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第123話
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それから月日は流れ、数週間。
日向と魁蓮は、あの日を境に少し変化した。
といっても、目立った変化があった訳では無いが、少しずつ互いへの接し方が、柔らかくなった気がする。
そしてなにより、1番の変化だったのは……
魁蓮が、日向のことを気にかけるようになったこと。
魁蓮がその理由を語ることは決してないが、日向に対する魁蓮の態度が変わったことに、肆魔は喜んだ。
そんな、ある日のこと。
「「おおおおお!!!!!」」
昼餉を食べ終えた日向・龍牙・虎珀の3人は、庭に来ていた。
魁蓮は現世に用があり、忌蛇はその付き添い。
司雀は夏市の影響を受けていないか、城下町以外の町に様子を見に行っているため、3人は城で留守番をしていた。
「日向!強くなったなぁ!超いい!」
「龍牙に同意だ」
「ほんとに!やったね!」
3人がやっていたのは、日向の自主練習。
あれから日向の力が強くなったため、それを上手く利用できないか、この数日間試行錯誤していたのだ。
結果、飲み込みが早い日向は、たった数日で自分の力を上手く使いこなせるようになっていた。
成長としては……
魁蓮の枷の鎖のように、日向は地中から植物の根や太い幹を出して、自在に操れるようになったこと。
そして、その根や幹の太さ、大きさも変えられるようになったこと。
城の庭ほどの大きさであれば、自分の意思で花を咲かせられるようになったこと。
部分的に力を集中させて治療することが出来るようになり、無駄な力の漏出が無くなったこと。
そして今は、庭で植物の根を操っていたところだ。
動きは、魁蓮の枷と同じ感じ。
特に問題ない日向の力の使い方に、龍牙は腕を組んで感心する。
「しっかし、何かと便利になったな?日向の力。今までは、怪我治す程度だったのにさ」
「あぁ、そうだな。これだと戦いにも使えそうだぞ」
2人の言葉に、日向は納得したように頷く。
ここまで力を使いこなしてきて分かったのは、日向の力は、単なる治癒の力では無い。
花や植物が、大きく関係しているものだった。
実際は、まだ分からないことの方が多いのだが。
今となっては、苦労していることはあまりない。
(瀧と凪、驚くかなぁ~!)
ずっと守ってくれた2人に、ここまでできるようになったと、いつかは教えたいと考える日向。
またどこかで会えるとしたら、成長した自分を見て欲しいものだ。
日向は自分の掌に視線を落とし、少しずつ成長している自分を、誇らしく思っていた。
「ところでさぁ、日向ぁ~?」
そんな中、先程まで日向の力に関心していた龍牙が、何やらニヤニヤしながら日向に近づいてくる。
その表情からして、日向にはあまり良くないことを聞かれるのではないだろうか。
若干の嫌な予感を抱えながら、日向は身構えて首を傾げる。
すると、日向が感じた嫌な予感は、意外な方向で的中した。
「最近、魁蓮とはどうなのよ~」
「……ん?」
「だから、魁蓮とはどんな感じなんだってばぁ~」
「………………え?」
二度聞き返され、二度意味が分からなかった。
龍牙が何を聞きたいのか分からず、日向は目をパチクリさせていると、龍牙はもどかしくなったのか、遂に言葉にした。
「魁蓮といい感じになったんだろ~!?
