弟のお前は無能だからと勇者な兄にパーティを追い出されました。実は俺のおかげで勇者だったんですけどね

カッパ

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第三章:盗賊ライドと不愉快な仲間たち

16、ドラゴンが恐れる存在

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 見た瞬間に違和感を覚えた。何かに合致するような、けれどそれがなにか分からない。
 治療を終えて起き上がった彼女の姿を見たら、なんとなく理解した。理解はすぐに違和感に溶ける。
 
 俺はそれを知っている。

 その箇所は……彼女が怪我をした箇所は覚えがあった。一番大きいのはその背中。そこがバッサリ斬られたようで血がベットリとついていた。
 肌は火傷を負い、服が焦げていた。ルルティエラが治療したから、もう服しか焼けた名残はないが。
 そして何よりその瞳。瞳の奥にある輝き。
 それを見た瞬間、俺は全てを理解した。
 ああそうか、彼女は──

「いつ気付いたの?」
「今さっき」
「私を……私達を殺すの?」

 その問いにはすぐに答えることができない。

「おい、本当にそいつがゴールドドラゴンなのか?」

 信じられないといったふうにホッポが声を上げる。

「おそらくな」

 と言いつつも確信しているけれど。
 ホッポもまた、メルティアスの瞳にある黄金色に、戸惑いつつも納得したような顔をした。

「お前がザジズを殺したのか!?」

 エヴィアとザジズを攫ったのは、紛れもなくゴールドドラゴン。俺は見てなかったけれど。
 それが真実なら、攫ったのは目の前のメルティアスなのだろう。ゴールドドラゴンがそんなホイホイと複数体おられても困る。シュレイラとリューリーのことは分からんが。
 メルティアスという女性がドラゴンに乗っ取られてるのか。
 それとも、真に彼女がドラゴンなのか。

「違う、私じゃない」

 分からないが、ザジズに関しては否定が返って来た。
 疑問が確信に変わる。やはりあの傷から導き出される答えは──

「どうして俺達を襲った?」
「あいつが命じたから」

 返事は簡潔だが明瞭だった。
 あいつ、つまり誰かがドラゴンに命じて俺達を襲わせたのだ。

「そいつはドラゴンか? お前より強い?」

 その問いに対しては、首を横に振るという動作で否定が返って来る。

「あれは紛れもなく人。けれど強い人。危険な人。あれは私達に……私に言った。命令に従わないと、妹たちを殺すって」

 つまり、ドラゴンよりヤバイやつがいて、そいつがドラゴンを脅しているわけだ。

「ドラゴンより強いのってなんだよ。人? そんな人、いるかあ?」
「勇者なら可能じゃないか?」

 ライドとホッポの会話が聞こえてくる。そしてホッポ、おそらくお前の予想は当たっている。

「そいつ、どんなだった?」

 メルティアスに聞くと、どうしてそんなことを聞くのかと怪訝そうな顔をしつつ、答えてくれた。

「金髪碧眼の、美しい男。強い男。そう……お前に似てる」

 思い出すように顎に手を当てて言ったあと、彼女は俺を見た。
 その返答に、俺は深々と溜め息をついた。

「ザクスに似てるう? こんなイケメン顔、そう滅多と……いや待てよ、俺ほどのレベルなら唯一無二だろうが、ザクスレベルなら存在しうる、か?」

 ライドの言葉にホッポが顔をしかめる。

「お前どんだけナルシストなんだよ」
「どんだけってこの塔より高く」
「うわ……」

 そこの二人、ちょっと黙っててくれませんかね!? 思考の邪魔なんだが!?

「茶髪、茶眼、ではなく?」

 二人はほうっておいて、俺が聞けばメルティアスは首を傾げた。

「違う。金髪碧眼と言っただろう? お前と似てると言っただろう?」

 話を聞いていたのかと不快気に眉根を寄せられてしまえば、もう何も言えない。
 黙り込む俺の手に、誰かの手がふれた。セハだ。
 不安そうに見上げる目と視線が絡む。

「ねえ、あんたに似てる金髪碧眼って、ひょっとして……」
「セハがあいつを最後に見たとき、あいつの髪と目は茶色だったんだよな?」
「そう、なんだけど……」

 不安げな色がその目に宿る。
 紫の目が暗くなる。

「どういうことだ……?」
「私、あんたがディルドの能力を奪ったんだと思ってた」
「え?」

 意味が分からないと頭を悩ませる俺に対し、セハがとんでもないことを言い出した。

「それがあんたの、ザクスの能力だと思った。でも違ったってことだよね? つまり、ディルドは勇者の能力を取り戻し、ザクスはザクスで勇者の能力に目覚めたと……?」
「俺は勇者じゃねえよ。相変わらず無職だ」
「職業なんて、肩書だけで無意味だなんてこと、どの冒険者だって理解してるわよ。それでも私達は職にこだわった。こだわってあんたを追放して……あのザマよ」
「俺が能力を奪ったと思ってるのか?」
「でなきゃ、あんたが抜けてから弱くなった理由の説明がつかない」

 まあそうだよな。普通はそう考えるよな。
 本当は与えた能力を返してもらっただけなんだが、それをセハ達が受け入れるのは難しいだろう。誰だって本当は自分が弱いんだなんて、受け入れたくないものだ。
 とはいえ、真実は今はどうでもいい。
 問題は。

「兄貴が、いるのか……?」

 認めたくない。だが認めざるをえない。
 さっき俺は見たのだ。馬が殺されてるのを見た時、塔の外を何者かが塔の上に向かって飛ぶのを見た。そしてそれは──兄貴だった。やはりあれは見間違いじゃなかったんだ。

「なあメルティアスとやら。あんた相当強いドラゴンなんだろ?」
「多分」

 俺の言葉に頷く。

「あんたを脅した男はそれ以上だと?」
「そう……いや、少し違う」
「え?」
「男は確かに強い。が、私と互角かそれ以下。本気の私ならば勝てる可能性は十分にある」
「え?」

 意味がわからず俺とセハは首を傾げた。
 どういうことだ? 兄貴がなんらかの方法で勇者の能力を取り戻したとしよう。それならばドラゴンをも倒す強さがあってもおかしくない。
 だが彼女は違うと言った。ドラゴンは、兄貴の強さは脅威ではあっても恐怖ではないと言う。

「ちょっと意味がわからないんだが」
「訂正。男のそばにはもう一人いる」
「……え?」

 驚く俺の手をギュッとセハが握った。それを不快気に見るルルティエラを気遣う余裕もなく、俺もその手を握り返した。

「男のそばには白髪に銀の瞳をもつ女がいる」
「白髪銀瞳の女……」
「それが……」

 そこでメルティアスは一度言葉を切った。金の瞳が揺らぎ、オレンジになったり金になったり不安定に色を変える。それが心の不安を表しているかのように。

「それが、私が奴らの命令を聞く理由。あの女は、強い。あれが私は恐ろしい」

 そう言って、不安げな目をメルティアスは、ドラゴンは俺に向けた。

「ミユ……?」

 セハの不安げに小さな声が聞こえた。
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