愛恋の呪縛

サラ

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第65話

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「俺から1つ提案だ。戦う術を身につけないか」

「戦う術?」



 日向が首を傾げると、虎珀の言葉に龍牙と忌蛇が反応して顔を上げる。
 対して虎珀は、コクリと頷いた。



「お前に何かあれば、俺が助けに行くことになっているが、ハッキリ言って何が起こるかわからない。念の為にも、自分で対処できるようにはしておいた方がいい」

「あー確かにそうだな。戦う術か……」



 その時。



「はいはーい!じゃあ、修練場いこうぜ!」



 ずっと機嫌が下がっていた龍牙が、顔を上げてバッと手を挙げた。
 そう話す龍牙の目は、なぜかキラキラしている。



「修練場?」



 日向が首を傾げると、龍牙は日向に抱きついたまま、まるで元気がなかったのが嘘のように明るく話す。



「城の端っこにある、道場のこと!俺の1番大好きな場所なんだ!」

「……え?道場?そんなのあったの?」

「知らなかったの日向?じゃあ、俺が案内したげる~ ♪ 早速行こ!」

「今から!?」

















 龍牙を先頭に、日向たちは修練場へと向かった。
 修練場は日向の部屋の反対方角にあり、長い廊下を歩いた先にあった。
 大きな硬い扉を開けると、よくある道場に似た部屋が現れる。



「こんな所あったのか……」



 修練場に入った日向は、グルっと中を見渡す。
 思い切り走り回れるほどの広さ、端には武具などが置かれている。
 鍛錬するための相手なのか、人形のようなものも置かれていた。
 だが、なにやらこの修練場は、普通の道場とは少し違う気がした。



「ここは、魁蓮と司雀が作ってくれた俺の修行場所!部屋は魁蓮で、壁には司雀の特別な結界が張られてるから、どんなに暴れても平気なんだぜ!」

「へぇ、すっげぇ」



 そう言われれば納得だ。
 日向が壁に触れると、枕のように吸収される感覚がある。
 妖力や衝撃を受けても、結界の中に吸い込まれる仕様になっているようだ。
 もちろん、この場所を使うのは龍牙が圧倒的に多い。
 黄泉に来てからずっと、龍牙はこの場所で己を鍛え上げていたという。



「ここは、龍牙の努力の証が刻まれてんだな」

「えへへっ」



 日向に褒められ、龍牙は笑みをこぼす。
 すると、2人の会話を聞いていた虎珀が、コホンと咳払いをした。



「じゃあ、早速始めるか。
 お前に必要なのは、対人間用の護身術。あとは霊力がないから、予め妖力の籠った武器も必要だろう。万が一、妖魔と1戦交えることになった時のために」

