の中には桐乃が待っていた。
緊張した顔で自分を見上げる桐乃のを見つけ、小白は蒼真を睨んだ。
「きさま。何回うそをつけば気がすむ?」
「うそじゃない」蒼真はけろりと言った。「オレはただねこがいるかもしれないって言っただけ。ここでねこを見たのも本当だし、近道も本当だよ」
「そうか。でも叩く」
小白は自慢げな蒼真にねこパンチをお見舞いした。それを見て桐乃が怯える。
蒼真は小突かれた頭を抑えた。
「いたいな。もう。暴力はなにも解決しないって誰かに教わらなかったのか?」
「教わってない。だけどうそをつく奴がわるいことは知ってる」
「だからうそじゃないって。……まあいいよ。用があるのはオレじゃないから」
蒼真は面倒そうにしながら奥で待つ桐乃の方を向いた。小白も眉を細めて桐乃を見る。
よく見ると桐乃は場違いにもオシャレをしていた。いつも可愛らしい服を着ているが、今日の白いワンピースは上等そうだ。それが益々小白を苛立たせた。
「そいつがうちをつれてくるように頼んだのか。昨日の仕返しか? 決闘するか?」
「なんでそうなるんだよ……」
蒼真はやれやれと呆れて桐乃の元に行き、囁いた。
「ほら。早く言わないと襲われるぞ」
桐乃は襲われると言われてまた怯え、小白の不機嫌そうな顔を見て更に怯えた。
桐乃は逃げ出したいように見えたが、生憎空き家の出口は老朽化によって玄関以外はねこくらいしか通れないほど壊れている。
桐乃は逃げるのを諦めると勇気を持って頭を下げながら叫んだ。
「ねこちゃん! わたしとお友達になってください!」
それはまるでプロポーズのような必死さだった。
小白は面を喰らって目を丸くしていた。
すると桐乃は恥ずかしそうに真っ赤な顔を上げる。
「そ、その……。あなたの言う通りわたしは友達がいないの。とくにその、なぜか女の子にはきらわれてて……」
「だろうな」と小白は言った。
桐乃は心を抉られながらも続けた。
「うぅ……。だからその……、ねこちゃんとは仲良くしたいの……。ダメかしら?」
桐乃に上目遣いでそう言われ、小白は腕を組んだ。
悩んでいる風だったが、満更でもなさそうだ。それを見て蒼真は面白がって笑う。
「あはは。ねこって言われて喜んでる」
「うるさいぞクソガキ」
小白は照れ隠しの咳払いをし、帽子を深く被った。
しかし蒼真の言っていることは合っていた。
不覚にも小白はねこちゃんという響きを心底気に入ってしまった。
だから友達なんていらないとか、お前はムカツクから気に入らないとか、そういう言葉が出てこない。
出てきたのは小白自身も意外な言葉だった。
「…………まあ、そこまで言うならなってやらんでもない」
小白は熱くなった顔を帽子のつばで隠してそう言った。
小白にとって初めて感情だった。友達になってと言われた経験も、明確に友達だと思った子もいない。
小白は混乱しながらも心が温かくなっていることに気づき、それが嬉しいような恥ずかしいような気持ちにさせた。
一方桐乃は目を丸くしてから胸の前で手を合わせ、喜んだ。
「本当に? やったぁ。じゃあさっそく遊ばない? おもちゃも持ってきてるから。昨日パパに電話して帰りに買ってきてもらったの」
桐乃は足下に置いていた小さなリュックサックからねこのぬいぐるみを取り出した。手を入れて遊べるパペットタイプのものが三つ出てくる。
小白はそれを見て目を輝かせた。
桐乃が「プレゼントするわ。ねこちゃんが好きなのを選んで」と言うので小白は茶色いねこのぬいぐるみを選んだ。
ぬいぐるみは可愛らしく、手を中に入れると生きているみたいに動かせた。
小白が楽しそうにするので桐乃も嬉しくなってはにかんだ。
「ねこになりたいって言ってたから。気に入ってくれた?」
「悪くない」
小白はこのねこのように振る舞えるぬいぐるみをかなり気に入っていた。
桐乃はホッとしてから申し訳なさそうになる。
「その、ごめんね。おばあちゃんに言われたの。人の夢を笑っちゃいけないって。人の夢を笑うと自分の夢が叶わなくなるんだって。だからその、ねこちゃんはねこになれると思うわ。大変かもしれないけど、がんばったら、多分……」
小白は頷いた。