どこまで進展したか、聞いてんの~!!」
「……はぁ!?」
龍牙の質問の意味は、やっと分かった。
分かったのだが、今度はその質問をしようとした経緯の方が分からない。
恐らく、この言葉の聞き方からして、そういう意味での質問なのだろう。
いや、だとしても何故なのだ。
「い、いやいやいや!何もねぇって!」
「またまたぁ~!仲良くなったのに~」
「いや、仲良くなってはないと思うけど……」
「んなことねぇだろ!俺たちは、魁蓮と日向がちょー仲良しになったって知ってるから!」
「え、えぇ……?」
龍牙の言いたいことは、日向にも伝わる。
確かに、初めの頃に比べれば、魁蓮との仲は深まっただろう。
それを仲良しと言い表していいものかどうかは微妙だが、少なからず、仲はもう悪くないとは思う。
ただ、あくまでその程度だ。
そもそも魁蓮が、日向と仲良くなったなんて考えを抱くだろうか。
恐らく、いや、絶対にそんなこと思わないだろう。
「いやまあ、もう嫌い……では無いかなぁ」
「え?魁蓮のこと?」
「うん……前はすげぇ嫌いだったけど、今は嫌いじゃないと思う。少しずつ、良い面も見えてきたし」
「え?そんなの、当たり前じゃん。
だって日向、魁蓮のこと好きでしょ?嫌いな訳ない」
「………………は、ん?え、え、ちょっと待って?」
今まで真面目に考えていたことが、フッと白紙になった気がした。
龍牙の発言は、硬いもので頭を殴られたくらいの、とんでもない衝撃だ。
日向が慌てて手を挙げて止めると、龍牙はぽかんとしている。
この態度からして、どうやら先程の言葉はふざけ無しの本気の言葉だったらしい。
ならば尚更、驚きだ。
「僕が、魁蓮のことを好き?」
「うん」
「それは……恋愛として?」
「もちろん」
「いやなんで!?」
異議あり!とでも言うように、日向はビシッと手を挙げて抗議する。
だが、龍牙は片眉を上げて、なぜ?と言いたげだ。
いや、こちらがなぜ?と言いたくなる状況だ。
「え?好きなんだよね?魁蓮のこと」
「僕がいつそんなこと言った!?」
「えー!言ってたじゃん、この前!
魁蓮のこと、かっこいい!胸ドッキドキ!って」
「はぁ!?ドッキドキ!?僕がいつそんなことっ……」
その時、日向の脳内に、ある日の出来事が蘇った。
思い出したのは、龍牙たちと一緒に、日向流の蓮蓉餡の饅頭の作り方を庭で考えていた日のこと。
たまたま現れた魁蓮に、何とか誤魔化そうとして、日向が慌てて言った言い訳。
【お、おおおおお前宛ての、ここここ恋文を書いてたんだ!!!!!】
【……あ?】
【ま、まだ完成してなくて!み、みんなに相談してたんだよ!僕、恋文書いたことないし、大丈夫か確認してもらってたんだ!!は、恥ずかしいから隠してただけだって!
あ、あああ!カッコイイなぁ魁蓮は!ほんと、目が離せないほどの美男子!!よっ!イケメン!!!
好きが溢れて溢れて仕方ないよ!!惚れまくり緊張しまくり!!僕の心臓ドッキドキ!!!♡♡♡】
(え……もしかして……)
日向はその後の龍牙の反応を思い出す。
【へぇ!日向って、魁蓮のこと好きだったんだな!
俺、ちょー応援するよ!!!】
「……………………」
「思い出した?言っただろ?好きーって」
「いや誤解ぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!!!!!」
まさか、今の今まで誤解されたままだとは思っていなかった。
何より、あれは日向の中では黒歴史になっている。
それを大真面目に受け止められていたなんて。
一体誰が想像するだろうか。
(あっ!?ちょっと待って!?)