「護身術と、武器ね。うっし!
 でも、僕戦ったことないんだけど」



 その時。



「フッフッフ……」

「「「?」」」



 ふと、龍牙の笑い声が聞こえた。
 3人が龍牙へと視線を向けると……



「護身術ならば、この龍牙様にまっかせなさいっ!」



 どこから持ってきたのか、龍牙はメガネをかけながら、腰に手を当てて胸を張っている。
 見慣れない龍牙の姿に、日向は首を傾げる。



「そのメガネ、どっから持ってきたん?」

「取ってきた!頭良く見えるだろ~?」



 龍牙の自慢げに話す様は、どこか自信に満ち溢れている。
 クイッとメガネを上にあげると、龍牙はパチッと片目を閉じた。



「俺の戦い方はほとんどが独学だけど、仙人相手でもちょちょいのちょい!霊力無しだろうが、敵を倒すことが出来るようになるぜ!
 生身の体で、最強ってやつよ~!」

「さ、最強!!!!!!!」



 龍牙の言葉に、日向は目を輝かせた。
 グッと拳を握って、龍牙に視線を向ける。



「仙人にも対抗できるようになるのか!僕でも!?」

「もちろん!俺の体術を舐めんなよ~?
 これでも妖力無しで戦ったこと結構あるぜ!」

「おおおお!すげぇ!!!!
 龍牙先生!僕に護身術、教えてください!!!」

「ほほ~う?良い覚悟だ!よし、では今からこの龍牙先生が、特別にみっちり教えます!」

「よろしくおなしゃーす!!!!!!!」



 日向は元気よく、気をつけをして頭を下げた。
 龍牙は気を良くしたのか、鼻の下をこすって自慢げだ。
 そんな2人の様子を、虎珀と忌蛇は呆れた顔で見つめている。



「ねぇ、虎珀さん。あれ大丈夫かな……」

「大丈夫なわけあるか……何が先生だ、あのバカ龍。他人に教えるなど出来ないくせに……」

「あははっ……まあでも、なんとかなる、かな……?」

「ったく……」


















「コホン。ではでは!龍牙先生の、護身術授業を始めま~す!」

「いぇーい!」

「「………………」」



 龍牙は庭から持ってきた木の棒を手に、勉強を教える先生のような態度をとる。
 日向、虎珀、忌蛇は並んで座っているが、日向だけが龍牙の授業に大盛り上がりだ。
 もちろん、乗り気じゃない虎珀と忌蛇を、龍牙が見逃すはずがない。



「へいへいそこのお二人さ~ん?ちょっと気分上がってねぇんじゃねえの~?日向くん、手伝ってあげて!」

「虎珀!忌蛇!盛り上がってこーぜ!へいへい!」

「人間……なぜお前は、龍牙のバカについていける……」

「楽しいじゃん!僕は龍牙のこういうとこ好きだし!」

「きゃー!俺も日向だぁいすきぃ!!!!!!!!!」

「聞かなきゃ良かった……」



 本当に、龍牙は以前まで日向のことが嫌いだったのかと疑いたくなるほど、2人の仲は深いものになっていた。
 本物の兄弟のような2人は、虎珀と忌蛇を置いてけぼりにして、盛り上がりまくっている。
 すると龍牙は、再びコホンと咳払いをすると、メガネをクイッと上げながら口を開いた。



「ほんじゃ、早速始めるぞー!
 今から教えるのは、霊力を持っていない雑魚相手に使える、基礎のやつ!これを使いこなせば、日向は最強よ!」

「うっしゃあああ!」

「じゃあまず手本見せっから……虎、規律」

「は、俺?」

「言葉で先に言っても分かんねぇだろ?見せた方が早いって。ほら、はよはよ」 

「はぁ……」



 龍牙に引っ張られながら、虎珀は龍牙と向かい合って立つ。
 日向と忌蛇が壁の方へと寄ると、龍牙と虎珀はグッと構えた。
 妖力は使わずに、ただ体術の構えをするだけ。
 道場内が静寂に包まれると……



「「っ!」」



 2人は同時に動いた。
 だが、その動きはあまりにも早く、気づいた時には拳をぶつけ合っていた。
 一瞬の出来事に、日向はぽかんとしている。
 拳がぶつかりあった衝撃で、その場に風が吹き荒れる。
 すると、虎珀と拳をぶつけたまま、龍牙はニコッと日向に笑顔を向ける。



「まあ、こんな感じ!」

「できるかああああ!!!!」

「え?結構簡単だぜ?相手が来たら、グッと構えて、ギュッと拳握って、ブンッと殴る!」

「えぇ、擬音しか無ぇ……」

「ん?分かんない?ありゃりゃ、分かると思ったんだけどだけどなぁ」



 あくまで龍牙は、独学且つ感覚で覚えた男なのだ。
 言葉を使って説明したりするのは、彼にとっては苦手な分野と言える。
 そんな男が、他人に教えるなどできるわけがない。
 予想出来た結果に、相手をしていた虎珀がため息を吐いた。



「じゃあ、俺が説明するから。
 実技は龍牙にしてもらえ」

「お、おう!」
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