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王都編2
しおりを挟む驚いて固まってしまったレストに王妃が優しく笑いかける。
「貴方の作る物はそれだけの価値があると思っているの」
「まぁ、まだ先の話だ。そんなに緊張せずともよい」
「は、はい。ありがとうございます」
「王城の専属師達が暮らす区域に部屋を用意した。お前達には一人、メイドが付くから分からないことがあればその者に聞くがよい」
「依頼書に書いた通り、食事と給金はきちんと出すわ。何か質問はあるかしら?」
「いいえ、大丈夫です。これからよろしくお願い致します」
どうやら王室専属師達と同じ待遇を与えられるようだ。話が纏まりレストとカルトが謁見の間から出ると、黒髪のメイドがペコリと二人に頭を下げた。肩で切り揃えられた黒髪がさらりと揺れる。
このメイドが二人に付くようだ。
「初めまして、レスト様、カルト様。お二人のお世話をさせていただきます、シアラ=ユーシェルトと申します」
「よろしくお願いします」
「では、お部屋の方へご案内致します」
歩き出したシアラに続いてレスト達も歩き出した。舞踏会の時に一度来たレストは落ち着いているが、初めて来たカルトは落ち着きなくキョロキョロと辺りを見回している。
そんなカルトがはぐれないようにレストが手を繋いだ所で、不意に前を歩いていたシアラが足を止めた。
「シアラさん?」
「…っ、お二人ともこちらへ!」
「へっ…?」
急に振り返ってレストの手を握ったシアラはぐいぐいと二人を引っ張って、大きな柱の影に隠れる。何が起こったか分からない二人がシアラを見ると唇に人差し指を当てて、静かにと目で合図をだしていた。
尋ねようと開いていた口をレストが閉じると同時に、鼻歌混じりの声とおそらくスキップをしているであろう軽快な足音が聞こえてくる。
「狐さんは可愛いなぁ~♪」
隠れていたレスト達には気づかず上機嫌な様子で、一人の男が通りすぎていった。灰色の長い髪を後ろで三つ編みにした白衣の男と鉢合わせになるのを、シアラはどうやら回避したかったようだ。
「突然申し訳ありませんでした」
「い、いえ。あの方は?」
「…若くして王室専属医師長になったグライス様なんですが…ちょっと頭がおか……変わってまして!」
頭がおかしいと言おうとしたのが分かったが、レストは何も聞かなかったことにした。
「それであの方は狐が大好きなんですよ。レスト様達を見たら何をするか分からなかったので隠れました」
「え、でも俺達、人間だよ?」
「そうなんですが、お二人とも狐色の髪をお持ちでしょう?狐が化けて会いに来てくれた!…とか言いかねないので」
レストとカルトはお互いに顔を見合わせた。そういえば先ほど狐が可愛いとか言いながら通りすぎていた事を思い出して、二人とも苦笑いを浮かべる。
なるほど、確かにそれはかなり変わっている。とレストは心の中で呟いた。
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