愛恋の呪縛

サラ

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第94話

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 その後。



「魁蓮ー!怪しいヤツいないよー!」

「匂いもありません、魁蓮様」

「魁蓮さん。狭い場所、隠れやすい場所。
 全部見たけど、怪しい人はいなかった」



 魁蓮の指示の元、肆魔は各々黄泉を見て回っていた。
 司雀は黄泉全体に、大きな結界を張った。
 龍牙は屋根を伝いながら、上から。
 虎珀は白虎に姿を変え、匂いと気配を。
 忌蛇は隠れやすい場所や裏道を中心に。

 魁蓮は城の屋根の上から、赤い目を光らせながら見渡している。



「……終いだ、戻れ」



 魁蓮が指示を出すと、全員が庭に戻ってきた。
 魁蓮も、そっと庭に降りる。
 すると魁蓮は、司雀へと視線を向けた。



「司雀、小僧はどうだ」



 そう聞く魁蓮の視線の先には、眠りについた日向を膝枕する司雀がいた。
 司雀は日向の様子を確認しながら、魁蓮に応える。



「異常はありません。かなり落ち着いています」

「……そうか」



 あれから、日向は突然眠りについてしまった。
 力の使いすぎか、はたまた別の理由か。
 原因は分からないまま、特に異常もなく心地よさそうに眠っている。
 その間も、庭に咲き誇った花はそのままだった。

 魁蓮は1輪花を手に取ると、昨日取った花と見比べる。



 (昨日の方が、力が弱いか……)



 見た目はどちらも美しい。
 だが、気配と輝きを比べると、昨日咲かせた花の方が弱く感じた。
 やはり、日向の力の成長が見える。
 だがこんなにも、急激に力が伸びるものなのか。
 魁蓮はしばらく考えると、どちらの花も衣の中へとしまった。
 そして背中を向けたまま、龍牙に声をかける。



「龍牙、小僧を部屋へ連れて行け。後は司雀に任せろ」

「りょーかい!」

「虎珀、忌蛇。共に行け」

「「はいっ」」



 龍牙は司雀から日向を預かると、横抱きで抱えて城の中へと向かった。
 そんな龍牙を、虎珀と忌蛇が追いかける。
 
 庭には、魁蓮と司雀が残った。
 魁蓮は庭の端で干されっぱなしになっていた自分の羽織に視線を向け、ゆっくりと近づく。
 完全に乾いていることを確認すると、魁蓮はそのまま肩から羽織った。



「魁蓮、どちらへ?」



 魁蓮の行動から、どこかへ行くのだと察した司雀は、そう呼びかける。
 すると、魁蓮は背中を向けたまま口を開いた。



「急用だ。城に楊を置いていく。小僧が目を覚ましたら、楊に知らせろ」

「えっ、こんな夜更けにどこへ……?」

「……何処だろうと、我の勝手だ」



 ポツリと呟くと、魁蓮はフッと姿を消した。
 また何も言ってくれないことにため息を吐きながらも、司雀は龍牙たちの後を追った。





 ┈┈┈┈┈┈┈ ❁ ❁ ❁ ┈┈┈┈┈┈┈┈





「「えっ……」」



 その頃、現世では。
 夜中、外に出ていた瀧と凪は、息ぴったりな間抜けな声が出る。
 というのも、目の前に突然現れた男に驚いているのだ。



「何を見上げている、無礼者」



 2人の前に現れたのは、魁蓮だった。

 城の庭を離れた魁蓮は、1人現世に来ていた。
 場所は、花蓮国の都の中心部。
 仙人が拠点を置く、国一番の繁華街。
 魁蓮は、この2人に会うためにやってきたのだ。
 当然、この2人はそんなこと知らない。



「貴様ら、夜更けに外で何をしている」

「いやそれこっちの台詞だ!!!!!」

「鬼の王……!?な、なぜここにっ……」



 瀧と凪が魁蓮に警戒していると……





 ドオオオオオオン!!!!!!!!





 遠くの方で、大きな衝撃音が響いた。
 その音に、瀧と凪がバッと振り返る。
 魁蓮も顔を上げると、はぁっとため息を吐いた。



 (異型か……どうりで、餓鬼共がここにいるわけだ)



 既に数々の異型妖魔と戦っている魁蓮は、衝撃音と遠くから漂う気配で理解する。
 現代の仙人最強である双璧が、揃って夜中に外に出ているのだ。
 むしろ、異型妖魔関連でなければおかしい。
 そんな中、瀧と凪は霊力を込めていた。



