愛恋の呪縛

サラ

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第124話

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 魁蓮は、ここ数日ある違和感を抱えていた。
 それは、要のことだった。
 魁蓮は日向の稽古に集中するために、志柳への調査を先延ばしにして、その間の志柳は要に任せていた。
 期間は2週間、色々あって稽古は出来なかったが、任せた期間は既に終わっていた。
 そのはずだったのだが。



「連絡が、無い……?」



 現世へ向かう道中、魁蓮は抱えていた違和感を忌蛇に話していた。

 まだ忌蛇の体内に毒があった頃、忌蛇は魁蓮の伝達係を務めていた。
 毒は消えたが、その名残もあって、忌蛇は今も魁蓮の伝達係として任務をこなしている。
 今回も、魁蓮の手伝いをするために同行していた。
 そんな中で聞かされた、魁蓮の話。



「期間は終えているのだが、要から一通も伝達が届いていない。彼奴にしては、珍しいことだ」

「確かに、要さんはそういうのちゃんとする方ですよね」



 情報交換など、何かあれば力を貸してくれる要。
 それは封印される前から変わらないことで、要がその伝達を怠ったこともない。
 今まで欠かさず行ってきたことが、突如途絶えた。
 魁蓮でも、流石に気にしていた。

 今日は、様子を見るついでに、遊郭邸へ行くように決めていたのだ。



「要に何かあったとすれば……あまり好ましくない事態が起きているといっても過言では無い。
 忘れていた、という理由ならいいのだが……」



 要は魁蓮が信用しているだけあって、力もそれなりにある。
 そんな要に緊急事態が起きたとしたら、それはむしろ危険な状況と言っても良いくらいなのだ。
 掴みづらい情報を掴むことが出来る要を失うのは、魁蓮としてはかなりの痛手。
 情報源を失うようなもの。
 そして何より、遊郭邸には若い遊女たちがいる。
 酷いことになっていなければいいのだが……。

 という魁蓮の思いは……酷い結果で返ってきた。





「魁蓮さんっ……これはっ……」

「っ………………………」





 遊郭邸にたどり着いた2人。
 だが、目の前にあるのは、見慣れた遊郭邸の建物では無い。
 遊郭邸の屋敷が粉々に崩れ、焼き跡となった無惨な光景だった。
 忌蛇が驚きで立ち尽くす中、魁蓮は冷静に、崩れた屋敷へと近づく。



「……チッ……」



 焼き跡、崩れ方。
 その全てから、魁蓮は察した。
 遊郭邸は、何者かの襲撃を受けたのだ。
 襲撃から時間が経ったのか、崩れた屋敷から妖力は感じなかった。
 辺りを見渡してみるが、何も残っていない。
 要も、遊女も、いない。
 代わりに、恐らく客として来た妖魔たちの死体が、全身焦げた状態で転がっている。



 (逃げた……のか?)



 要に限って、簡単にやられる訳が無い。
 そう考えている魁蓮は、要は殺されていない方に賭けた。
 ならば、何があったのか、要や遊女達がどこへ行ったのか、探す必要がある。



「忌蛇、屋敷付近を徹底的に調べろ。
 些細なことでも構わん、何かあれば知らせるんだ。我は城に戻り、司雀に事情を話す」

「分かりました!」



 忌蛇はそう返事をすると、素早い動きでその場から立ち去った。
 1人になった途端、魁蓮は眉間に皺を寄せる。
 見慣れた遊郭邸は、呆気なく崩れた。
 大丈夫だと思い込んでしまった結果だ。
 魁蓮がここに来ている時点で、少しは狙われる可能性だってあるはずなのに。



 (何があった……要っ……)





 ┈┈┈┈┈┈┈ ❁ ❁ ❁ ┈┈┈┈┈┈┈┈





 そして現在。
 虎珀の呼び出しにより、司雀は城に戻り、調査をしていた忌蛇も城に戻ってきた。
 あれから忌蛇は周辺を調べてみたが、手がかりは何も無かったそうだ。
 最悪の状況になり、全員に緊張が走る。
 魁蓮・日向・肆魔は城の大広間へ集まり、遊郭邸の状況を魁蓮が説明していた。
 事情を聞いた司雀は、唖然としている。