「うん。うちはねこになる」
小白がそう言い切るので桐乃は不思議がった。
「……その、ねこちゃんはねこになったらどうするの?」
その質問は二度目だった。小白はやはりはにかんでこう答えた。
「ひみつ」
桐乃は残念そうだったが、すぐに笑顔を取り戻す。
「そっか……。残念だけどおばあちゃんも言ってたわ。女の子にはひみつがあった方がいいって。それより今は遊びましょ。なにする? おままごとする?」
それを聞いて蒼真は辟易とした。
「それってもしかしてオレもやらないとダメ? おばあちゃんは男の子がおままごとすることになにか言ってなかった?」
「なにも」と桐乃はかぶりを振った。「ただ男の子は女の子に従うべきって言ってたわ。その方がうまくいくんだって」
「……今のところそうは思えないけど」
蒼真は短い人生経験を鑑みて溜息をついた。桐乃は楽しそうに小白の方を向く。
「ねこちゃんはなんの役にする? 本当はわたしがやりたいけどお嫁さんする?」
小白は首を横に振った。
「うちはねこにする。あとは好きにしろ」
「じゃあわたしがお嫁さんで蒼真が旦那さんね。二人でねこちゃんを飼うの」
蒼真は「ええ……」と顔をしかめる。だがおままごとは唐突に始まった。桐乃は白いねこを身に付けるとそれを動かしながら蒼真に怒り出す。
「なんで共働きなのにわたしばっかり家事をしないといけないの!?」
「え? あー……えっと」蒼真は渋々残った黒ねこを手にはめた。「その、オ、オレにも付き合いがあるし……」
「そんなのわたしにだってあるわ。それを断って家事してるのに。あなたはいつも仕事を優先して。少しはわたしの身にもなってよ」
「その……まあ、……ごめん」
蒼真が理不尽さを感じながら謝っているとそこに小白のねこがやってきた。
小白は「にゃー」と鳴きながらぬいぐるみを好き放題動かす。
小白のねこを桐乃のねこが優しく撫でた。
「あーもう。うちで話がわかるのはねこちゃんだけだわ」
「にゃー」
「ほら。ねこちゃんだって言ってるじゃない。土日にちょこっと遊ぶだけが子育てじゃないのよって」
二匹のねこがじゃれ合う様を見て、蒼真の黒いねこは嘆息した。
「…………これがせちがらいってやつか」
蒼真はやりたくなかったが、その後も夕方になるまでおままごとは続いた。
真広に送ってもらい屋敷についた小白は中に入ろうとして昨日桐乃に言われた言葉を思い出した。
そのあとの会議でも小白はねこと認定されなかった。それがまるで桐乃の言葉を肯定するみたいで会いたくなかった。
それでも逃げるのは癪だったので、小白はもし桐乃になにか言われたら蒼真の前でスカートをめくってやろうと決心して屋敷に入った。
しかし小白の覚悟とは裏腹に桐乃は屋敷にいなかった。蒼真もいない。小白はそれに少し安心したが、同時に退屈さを感じた。
絵本を選んでいた小白はねこのことを思い出した。小白はまだ牧師と呼ばれるねこに出会えていない。
小白はねこを探すために屋敷の中を歩き出した。その途中で離れで祖母の世話をする里香を見つける。
「ねこがおらん」
「あら。来てたの」里香はニコリと笑って周囲を見渡した。「朝にはいたんだけどね。あの子も半分野良みたいな感じだから」
「半分……」
小白はその言葉にドキリとして俯くが、すぐに拳を握って顔を上げた。すると老婆と目が合う。老婆は車椅子に乗って静かに小白を見つめて言った。
「会ってどうするの?」
「……いろいろ。聞きたいことを聞く」
小白は少し警戒しながら答えた。老婆はフッと笑った。
「人が本当に聞きたいことなんてない。あるのは言って欲しいことだけ。それを相手が言ってくれることを望み、半ば言わせている。だけどいつも相手が察してくれるとは限らない。それに聞いてしまったからこそ後戻りできない場合もある」
老婆は口をぎゅっとつぐむ小白に色々な経験を含んだ微笑を向けた。
「あのねこは物事の本質を見抜くのが上手い。会うべき時がくれば会えるでしょうね」
老婆は小白にそう言い、小白は老婆を見つめた。そして野球帽のつばを持って少し降ろし、歩き出した。
「……探してくる」
庭に向かう小白を老婆は黙って眺めていた。