「居たぞ、凪!」

「うん!直ぐに私たちがっ」

「ならん」

「「っ!!!!」」



 剣に手をかけて飛び出そうとしていた2人に、魁蓮は一言言葉を挟む。
 2人が動きを止めると、魁蓮は2人の間を通って前へと出た。



「餓鬼共、獲物あれを我に寄越せ。少々問いたいことがある」

「は?な、何言ってっ」

「履き違えるな。我は貴様らに用があってここへ来た。異型との戦闘で死なれてはつまらんのでな、ついでに殺してやろう」

「私たちに、用だと……?」



 魁蓮の言葉に、2人が固まっていると、魁蓮は横目で2人へと振り返る。



「念の為、言っておく。
 我は人間を殺すつもりは無い」

「「っ!!!!!」」

「故に……邪魔をするなよ、人間」



 魁蓮はそれだけ言うと、瞬時に妖力を込める。
 重いものが高いところから落とされたような、そんな急激な重圧が、2人にのしかかる。
 恐怖すら呼び起こしそうな妖力の圧を、魁蓮はただ漂わせ続ける。
 その時。





 ドオオオオオオン!!!!!!!!!!!!





 魁蓮たちの前に、何かが落ちてきた。
 砂埃で視界が塞がれ、魁蓮は眉間に皺を寄せる。
 そして、異様な気配が流れ込んできた。



「鬼の王の気配を感じるなぁ……?」



 前方から聞こえてきた、楽しんでいるような声。
 魁蓮はその声を耳にした途端、後ろに立っていた瀧と凪の足元に、黒い影を作る。
 突然現れた影に、2人は剣を構えた。
 直後、ジャラジャラと音を立てながら、黒い影の中から2本の鎖が姿を現す。
 鎖はそれぞれ、瀧と凪の元へと近づいてきた。



「餓鬼共、その鎖を掴んでおけ。
 決して離すな、離せば死ぬぞ」

「「えっ……!」」

「案ずるな、害は無いようにしている。早くしろ」



 冷たい声で命令する魁蓮に、2人は警戒しながら鎖を握った。
 すると鎖は、くるくると瀧と凪の腕に絡みつく。
 だが、ただ絡みついてきただけで、特に悪影響は無かった。
 絡みついてくる力も、そんなに強くない。
 本当に、害はなかった。



「聞き分けは良いなぁ?良い良い。
 貴様らが死ぬと、小僧が喧しくなるだろう」

「「っ………………」」



 魁蓮は2人が鎖を掴んだのを確認すると、再び前方へと視線を向ける。
 立っていた砂埃が晴れだし、前方から聞こえてきた声の主が姿を現し始める。



「こいつは運がいい……本物の鬼の王だ……」



 魁蓮の前にいたのは、獣のような毛を生やした異型妖魔だった。
 体は熊のように大きく、まるで獲物を見つけた獣のごとく、ヨダレをダラダラ垂らしている。
 異型妖魔は魁蓮を見つめると、どこか興奮したように笑い声を上げ始めた。



「ギャハハハハ!!!!!
 とんでもねぇ圧だなぁおい!一体全体、どうなってんだよおメェさんは!
 ずっと会いたかったぜ……」



 すると、異型妖魔は全身に妖力を流し始めた。
 魁蓮と戦うのを楽しみにしていたのか、今すぐにでも飛び出してきそうな勢いだ。
 魁蓮の後ろに立っていた2人は、目の前で起きている状況に息を飲み込む。

 だが、魁蓮はどこか不機嫌そうな表情を浮かべた。



「異型は、無礼な者しかおらんなぁ……。
 余程頭が軽いのだろう……不愉快極まれり……」



 低く冷たい声で呟くと、魁蓮は更に妖力を込めた。
 その重圧は、異型妖魔がビクッと肩を跳ね上がらせるほどのもの。
 圧倒的強者の圧を感じ、異型妖魔は目を見開く。



「悪いが、貴様と戦うつもりはない。貴様には、我の為に死んでもらう。
 せいぜい、役に立ってから死ね」



 直後……。
 その場の空気が、フッと変わった。
 重圧も恐怖も感じるのは変わらないが、双璧と異型妖魔は、今まで感じたこともないものを感じ取る。

 それは、簡潔に表すならば……死の恐怖。



「これを扱うのは……いつぶりだろうなぁ……」



 魁蓮はニヤリと口角を上げると、赤い目をギラっと光らせた。
 同時に、赤い目まで妖力を巡らせる。
 魁蓮の妖力が強さを増す度に、グラグラと地面が揺れた。
 最強の異名を冠する双璧も、感じたことの無い重圧に、息をするのすら忘れそうなほど冷静ではいられなくなる。
 花蓮国を揺るがすほどの、魁蓮の重圧と気配。

 その時、魁蓮はそっと手を前に差し出した。
 そして……目を細めて口を開く。





「奥義……
 《よう死花スウファ》」





 低く、たった一言囁いた。
 それは、この世で最も謎が多い存在と言われた男の、現代では誰も知らない技……。

 決して抗うことが許されない、死の奥義が……
 今、現世に放たれる。
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