48 / 48
第四章:僧侶ルルティエラは世界を救いたい
3、女心
しおりを挟むどうしたらいいでしょう。
家に戻って開口一番、そうルルティエラに聞かれた。だから俺は「ルルティエラの好きにしたらいい」と答えた。
それ以外どう言えと?
俺は確かにルルティエラの仲間だが、彼女を束縛する権利は俺にない。彼女はあくまで自由だ。パーティーを抜けたいと言うのなら、止める権利は俺にない。だからそう言ったまでだ。
だってのに、どうしてルルティエラは悲し気な顔をする?「そうですか」とだけ言って、昼食も食べずに部屋に閉じこもるんだ。
「なにがあったんだよ?」
先に飯を食ってたライドが、パンを片手に問いかけてくる。
その横ではメルティアスが食べつつ、ミュセルのためにパンを小さく千切っていた。二人は何も言わないが、ジッと俺を見つめてくる。
ライドの正面に座るセハは、何も気にしてないように黙々と食べ続けていた。
俺はセハの横に座って、食べながら先ほどあったことを伝える。
「……で、どうしたらいいって言うから好きにしていいって答えた」
「うわあ……」
なんだよ、どうしてそこでライドは顔をしかめて俺を見る。
メルティアスは相変わらず無表情だ。ミュセルは首をかしげている。
「ザクスは、ルルティエラにパーティーを抜けて欲しいのか?」
そうミュセルに聞かれて、「いや、そんなことは……」と答えると、ますます首を傾げてきた。なんだよ。
「ならば嫌じゃと言えば良いではないか。なぜ好きにしろなぞと突き放すようなことを言う?」
「いや、だってそれは俺が決めることじゃないから。どのパーティーに入るかは、ルルティエラが決めることで……」
と言ったら、またライドが「うわあ」とか言うから、いい加減イライラする。なんだよと睨んでも、奴は何も言わなかった。なんだか腹が立つので乱暴にパンを食いちぎる。本来はスープに付けて食べるやつだから、そのままだとパサパサだ。
「ザクスは女心が分かってないわねえ」
そう言ってスープを口にするのは、セハだ。
「なんだよそれ」
「そのままの意味よ。あんた本当に女心がわかってない」
「つまり?」
「ルルの気持ち、考えなよ」
「考えてるだろ。考えてるから好きにしていいって……」
「それよ!」
俺の言葉を遮るように、セハがパンを俺に突きつけてきた。パンに口をふさがれてムグッと顔をしかめる俺に、セハは薄笑いを浮かべる。
「あんた本当に……昔から人の気持ちに疎いっていうか、他人に興味ない……。強くなってもそこは変わんないのね。そんなんじゃ遅かれ早かれ孤立するわよ」
「別に俺は……」
そこまで言いかけて言葉を切る。
別に俺は? 俺はなんだ? ルルティエラの自由にしたらいいと思う。だが彼女が去るとなったら、どう思うんだ?
孤立しても良いと思った時もある。でも今は? ルルティエラが居なくなり、ライドが居なくなっても平気か? ミュセルは? メルティアスは? 全員が居なくなっても、俺は平気だと言えるのか?
自由にすればいいと思うのに、一人は嫌だなんてそれこそ身勝手ではなかろうか。
でもやっぱり俺の気持ちを押し付けるまねはしたくない。
それにと思う。
「あのヘンディとか言ったか、パーティーのリーダーっぽいやつ。いかにも熱血漢というか、冒険者らしい冒険者だったんだよ」
「つまり?」
先を促すライドに、俺はなんとなく目が合わせづらくて干し肉に手を伸ばした。千切ったパンと共にフォークでぶっ刺し、スープに浸す。口に入れれば何ともいえぬ香りと塩味が口の中に広がった。
「ルルティエラが何に悩んでるのかは大体想像つくんだよ。きっと彼女は俺と違って、僧侶として人々を救いたいと思ってる」
「まあそうだろうな」
「でも俺はそういう思いないからな。淡々と日々を過ごすために、ほどほどのクエストやって稼ぐだけ。俺にとって冒険者の仕事は、あくまで仕事。生きるための術。それ以外にこの能力を使うつもりはない」
「そうだな」
「対して冒険者らしい冒険者なヘンディってやつは、魔王城を目指すと言っていた。つまり世界を平和にしたいって志があるんだよ。ルルティエラの願いと完全一致ってやつだ」
「ふんふん」
「……なら、どっちのパーティーがルルティエラは幸せか、答えは見えてるだろ」
「ふーん」
なんだよその間延びした返事は。ジトリとライドを見ても、奴は完食して食器を片付けるべく立ち上がって俺に背を向けた。その表情はうかがい知れない。
「ルルティエラのことを思うなら、彼女がそう望むなら、あっちのパーティーに行った方がいいと思うんだよ」
「だったらなんでそう言わなかったの?」
「え?」
今度は横からセハに言われて彼女を見れば、紫の目が俺をジッと射抜いた。
「セハ?」
「どうしたらいいのかって聞かれたんでしょ? そのヘンディとかいうやつらのパーティーのほうがいいと思ったんなら、そっちに行けばいいと言えば良かったのに」
「まあそうだけど……決めるのはあくまでルルティエラだろ」
「それってつまり自分では決断したくないっていう逃げよね」
「え……」
ズバッと言われて思わず言葉を失った。
逃げてる? 俺は逃げてるのか?
