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王都編15
しおりを挟む「……すまない。頭を冷やしてくる」
ルナシークは顔を片手で覆いながらすっとレストから離れる。そして、一度もレストを見ることなく扉を開けて部屋を出ていってしまった。
音を立てて閉じた扉に背を預け、レストはずるずるとその場に座り込んだ。
「キス、されるかと思った…」
口を手のひらで覆いながら呟く。ドキドキと早鐘を打つ心臓を落ち着けるように、片手を添えるがあまり効果はない。
急な展開に思考も追い付かないレストはぼんやりと天井を見つめる。
「……ルナシーク様…」
切なげな声や熱を秘めた青い瞳、そして告げられた言葉を思い出して頬に熱が集中する。余裕のないルナシークなど初めて見た。
そして、それは今まではからかっているだけだと思っていたレストに、ルナシークの気持ちを知らしめるものになった。
コンコンッ
「レスト様、いらっしゃいますか…?」
ぐるぐると考えていたレストにノックの音とシアラの声が聞こえる。
レストが立ち上がってゆっくりと扉を開けると、優しげな表情を浮かべたシアラが立っていた。
「ルナシーク様に言われて来ました。お部屋に戻りましょう」
「…ルナシーク様は…?」
「反省して庭を歩き回っていましたよ。ふふっ、レスト様が思っているよりもルナシーク様は余裕がないようですね」
「…っ…」
「さぁ、参りましょう」
戸惑うレストに声をかけると、シアラはくるりと背を向けて歩き出した。レストもそれに続いて歩き出す。
「…ルナシーク様は女性に対して冷静な方だと思っていましたが、レスト様には冷静ではいられないようですね」
「あの、シアラさんはルナシーク様にどこまで聞いて…?」
「私はグライス様に嫉妬してレスト様を困らせてしまったから迎えに行ってやってくれ、と言われただけですよ」
嫉妬、という部分に動揺してレストは視線をさ迷わせるが、前を歩くシアラは気づかない。
レストはずっとドキドキしている胸を落ち着けるように深呼吸を繰り返す。
「私、どうしたらいいのかな…。告白、の返事…しないと…」
「すぐに答えを出す必要はないですよ。ゆっくり考えたらいいんです。それまではルナシーク様を振り回すくらいでいいんですよ」
独り言のように呟いたレストの言葉にシアラはそう言って、顔だけを後ろに向けウインクをする。軽いノリのシアラにレストはやっと緊張していた表情を緩め、笑みを浮かべた。
「…でも、暫くルナシーク様には会えないかな…」
顔を見たら先程の事を思い出して冷静ではいられない気がするレストは、ため息混じりにそう小さく呟いたのだった。
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