その求婚、お断りします!

月椿

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「…なぜ私なんですか?王子様の遊び相手から適当に選べばいいじゃないですか」

「ふん、そんなのから選んだら厄介だ。俺に興味ない奴なら、俺が遊んでいても文句ないだろ」


立ち上がったままのレストを第二王子は頬杖を付きながら見上げる。どうやら第二王子は自分に興味がなく一人でいたレストを、都合のよい仮面夫婦の相手役に選んだようだった。


「国端の村娘なら田舎より王都に住みたいだろ?おまけに贅沢出来る生活の保証つき」

「…出身言いましたか」

「いや?だが紹介の場に居なかったんだから、遅れてくるって連絡のあったフェーズ村の娘だろ?名前は?」

「………レスト=ナリューシェです」


本当は名前を教えたくないレストだが、聞かれたからには答えないといけない義務がある。
たっぷりと間をあけてから、ぼそりと名乗る。


「俺は第二王子のルナシーク=フェルテンシェルトだ。で?取引はどうする?」


ルナシークはレストが断るなんて一ミリも思ってない顔で、意地悪そうにレストを見る。
レストはすぅ、と息を吸い込むと出来る限りの満面の笑みを向けた。


です」

「…は…?」

「私は村での生活で満足してますし、浮気し放題の夫なんてごめんです」


ニコニコと笑いながらぶったぎるレストに、ルナシークは青い瞳を丸くして驚く。ニヤニヤとしていた口はぽかんと開いたままだ。


「田舎娘が全員、王都に憧れてるなんて思わないでください。仮面夫婦をやりたいなら他の方を見つけるか…一生独身でいたらどうですか?」


至福の時を邪魔された上に失礼な事を言うルナシークにレストの怒りは頂点に達していた。言いたい事を言い切ったレストは多少スッキリした様子で会場へと歩き出す。
不敬罪?知ったことか。というばかりの態度である。


「くっ…ふっ…ははははっ!」


ぽかんとしていたルナシークが突然、大声で笑いだしてレストは思わずびくりと身体を震わせ振り返る。
ルナシークは目尻に浮かんだ涙を拭いながら立ち上がった。


「はは…面白い…。今まで居なかったタイプだな」


コツコツと音を立てながら近づいてくるルナシークに、レストはくるりと背中を向けて全力で走り出した。


「あっ!こら、まだ話は…!」

「知りませんっ!!」


引き留める声など無視してレストは会場に駆け込むと、顔をひきつらせながらバルコニーから一番遠いところまで避難したのだった。





レストが消えた方を見ながらルナシークはクッと口端をつり上げる。


「面白い。また、会おう…レスト=ナリューシェ…」


月光を反射する銀髪をかき上げながらルナシークは、愉悦ゆえつを含んだ声でそう呟いた。
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