呆然とする俺を残して、同じく食べ終わったセハも立ち上がった。
相変わらず無言のままのメルティアス達も席を立ち、残された俺はいつまで経っても食べ終わらず、冷えてしまったスープを前に途方に暮れるのだった。
26
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(14件)
あなたにおすすめの小説
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました
かにくくり
ファンタジー
魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。
しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。
しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。
勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。
そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。
相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。
※小説家になろうにも掲載しています。
二度目の勇者は救わない
銀猫
ファンタジー
異世界に呼び出された勇者星谷瞬は死闘の果てに世界を救い、召喚した王国に裏切られ殺された。
しかし、殺されたはずの殺されたはずの星谷瞬は、何故か元の世界の自室で目が覚める。
それから一年。人を信じられなくなり、クラスから浮いていた瞬はクラスメイトごと異世界に飛ばされる。飛ばされた先は、かつて瞬が救った200年後の世界だった。
復讐相手もいない世界で思わぬ二度目を得た瞬は、この世界で何を見て何を成すのか?
昔なろうで投稿していたものになります。
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます
なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。
だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。
……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。
これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!
石のやっさん
ファンタジー
皆さまの応援のお陰でなんと【書籍化】しました。
応援本当に有難うございました。
イラストはサクミチ様で、アイシャにアリス他美少女キャラクターが絵になりましたのでそれを見るだけでも面白いかも知れません。
書籍化に伴い、旧タイトル「パーティーを追放された挙句、幼馴染も全部取られたけど「ざまぁ」なんてしない!だって俺の方が幸せ確定だからな!」
から新タイトル「勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!」にタイトルが変更になりました。
書籍化に伴いまして設定や内容が一部変わっています。
WEB版と異なった世界が楽しめるかも知れません。
この作品を愛して下さった方、長きにわたり、私を応援をし続けて下さった方...本当に感謝です。
本当にありがとうございました。
【以下あらすじ】
パーティーでお荷物扱いされていた魔法戦士のケインは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことを悟った彼は、一人さった...
ここから、彼は何をするのか? 何もしないで普通に生活するだけだ「ざまぁ」なんて必要ない、ただ生活するだけで幸せなんだ...俺にとって勇者パーティーも幼馴染も離れるだけで幸せになれるんだから...
第13回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作品。
何と!『現在3巻まで書籍化されています』
そして書籍も堂々完結...ケインとは何者か此処で正体が解ります。
応援、本当にありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
感想ありがとうございます。ライドと違ってルルティエラは恨まれそうにないですからね、過去に因縁なんて話は無縁そうです。
とはいえ真面目過ぎて悩みがちな彼女。今後どうなるのか…。
ライド一人にお笑い担当させるのにも無理が出てきたので、セハに頑張ってもらいましょう(笑
今はただ…ナイスライドと言っておこう…
何かとザクス1人だと出来ない動きをしてくれるのが、物語に深みが出て最高に楽しいです。
彼との出会いがザクスの追放生活を彩ってくれてると思います👍🏻
感想ありがとうございます。
ライドという存在がいなければ、かなり重く退屈な話になってだろうなと。
ザクスはライドに手厳しいツッコミ入れてますが、結構ザクスはライドとの日々を楽しんでますね(笑
多忙で更新頻度遅くなっております、ごめんなさい。
そしてはい、闘い終わってますwあんまり真面目にバトル書くと変な方向にお話しいきそうなので、強引に軌道修正しました(苦笑
ミユはディルドに尽くしてるというより、あれは…ミユの心の内は、おいおいそのうちにw
魔王倒すぜー!と躍起になってる人より、こういうゆるい系のほうが強いメンバーが揃ったりするんですよねえ。
いつも感想ありがとうございます!