小白は広い庭の隅々までねこを探した。植えられた草花の間や木陰、物置小屋など隅々まで見て回ったが、やはり姿はどこにもなかった。
小白が屈んだまま溜息をつくと後ろから誰かが近づいてくる足音が聞こえた。小白の耳は振り向かずにそれが蒼真のものであると分かっていた。
「ねこがおらん」
「え?」と蒼真は驚いた。「ああ。まあ、いない時はいないよ。オレも見ない時はずっと見ないし」
小白は不満そうに立ちあがると振り返った。
「どこにおる?」
「う~ん」蒼真は考え、そして思いついたという顔をした。「秘密基地。あそこで昔見たことあるよ。今から行くつもりなんだけど行く?」
小白は眉をひそめて怪しんだ。
「本当にいるのか? お前はウソつきだからな」
「いや、いるかは分からないけど」
小白は少し考え、渋々了承した。
「しかたないな」
「じゃあ行くか。一応先生にも言っておこう」
蒼真は小白と共に里香の元に向かうと「ちょっと外で遊んでくる」と言って屋敷から出て行った。
屋敷の外に出るとすぐ路地裏に入り、裏山の方へと進んでいく。
「こっち。こっちが近道なんだ」
「ウソだったら叩くからな」
小白はそう言いながらも蒼真についていく。
蒼真と小白は路地裏から整備がされていない細い旧道へと入っていく。足下はコンクリートだが草が伸び、折れた木が転がっていた。
二人はそれを飛び越え、山道へと入っていった。初めての道なので小白は少し不安だったが、蒼真は何度も通っているらしく楽しそうだ。
五分ほど歩くとこの前見た空き家が姿を現した。
鈴原家からだとそれなりにかかるが、屋敷からだとすぐだった。屋敷に飽きたらここで遊ぶのも悪くないと小白が考えていると蒼真が空き家に入りながら奥に向かって言う。
「つれてきたよ」
誰に言っているのか小白が不思議がって後に続くと空き家の中には桐乃が待っていた。
緊張した顔で自分を見上げる桐乃のを見つけ、小白は蒼真を睨んだ。
「きさま。何回うそをつけば気がすむ?」
「うそじゃない」蒼真はけろりと言った。「オレはただねこがいるかもしれないって言っただけ。ここでねこを見たのも本当だし、近道も本当だよ」
「そうか。でも叩く」
小白は自慢げな蒼真にねこパンチをお見舞いした。それを見て桐乃が怯える。
蒼真は小突かれた頭を抑えた。
「いたいな。もう。暴力はなにも解決しないって誰かに教わらなかったのか?」
「教わってない。だけどうそをつく奴がわるいことは知ってる」
「だからうそじゃないって。……まあいいよ。用があるのはオレじゃないから」
蒼真は面倒そうにしながら奥で待つ桐乃の方を向いた。小白も眉を細めて桐乃を見る。
よく見ると桐乃は場違いにもオシャレをしていた。いつも可愛らしい服を着ているが、今日の白いワンピースは上等そうだ。それが益々小白を苛立たせた。
「そいつがうちをつれてくるように頼んだのか。昨日の仕返しか? 決闘するか?」
「なんでそうなるんだよ……」
蒼真はやれやれと呆れて桐乃の元に行き、囁いた。
「ほら。早く言わないと襲われるぞ」
桐乃は襲われると言われてまた怯え、小白の不機嫌そうな顔を見て更に怯えた。
桐乃は逃げ出したいように見えたが、生憎空き家の出口は老朽化によって玄関以外はねこくらいしか通れないほど壊れている。
桐乃は逃げるのを諦めると勇気を持って頭を下げながら叫んだ。
「ねこちゃん! わたしとお友達になってください!」
それはまるでプロポーズのような必死さだった。
小白は面を喰らって目を丸くしていた。
すると桐乃は恥ずかしそうに真っ赤な顔を上げる。
「そ、その……。あなたの言う通りわたしは友達がいないの。とくにその、なぜか女の子にはきらわれてて……」
「だろうな」と小白は言った。
桐乃は心を抉られながらも続けた。
「うぅ……。だからその……、ねこちゃんとは仲良くしたいの……。ダメかしら?」
桐乃に上目遣いでそう言われ、小白は腕を組んだ。
悩んでいる風だったが、満更でもなさそうだ。それを見て蒼真は面白がって笑う。
「あはは。ねこって言われて喜んでる」
「うるさいぞクソガキ」
小白は照れ隠しの咳払いをし、帽子を深く被った。
