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第三章:盗賊ライドと不愉快な仲間たち
2、とある勇者一行の挑発
しおりを挟むなれなれしくライドに話しかけるそいつの姿に、俺は顔をしかめた。
眩しいことこの上ないギンギラギンの鎧に身を包み、腰にはキンキラキンに装飾が施された長剣。一振りするたびに宝石が落ちそうだ。
右手にはこれまた重そうなゴテゴテ装飾の兜。その頂点の赤い羽は意味があるのか?
「ライド、お前なんでこんなとこにいるんだ? 俺らと別れてどこぞの街で腐ってるって聞いたはずなんだがなあ」
その情報は一体いつのものだろう。随分古い、それこそ俺と出会う前の話ではなかろうか。
首をひねる俺の前にライドが立っているので、その表情は分からない。
ただひたすら無言を貫く様子に、男はしびれを切らしてライドの肩をガッと掴んだ。
「おい、聞いてんのかライド!? てめえのせいで俺は大怪我したんだ! 忘れたとは言わせねえぞ!」
突然のライドの過去カミングアウトきた。どういうことだと驚いてライドを見るも、その背中は何も語らない。
声をかけようとその背に手を伸ばした、まさにその瞬間──
「知らん!」
ライドの大声が響き渡った。
「は? 知らんっておま……」
「知らんもんは知らん! お前誰だ!」
顔を引きつらせてギンギラギンの鎧男がライドに詰め寄る。
「知らねえわけねえだろうが! 何年一緒にいたと思う!?」
「何年だ?」
「ガキの頃から一緒だったから……10年以上だ!」
「そうか、でも俺はお前を知らん。なんだこのギンギラギンの鎧は。目が痛くならないのか?」
「痛くなるわけあるか! これは俺の美しさを際立たせる……」
「顎の無精ひげなら際立ってるぞ」
「るせえ!」
ライドとしては普通の会話のつもりなのだろう……と、一年の付き合いでなんとなくわかる。
だが相手の男はおちょくられてると思ってるんだろうな、顔を真っ赤にして殴りかからん勢いだ。そろそろ止めた方がいいか?
と俺が動こうとするより早く、眩しい鎧の男を制する存在が現れた。
「それくらいにしとけよホッポ。時間の無駄だ」
「でもよお、ザジズ!」
「お前が俺の前にいた盗賊のライドか」
鎧男がなおも食い下がろうとするのを制した男が、俺達の前に立つ。
短くカットされた、ツンツンヘアの茶髪。日焼けなのか地黒なのか分からぬ小麦色の肌を露出させた腕で銀の鎧男を制したそいつは、鋭い茶眼で俺らを睨んだ。
「なんだよお前」
「ライド、あんた忘れたとか言ってるが、本当は覚えてるんだろ? 忘れたい過去ってだけだろ?」
「そんなことは……」
否定しようとするライドを無視して、男はライドの背後にいる俺を見た。
「あんたこの盗賊と一緒にパーティー組んでるのか?」
確認の問いに俺は頷く。「そうか」と言って、男はライドの肩にポンと手を置いた。
「俺もよく知らんが、この男、そこのホッポって幼馴染とパーティー組んで大怪我させたんだとよ。だがまあそれも傷痕が残るものの治ってる。とはいえ遺恨は消えないがな。知ってるか? このライドって男、怪我したホッポをほっぽって逃げたんだぜ?」
「でたらめを言うな!」
ホッポをほっぽって……という点に突っ込めない雰囲気に俺は戸惑う。ライドが真剣な様子を見せると、おちゃらけられないではないか。
慌てたように否定するライドに、ザジズと呼ばれた男はニヤリと笑う。
「覚えてないくせに、でたらめかどうか、どうやってわかる?」
「……」
口のうまいやつ。いや、ライドが単純なだけか。
「まあいいさ。今じゃこのホッポも立派な勇者様、お前とは格が違うんだよ。そして俺はそんな勇者一行の一メンバーな盗賊ってわけだ」
そうか、なんとなくそうではないかと思ってはいたが、黒を基調とした身軽そうな服に軽装備、腰に差されたダガーはなんとなくライドと雰囲気を同じにしているのだ。
「どうせチビチビと小さなクエストをやって稼いでる、どこにでもいるちっぽけなパーティーだろ? だったらあんまり大きな顔して歩いてんじゃねえよ。目障りだ」
「そんなのお前に関係ないだろ」