「遊郭邸を崩すとは……並大抵の妖魔ではできないことです。あの屋敷は、要様の結界があるのに」

「要の結界は、司雀には劣るが強力ではある。今まで崩されたことなど、無かったのだが……」



 魁蓮の表情、肆魔の反応。
 その全てを見ていた日向は、いかに緊急事態が起きているのかを理解する。
 要とは1度しか会ったことがないが、城に自由に出入りしていた以上、魁蓮たちにとってはかなり親密な関係にはあるのだろう。
 そんな要が、いわば失踪。
 全て途絶えてしまった要に、魁蓮は少し頭を抱える。



「要には、志柳の調査を2週間任せていた。その間に何かあったか……」



 (志柳…………)



 虎珀の故郷であり、今では妖魔たちが立ち入ることが出来ない無主地の場。
 謎だらけの場所に関わった要が失踪となると、1番怪しいのは、紛れもなく志柳。
 今までも危険視されていたというのに、今回の要の件で、更にその危険性が増した。



「魁蓮、いかが致しますか」



 全員の視線が、魁蓮に集中する。



「……少し、考える」






┈┈┈┈┈┈┈ ❁ ❁ ❁ ┈┈┈┈┈┈┈┈





 話し合い終了後。
 魁蓮は自室へ戻り、日向と肆魔は大広間に残っていた。
 突然起きた緊急事態に、全員が口を開くことなく、唖然としている。



「あの遊郭邸を崩したとなると、犯人は相当な力の持ち主でしょう……魁蓮が少し警戒するのも、仕方の無いことです」



 ポツリと呟いた司雀の言葉。
 全員がその言葉に同意していた。
 危険か危険じゃないか、それは魁蓮の態度で変わると言っても過言では無い。
 だが今回ばかりは、魁蓮の反応や態度を見なくても、大変なことが起きているのは、肆魔全員が理解していた。



「志柳の調査については、先延ばしになる可能性があります。ですが、いつ出発しても大丈夫なように、準備は進めておいてください。日向様、虎珀」

「はい」

「わかった」



 今更、志柳への調査を中止する訳にはいかないのだろう。
 異型妖魔の手がかりが掴めるかもしれない唯一の場所なのだから。
 しかし、要が失踪したことで、ますます志柳という場所への警戒心は強まるもの。
 何より、今の志柳は瑞杜として復興している。
 昔のような雰囲気ではないことから、魁蓮でさえも簡単に手出し出来ない状況。
 一体、何が起きているのだろうか。



「とにかく、今は魁蓮の判断をっ」


「あら、皆さん勢揃いで」


「「「「っ!?!?!?」」」」



 突如、大広間に現れた気配。
 その声が聞こえてくるまで、誰一人として気配を感じ取ることが出来なかった。
 司雀の言葉を遮ったその声と気配に、肆魔全員が立ち上がって、瞬時に戦闘態勢へと変わる。
 ただ1人、日向だけは理解ができていなかった。



「えっ、みんな急にどうしっ」

「日向っ!俺の近くにいて!」

「えっ?」



 ポカンとする日向に龍牙が近づくと、サッと日向を背後へと隠す。
 何が起きているのか分からない日向は、ひょこっと顔を覗かせた。



「あら?肝心の魁蓮はいないの?気配は感じるのに。うふふっ、別室かしら?」

「っ………………」



 その声と共に現れたのは、なんとも美しい女性。
 びん削ぎの綺麗な黒髪に、少し切れ長な目。
 彼岸花のような赤い色の紅を指した、妖艶な姿だった。
 その美しさに、日向は少し見惚れてしまう。



 (誰……すげぇ綺麗な人……)



 ここに来たということは、彼女も妖魔なのだろう。
 日向は美しさの塊とでも言うような女妖魔を、龍牙の背後から覗く。
 だが、この場でそんな悠長なことを考えていたのは、日向だけだった。
 なんの警戒心も持っていない日向とは別で、肆魔は女性の姿に、緊張が走っている。
 いつも冷静な司雀も、女性の姿を見た瞬間、冷静な雰囲気を装いながら警戒していた。
 そして、やっと、司雀が重たい口を開く。



「お久しぶりですね、巴様」

「ふふっ、相変わらず綺麗ね。司雀」
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