日向はハッとして、龍牙の後ろにいる虎珀に視線を向けた。
龍牙の性格からして、この話を誰にもしていないわけがない。
していないとしても、勘違いしているのでは無いのか、と察することくらいは出来るはずだ。
そしてそれに気づく可能性が誰よりも高いのは、龍牙のことをずっと見守っている虎珀が、1番有力。
日向が虎珀を見つめると……。
「(が・ん・ば・れ)」
虎珀は、口パクでそんなことを言った。
あの感じ、虎珀は龍牙が勘違いしていることを知っていたようだ。
なんとタチの悪い。
虎珀に文句を言いたい気持ちを抑え、日向は龍牙に視線を戻す。
「龍牙ぁ!あれは違うよ!蓮蓉餡の饅頭の作り方を考えてるってバレたくなくて、嘘ついたんだよ!」
「え?そうだったのか?全部嘘?」
「当たり前だろ!!!」
「じゃあ……魁蓮のこと、好きじゃねえの……?」
「好きじゃっ……」
その時、日向は言葉につまる。
なぜ言葉につまったのか、自分でも分かっていない。
ただ、この質問をぶつけられた時、ポッと頭の中に浮かんだのは、紛れもない魁蓮の姿。
思えば、第一印象からは随分と印象が変わった。
といっても、まだまだ嫌いな部分はあるのだが、良い面が見えてきたのも事実。
【お前の恥じらう顔は、存外悪くない。元より、お前の顔は見て飽きぬものだからなぁ】
【っ!】
【その恥じらい赤く染める顔を、他の者に見せるなよ?我だけに堪能させろ。もし破れば、その顔を見せた者諸共殺してやる……。
お前は我のものという自覚を持て、良いな?】
「うおおおおおおおお!?!?!?!?!?!?」
「うぇっ!?な、なに!?どしたの日向!」
突然思い出す、魁蓮の言葉。
他にも、今まで言われてきた言葉が溢れ出し、日向の顔を真っ赤に染めあげていく。
(なんで今思い出すんだよ!!関係ねぇだろ!)
「何だよ、やっぱ好きだったのか?」
「おっ!?」
心の中で奮闘している日向に、ズバッとした言い方が耳に入る。
日向が顔を上げると、いつの間にか虎狛が龍牙の隣に並んでいて、冷静な顔で日向を見つめていた。
追い討ちをかけてくる人物が2人に増えてしまった。
「な、何のことでしょうか……」
「魁蓮様のことに決まっているだろう。あの時の言い訳が嘘だって言うのは知っていたけど……
その反応、もしかして本気で好きになったとか?」
「な、なってないなってない!!!」
「へえ……ふーん……」
「含みのある返事、やめて虎珀ぅ……」
なぜ2人はそんなことを言ってくるのだろうか。
日向の今までの行動の中で、そんなふうに見えた瞬間でもあったのだろうか。
確かに、日向くらいの年齢の少年は、恋愛の話くらい話題には出るだろう。
何もおかしいことはない、むしろ青春だ。
だがしかし、よりにもよってなぜ魁蓮なのか。
「てかそもそも、アイツが誰かのことを好きになるわけがっ」
「我が、何だ」
「ぎゃあああああ!!!!!!!!!!」
お約束のような流れと、聞き慣れた低い声に、日向は情けない声で悲鳴をあげた。
前からそうだが、なぜこうも丁度いい瞬間に現れるのだろう。
誰が現れたのか理解しながら、日向は後ろを振り返る。
「か、魁蓮っ!?」
後ろにいたのは、帰ってきた魁蓮だった。
だが、一緒に行動していたはずの忌蛇の姿がない。
魁蓮は片眉を上げて、日向を見下ろしている。
「何だ、喧しい」
「急に現れんなや!ちょっとは考えてくんね!?」
「あ?」
完全な八つ当たりだ。
それを自覚しながらも、日向は心臓がドキドキと大きな音を立てている。
話は、聞かれていないようだ。
それに安堵していると、魁蓮は真剣な表情で、虎珀へと視線を移した。
