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王都編11
しおりを挟む「…本当にあの時の狐さんじゃない?」
「…そもそもなんでその助けてくれたのが狐が化けた姿と思ったんですか?」
「え?それはその子がそう言ったからだよ?」
きょとんときた表情でグライスがレストを見る。レストはというとちょっと考え込んでいた。
「その迷子になった森ってどこですか?」
「王都から東にある国境辺りかな?小さい頃はあっちの方の街に住んでて、両親と隣の村に行った時に一人で遊んでて迷子になっちゃったんだ」
「……………」
王都から東の方向の国境辺りというとレストの村しかない。レストは無言になりながら、改めてグライスの容姿をじっと見つめた。
灰色の髪にたれ目ぎみの茶色い瞳が幼い頃のある記憶と重なる。
「………女の子じゃなかったんだ…」
ぼそりとグライスに聞こえないくらいの小さい声で呟く。
今から十年ほど前、子供だったレストはよく両親に黙って森へと遊びに行っていた。そこで迷子になって泣きじゃくる子供に出会ったのだ。名前を聞かれて両親に森に居たことが知られたくなくて、この森に住む狐さんだよ、とか言った記憶がある。
「狐さん…?」
長い髪を下ろしていたし、女の子だと思っていた。
しかも、まさか大人になっても信じているとは思いもせず、レストは深いため息をついた。とはいえ、わざわざ名乗り出る必要もないだろう、とレストは考えて思い出した事は黙っておくことにする。
「狐さんじゃなくて、私の名前はレストです」
「レストちゃん?あ、僕はグライスだよ!」
「因みにグライスさんはおいくつですか?」
「僕は二十一歳だよ?」
ということは出会った時は十一歳の時だ。当時八歳だったレストには、とても歳上には見えなかったが。そう思うと弟のカルトはとてもしっかりしてるな、とレストは思う。
「ねぇねぇ、レストちゃん」
「なんでしょうか」
「僕とお友達になってくれないかな?レストちゃん、あの時の狐さんに似てるから仲良くなりたいな」
似てる所か本人です、とも言えずレストは曖昧に笑う。グライスはそんなレストの内心など知らず、ふにゃふにゃとした笑みを浮かべて返事を待っている。
「…まぁ、友達くらいなら…」
「本当!?ありがとう!」
「ぐぇっ」
承諾した瞬間に飛び付くようにぎゅうと抱きしめられたレストの口から、つぶれたような声が出た。細身だが男であるグライスの力は思いの外、強かったのだ。
「グライスさ、ん…くる…し…」
「あ、ごめんごめん」
やっと解放されたレストはぜぇぜぇと肩で息をしながら、やっぱり承諾したのは間違いだったかなと早くも後悔したのだった。
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