意味不明な理論を展開する盗賊男に俺が異議を唱えたら、男はニヤニヤしながら俺を見て──直後。
「ぐ……っ!?」
ドスッと嫌な音を立ててザジズの拳がライドのみぞおちにめり込んだ。
不意打ちにたまらず、ライドがくの字になって地面に倒れ込んだ。
「ライド!? ……なにしやがる!」
「別に? 邪魔だから排除したまでさ」
「ライドとそこのホッポってやつとの間に何があったか知らんが、お前には関係ないことだろうが!」
ギロッと強く睨んでも、男のヘラヘラ笑いは消えない。
「だから言ってんだろ、勇者一行の前でお前らみてえなちんけなパーティーがうろついてたら邪魔だって。隅っこ歩いてろよ、落ちこぼれ盗賊が」
「てめ……」
手を出してきたのは向こうだ。ならば俺が手を出しても文句は言えまい。
ザジズを殴ってやろうと握りしめる拳。だがそれを掴む手があった。
「ライド?」
「よ、せ。相手にするな、ザクス……」
未だ苦悶の表情を浮かべて胸元を押さえてるライドだったが、左手だけで俺の腕を掴む。その力は意外に強い。
「この一年で、勇者職がかなり幅をきかせるように、なってきてる。手出しすると面倒、だ」
その言葉に、俺は拳を下ろした。
そうなのだ、兄貴率いる勇者一行が魔王討伐に出たという話が出てから、世間では勇者崇拝の声が高い。
兄貴ほどではないにしても、勇者職の者を重んじる傾向にあるのだ。
「ザクス?」
そんな俺達をニヤニヤ見ていたザジズだったが、その背後で同じくニヤニヤしてたホッポが俺の名に反応する。
「はて、聞き覚えのある名前だな」
そう言って、ザジズを押しのけ前に出るホッポ。いまだ地面に這いつくばってるライドの横で膝をついてる俺を、屈んで覗き込んで来た。
「ん~? その顔、見覚えあるなあ……そうだ、ディルドだ。あの真っ先に魔王討伐に出た勇者。お前、あいつに似てるなあ」
「ディルドは俺の兄貴だ」
そう言うと、途端に見開かれる目。
「そうか、お前あいつの弟か! どうりで似てると……いや待てよ、噂に聞いたパーティーを追放された無能の弟は、茶髪茶眼じゃなかったか? 今のお前の姿、それはどう見てもディルドと……」
「んなこたあどうでもいいだろ。成長して兄貴に似てきたんだ」
「……ま、そういうこともあるか」
納得したのかしてないのか。多分どっちでもいいのだろう。
ニヤニヤ笑いながら、ホッポは俺の前にしゃがみ込む。
「どうでもいいが良くない。俺はライドへの恨みが残ってるんだ、ここで晴らさせてもらって、俺も気持ちよく魔王討伐に出ようと思う」
兄貴の影響で、勇者職のやつが一斉に魔王討伐に動いてるという噂。それを真実と裏打ちさせる発言に、俺の目が細められる。
「単に恐くて魔王討伐に出てなかったんじゃないのか? ライドを言い訳にすんなよ」
「言ってろ。ライドに恨みがあるのは本当だが、別にお前に理解しろとは言わねえさ。ただまあ、丁度いい。未だに冒険者業もやらずに腐ってるライドに興味はないが、パーティーを組んでるなら話は別だ。お前ら、俺らと勝負しろ」
その言葉への感想は、”またか”である。
兄貴といい、勇者ってのは勝負するのが好きなのか?
ウンザリした面持ちの俺の表情をどう読んだのかは知らない。だが満足げな笑みを浮かべてホッポは立ち上がった。
「明日の朝、このスベガスラの門が開く時、門のところに来い。勝負にいいクエストを用意しといてやる」
「馬鹿正直に行くと思うか?」
「来るさ。少なくともライドはな。そうだろ、ライド?」
俺の背後に向けられるホッポの視線。振り返ればまだ腹に手を当てつつもどうにか体を起こして、睨むようにホッポを見るライドがいた。
「俺との勝負、逃げるなよ。過去を忘れたならまた思い出させるまでのこと。いいな?」
言うだけ言って、ホッポは鎧に付けられたマントを翻し去って行く。その後をザジズがついて行く。
残されたのは俺とライド。
「ふう、危なかったのう」
ライドが殴られる寸前。その懐から慌てて俺の懐に避難した存在。
妖精の声が、やけに響いて聞こえた。
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