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第62話 ニーズヘッグ対アンフィス

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「ケツァルコアトル、敵だ! 迎えうつぞ!!」

 ニーズヘッグは叫んだ。

 ケツァルコアトルはトカゲ顔の女の姿のまま、彼やアルマから少し離れた位置にいたはずだった。
 だが、すぐには彼のそばにはやってこなかった。

 ニーズヘッグがケツァルコアトルに視線を移すと、彼が無理矢理着せた服を脱ぎ、正座をして丁寧にたたんでいた。

「あの……何をしてるのかな……? ケツァルコアトル?」

「これは、アルマが汝のために買った服であろう?
 我はそれを借りていただけだ。
 そんな大切なものを着たままドラゴンの姿になり、服を破り捨てるわけにはいかないからな」

 たたんだ服をニーズヘッグに手渡し、そしてようやくドラゴンの姿に変化した。

 呆然とそのやり取りを見ていたアルマにニーズヘッグは服を渡し、

「アルマがさっき見たトカゲ顔の全裸の女が、ケツァルコアトルだよ。
 彼? 彼女? は、人の姿にもなれるんだ」

 彼女にそれだけ告げると、ようやくケツァルコアトルに股がった。

 しかし、ケツァルコアトルは顔に巻かれていた包帯のことをすっかり忘れていたらしかった。
 引きちぎれたそれはほとんどは落ちていたものの、若干顔に貼り付いており、今度は前足でめんどくさそうに顔から剥がし始めた。

 人の姿になれると教えたことをニーズヘッグは心底後悔した。

 そうこうしているうちに、アルビノの魔人の襲来をニーズヘッグは許してしまったからだ。


「ランスの竜騎士、ニーズヘッグ・ファフニールだな。
 それに、ケツァルコアトルにアルマもいるか。ちょうどいい」

 アルビノの魔人の口から自分たちの名前が出た瞬間、ニーズヘッグは槍で攻撃を仕掛けていた。

 魔人は剣や槍どころか杖さえも手にしてはいなかった。
 武器を持たぬ相手に騎士がするべき行動ではなかった。
 だが、ニーズヘッグはそれをした。

 何も手にしていないことこそが、かなりの魔法の使い手であることを意味しているのがわかったからだ。
 ピノアが同じスタイルだったからだ。

 だから躊躇なく攻撃をしかけることができた。

 そして、ニーズヘッグは、生まれてはじめて本気で繰り出した攻撃を、生まれてはじめて弾き返された。

 魔人は、瞬時に魔法で槍を作り出し、彼の攻撃を受けるのではなく、互いの槍の切っ先を衝突させることによって、彼の槍を弾き返した。

 そして、

「俺、槍って嫌いなんだよ。何回も脇腹に刺されたから。
 おかげで先端恐怖症になっちまったし」

 武器の形状を巨大な鎌に変化させ、ニーズヘッグの首を狙ってきた。

 やられると思った。

 だが、その鎌が彼の首をはねる直前に、魔人はその武器を大気に還していた。

「まさか、あんたに襲われるとは思わなかったぜ。
 ステラやピノアやレンジですら、身構えはしたが攻撃を仕掛けてはこなかったのによ」

 魔人はそう言った。

「少しは頭を冷やせ、ニーズヘッグ。
 その男からは敵意は感じないだろう?」

 ケツァルコアトルが言った。

「だけど」

「レンジたちなら無事だ。あの飛空艇とかいう天駆ける船で眠っているだけなのだろう? 2000年前の時代から時を遡りやって来た者よ」

「おっ、さすがドラゴンなだけあるな。そこまでわかるのか。
 話がわかる奴がいるとマジ助かる。
 ステラたちに説明して理解させるのにはかなり骨を折らされたからな。同じことを繰り返さないといけないかと思ってゾッとしてたところだ」

 その魔人は、槍だけでなく、同じことを繰り返すことも、どうやら同じくらい嫌いらしかった。

「大方、大賢者とやらが汝の時代に行き、本来ならば起きることがなかった大厄災でも引き起こそうとしたのであろう?
 未来のステラやニーズヘッグたちは、それを食い止めるために、汝の時代へ向かい、汝と出会った。そんなところだろうな」

 ケツァルコアトルの言葉に、魔人は感動していた。

「そこまでわかるとか神か? あんたが神なのか?」

「ドラゴンだ。神は汝の方であろう。神の子よ」

「あ、そうだった。忘れてたわ」


 ニーズヘッグは全く話についていけなかった。
 それはアルマも同じだった。


「詳しいことは後でゆっくり話すとして、とりあえず俺は味方だ。
 ステラたちは疲れてたのか寝ちまったから、寝かせておいてやろうと思って、ひとりで町の様子を見に来た。
 どうやら町もあんたらも無事みたいでよかったよ」

 魔人はそう言って微笑んだ。

「俺はアンフィス・バエナ・イポトリル。
 未来の大賢者や未来のステラが預言を何度も書き換えたりしてくれたから、この時代の救厄聖書の最後に書かれてる預言がどんな内容になってるかは知らねーけど……
 預言にある、『救厄の聖者』か、『大厄災を起こす者』、あるいは『大厄災を起こす力を持つ者』、それが俺」

 よろしく、と彼は言った。


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