「虎珀。司雀はどこにいる」
「司雀様なら、町へ行きましたが……」
「至急、城へ戻るよう伝えろ。問題が起きた」
「えっ……な、何かあったのですか?」
虎珀が聞き返すと、魁蓮は眉間に皺を寄せた。
その表情は、どこか不穏な空気を漂わせている。
そして、魁蓮が次に放った言葉は、全員が耳を疑うものだった。
「遊郭邸が…………崩壊していた」
「「「っ……!?」」」
日向と魁蓮は、あの日を境に少し変化した。
といっても、目立った変化があった訳では無いが、少しずつ互いへの接し方が、柔らかくなった気がする。
そしてなにより、1番の変化だったのは……
魁蓮が、日向のことを気にかけるようになったこと。
魁蓮がその理由を語ることは決してないが、日向に対する魁蓮の態度が変わったことに、肆魔は喜んだ。
そんな、ある日のこと。
「「おおおおお!!!!!」」
昼餉を食べ終えた日向・龍牙・虎珀の3人は、庭に来ていた。
魁蓮は現世に用があり、忌蛇はその付き添い。
司雀は夏市の影響を受けていないか、城下町以外の町に様子を見に行っているため、3人は城で留守番をしていた。
「日向!強くなったなぁ!超いい!」
「龍牙に同意だ」
「ほんとに!やったね!」
3人がやっていたのは、日向の自主練習。
あれから日向の力が強くなったため、それを上手く利用できないか、この数日間試行錯誤していたのだ。
結果、飲み込みが早い日向は、たった数日で自分の力を上手く使いこなせるようになっていた。
成長としては……
魁蓮の枷の鎖のように、日向は地中から植物の根や太い幹を出して、自在に操れるようになったこと。
そして、その根や幹の太さ、大きさも変えられるようになったこと。
城の庭ほどの大きさであれば、自分の意思で花を咲かせられるようになったこと。
部分的に力を集中させて治療することが出来るようになり、無駄な力の漏出が無くなったこと。
そして今は、庭で植物の根を操っていたところだ。
動きは、魁蓮の枷と同じ感じ。
特に問題ない日向の力の使い方に、龍牙は腕を組んで感心する。
「しっかし、何かと便利になったな?日向の力。今までは、怪我治す程度だったのにさ」
「あぁ、そうだな。これだと戦いにも使えそうだぞ」
2人の言葉に、日向は納得したように頷く。
ここまで力を使いこなしてきて分かったのは、日向の力は、単なる治癒の力では無い。
花や植物が、大きく関係しているものだった。
実際は、まだ分からないことの方が多いのだが。
今となっては、苦労していることはあまりない。
(瀧と凪、驚くかなぁ~!)
ずっと守ってくれた2人に、ここまでできるようになったと、いつかは教えたいと考える日向。
またどこかで会えるとしたら、成長した自分を見て欲しいものだ。
日向は自分の掌に視線を落とし、少しずつ成長している自分を、誇らしく思っていた。
「ところでさぁ、日向ぁ~?」
そんな中、先程まで日向の力に関心していた龍牙が、何やらニヤニヤしながら日向に近づいてくる。
その表情からして、日向にはあまり良くないことを聞かれるのではないだろうか。
若干の嫌な予感を抱えながら、日向は身構えて首を傾げる。
すると、日向が感じた嫌な予感は、意外な方向で的中した。
「最近、魁蓮とはどうなのよ~」
「……ん?」
「だから、魁蓮とはどんな感じなんだってばぁ~」
「………………え?」
二度聞き返され、二度意味が分からなかった。
龍牙が何を聞きたいのか分からず、日向は目をパチクリさせていると、龍牙はもどかしくなったのか、遂に言葉にした。
「魁蓮といい感じになったんだろ~!?