しかし蒼真の言っていることは合っていた。
不覚にも小白はねこちゃんという響きを心底気に入ってしまった。
だから友達なんていらないとか、お前はムカツクから気に入らないとか、そういう言葉が出てこない。
出てきたのは小白自身も意外な言葉だった。
「…………まあ、そこまで言うならなってやらんでもない」
小白は熱くなった顔を帽子のつばで隠してそう言った。
小白にとって初めて感情だった。友達になってと言われた経験も、明確に友達だと思った子もいない。
小白は混乱しながらも心が温かくなっていることに気づき、それが嬉しいような恥ずかしいような気持ちにさせた。
一方桐乃は目を丸くしてから胸の前で手を合わせ、喜んだ。
「本当に? やったぁ。じゃあさっそく遊ばない? おもちゃも持ってきてるから。昨日パパに電話して帰りに買ってきてもらったの」
桐乃は足下に置いていた小さなリュックサックからねこのぬいぐるみを取り出した。手を入れて遊べるパペットタイプのものが三つ出てくる。
小白はそれを見て目を輝かせた。
桐乃が「プレゼントするわ。ねこちゃんが好きなのを選んで」と言うので小白は茶色いねこのぬいぐるみを選んだ。
ぬいぐるみは可愛らしく、手を中に入れると生きているみたいに動かせた。
小白が楽しそうにするので桐乃も嬉しくなってはにかんだ。
「ねこになりたいって言ってたから。気に入ってくれた?」
「悪くない」
小白はこのねこのように振る舞えるぬいぐるみをかなり気に入っていた。
桐乃はホッとしてから申し訳なさそうになる。
「その、ごめんね。おばあちゃんに言われたの。人の夢を笑っちゃいけないって。人の夢を笑うと自分の夢が叶わなくなるんだって。だからその、ねこちゃんはねこになれると思うわ。大変かもしれないけど、がんばったら、多分……」
小白は頷いた。
「うん。うちはねこになる」
小白がそう言い切るので桐乃は不思議がった。
「……その、ねこちゃんはねこになったらどうするの?」
その質問は二度目だった。小白はやはりはにかんでこう答えた。
「ひみつ」
桐乃は残念そうだったが、すぐに笑顔を取り戻す。
「そっか……。残念だけどおばあちゃんも言ってたわ。女の子にはひみつがあった方がいいって。それより今は遊びましょ。なにする? おままごとする?」
それを聞いて蒼真は辟易とした。
「それってもしかしてオレもやらないとダメ? おばあちゃんは男の子がおままごとすることになにか言ってなかった?」
「なにも」と桐乃はかぶりを振った。「ただ男の子は女の子に従うべきって言ってたわ。その方がうまくいくんだって」
「……今のところそうは思えないけど」
蒼真は短い人生経験を鑑みて溜息をついた。桐乃は楽しそうに小白の方を向く。
「ねこちゃんはなんの役にする? 本当はわたしがやりたいけどお嫁さんする?」
小白は首を横に振った。
「うちはねこにする。あとは好きにしろ」
「じゃあわたしがお嫁さんで蒼真が旦那さんね。二人でねこちゃんを飼うの」
蒼真は「ええ……」と顔をしかめる。だがおままごとは唐突に始まった。桐乃は白いねこを身に付けるとそれを動かしながら蒼真に怒り出す。
「なんで共働きなのにわたしばっかり家事をしないといけないの!?」
「え? あー……えっと」蒼真は渋々残った黒ねこを手にはめた。「その、オ、オレにも付き合いがあるし……」
「そんなのわたしにだってあるわ。それを断って家事してるのに。あなたはいつも仕事を優先して。少しはわたしの身にもなってよ」
「その……まあ、……ごめん」
蒼真が理不尽さを感じながら謝っているとそこに小白のねこがやってきた。
小白は「にゃー」と鳴きながらぬいぐるみを好き放題動かす。
小白のねこを桐乃のねこが優しく撫でた。
「あーもう。うちで話がわかるのはねこちゃんだけだわ」
「にゃー」
「ほら。ねこちゃんだって言ってるじゃない。土日にちょこっと遊ぶだけが子育てじゃないのよって」
二匹のねこがじゃれ合う様を見て、蒼真の黒いねこは嘆息した。
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