どこまで進展したか、聞いてんの~!!」
「……はぁ!?」
龍牙の質問の意味は、やっと分かった。
分かったのだが、今度はその質問をしようとした経緯の方が分からない。
恐らく、この言葉の聞き方からして、そういう意味での質問なのだろう。
いや、だとしても何故なのだ。
「い、いやいやいや!何もねぇって!」
「またまたぁ~!仲良くなったのに~」
「いや、仲良くなってはないと思うけど……」
「んなことねぇだろ!俺たちは、魁蓮と日向がちょー仲良しになったって知ってるから!」
「え、えぇ……?」
龍牙の言いたいことは、日向にも伝わる。
確かに、初めの頃に比べれば、魁蓮との仲は深まっただろう。
それを仲良しと言い表していいものかどうかは微妙だが、少なからず、仲はもう悪くないとは思う。
ただ、あくまでその程度だ。
そもそも魁蓮が、日向と仲良くなったなんて考えを抱くだろうか。
恐らく、いや、絶対にそんなこと思わないだろう。
「いやまあ、もう嫌い……では無いかなぁ」
「え?魁蓮のこと?」
「うん……前はすげぇ嫌いだったけど、今は嫌いじゃないと思う。少しずつ、良い面も見えてきたし」
「え?そんなの、当たり前じゃん。
だって日向、魁蓮のこと好きでしょ?嫌いな訳ない」
「………………は、ん?え、え、ちょっと待って?」
今まで真面目に考えていたことが、フッと白紙になった気がした。
龍牙の発言は、硬いもので頭を殴られたくらいの、とんでもない衝撃だ。
日向が慌てて手を挙げて止めると、龍牙はぽかんとしている。
この態度からして、どうやら先程の言葉はふざけ無しの本気の言葉だったらしい。
ならば尚更、驚きだ。
「僕が、魁蓮のことを好き?」
「うん」
「それは……恋愛として?」
「もちろん」
「いやなんで!?」
異議あり!とでも言うように、日向はビシッと手を挙げて抗議する。
だが、龍牙は片眉を上げて、なぜ?と言いたげだ。
いや、こちらがなぜ?と言いたくなる状況だ。
「え?好きなんだよね?魁蓮のこと」
「僕がいつそんなこと言った!?」
「えー!言ってたじゃん、この前!
魁蓮のこと、かっこいい!胸ドッキドキ!って」
「はぁ!?ドッキドキ!?僕がいつそんなことっ……」
その時、日向の脳内に、ある日の出来事が蘇った。
思い出したのは、龍牙たちと一緒に、日向流の蓮蓉餡の饅頭の作り方を庭で考えていた日のこと。
たまたま現れた魁蓮に、何とか誤魔化そうとして、日向が慌てて言った言い訳。
【お、おおおおお前宛ての、ここここ恋文を書いてたんだ!!!!!】
【……あ?】
【ま、まだ完成してなくて!み、みんなに相談してたんだよ!僕、恋文書いたことないし、大丈夫か確認してもらってたんだ!!は、恥ずかしいから隠してただけだって!
あ、あああ!カッコイイなぁ魁蓮は!ほんと、目が離せないほどの美男子!!よっ!イケメン!!!
好きが溢れて溢れて仕方ないよ!!惚れまくり緊張しまくり!!僕の心臓ドッキドキ!!!♡♡♡】
(え……もしかして……)
日向はその後の龍牙の反応を思い出す。
【へぇ!日向って、魁蓮のこと好きだったんだな!
俺、ちょー応援するよ!!!】
「……………………」
「思い出した?言っただろ?好きーって」
「いや誤解ぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!!!!!」
まさか、今の今まで誤解されたままだとは思っていなかった。
何より、あれは日向の中では黒歴史になっている。
それを大真面目に受け止められていたなんて。
一体誰が想像するだろうか。
(あっ!?ちょっと待って!?)
日向はハッとして、龍牙の後ろにいる虎珀に視線を向けた。
龍牙の性格からして、この話を誰にもしていないわけがない。
していないとしても、勘違いしているのでは無いのか、と察することくらいは出来るはずだ。
そしてそれに気づく可能性が誰よりも高いのは、龍牙のことをずっと見守っている虎珀が、1番有力。
日向が虎珀を見つめると……。
「(が・ん・ば・れ)」
虎珀は、口パクでそんなことを言った。
あの感じ、虎珀は龍牙が勘違いしていることを知っていたようだ。
なんとタチの悪い。
虎珀に文句を言いたい気持ちを抑え、日向は龍牙に視線を戻す。
「龍牙ぁ!あれは違うよ!蓮蓉餡の饅頭の作り方を考えてるってバレたくなくて、嘘ついたんだよ!」
「え?そうだったのか?全部嘘?」
「当たり前だろ!!!」
「じゃあ……魁蓮のこと、好きじゃねえの……?」
「好きじゃっ……」
その時、日向は言葉につまる。
なぜ言葉につまったのか、自分でも分かっていない。
ただ、この質問をぶつけられた時、ポッと頭の中に浮かんだのは、紛れもない魁蓮の姿。
思えば、第一印象からは随分と印象が変わった。
といっても、まだまだ嫌いな部分はあるのだが、良い面が見えてきたのも事実。
【お前の恥じらう顔は、存外悪くない。元より、お前の顔は見て飽きぬものだからなぁ】
【っ!】
【その恥じらい赤く染める顔を、他の者に見せるなよ?我だけに堪能させろ。もし破れば、その顔を見せた者諸共殺してやる……。
お前は我のものという自覚を持て、良いな?】
「うおおおおおおおお!?!?!?!?!?!?」
「うぇっ!?な、なに!?どしたの日向!」
突然思い出す、魁蓮の言葉。
他にも、今まで言われてきた言葉が溢れ出し、日向の顔を真っ赤に染めあげていく。
(なんで今思い出すんだよ!!関係ねぇだろ!)
「何だよ、やっぱ好きだったのか?」
「おっ!?」
心の中で奮闘している日向に、ズバッとした言い方が耳に入る。
日向が顔を上げると、いつの間にか虎狛が龍牙の隣に並んでいて、冷静な顔で日向を見つめていた。
追い討ちをかけてくる人物が2人に増えてしまった。
「な、何のことでしょうか……」
「魁蓮様のことに決まっているだろう。あの時の言い訳が嘘だって言うのは知っていたけど……
その反応、もしかして本気で好きになったとか?」
「な、なってないなってない!!!」
「へえ……ふーん……」
「含みのある返事、やめて虎珀ぅ……」
なぜ2人はそんなことを言ってくるのだろうか。
日向の今までの行動の中で、そんなふうに見えた瞬間でもあったのだろうか。
確かに、日向くらいの年齢の少年は、恋愛の話くらい話題には出るだろう。
何もおかしいことはない、むしろ青春だ。
だがしかし、よりにもよってなぜ魁蓮なのか。
「てかそもそも、アイツが誰かのことを好きになるわけがっ」
「我が、何だ」
「ぎゃあああああ!!!!!!!!!!」
お約束のような流れと、聞き慣れた低い声に、日向は情けない声で悲鳴をあげた。
前からそうだが、なぜこうも丁度いい瞬間に現れるのだろう。
誰が現れたのか理解しながら、日向は後ろを振り返る。
「か、魁蓮っ!?」
後ろにいたのは、帰ってきた魁蓮だった。
だが、一緒に行動していたはずの忌蛇の姿がない。
魁蓮は片眉を上げて、日向を見下ろしている。
「何だ、喧しい」
「急に現れんなや!ちょっとは考えてくんね!?」
「あ?」
完全な八つ当たりだ。
それを自覚しながらも、日向は心臓がドキドキと大きな音を立てている。
話は、聞かれていないようだ。
それに安堵していると、魁蓮は真剣な表情で、虎珀へと視線を移した。
「虎珀。司雀はどこにいる」
「司雀様なら、町へ行きましたが……」
「至急、城へ戻るよう伝えろ。問題が起きた」
「えっ……な、何かあったのですか?」
虎珀が聞き返すと、魁蓮は眉間に皺を寄せた。
その表情は、どこか不穏な空気を漂わせている。
そして、魁蓮が次に放った言葉は、全員が耳を疑うものだった。
「遊郭邸が…………崩壊していた」
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