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偽りの朝 2

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意を決して彼に伝える。それを聞いたことでレイル様がどう思うのか、想像すると胸が冷えた。レイル様は決して私に冷たい一面を見せない。そう取り繕ってくれているのだと知っている。だけど。だからこそ。彼が今何を考えているのか詮索しては肝が冷える。
レイル様は口元に柔らかい笑みを浮かべて、私の頬にキスを落とした。そしてくっと軽く抱き寄せると、呟く。

「ん………。わかった、早めに切り上げるよ。というか、今日は休んじゃおうかな」

「それは………」

流石にいきなりのお休みは難しいだろう。気を使ってくれるのは嬉しいが、無理をさせたい訳では無い。私が言い淀むと、レイル様は私の瞳を見て、またひとつ笑みを零した。

「分かってるよ、リーフェ。ちゃんと仕事してくるから。………はー、しかし今こそこの仕事を嫌に思ったことはないな」

「………仕事?」

妙な言い方をするな、と思って聞くと、レイル様は私の目元を優しく触れながら微笑んで言った。

「仕事だよ。俺にとって、政務も、王太子であることも、全て仕事。………どうして、それをこなすかわかる?」

「………それは………」

何故なのだろう?
分からない。彼が王族に生まれた以上、その責務を果たすためだと思っていた。だけど、違う?理由がある?完全に混乱した私に、レイル様はくすりと小さく笑って、額をこつりと合わせてくる。レイル様はこうしたスキンシップをよく好む……と思うけれど、これも取り繕っているのだろうか?

「あなたのためだよ。俺は、あなた以外はどうでもいい」

「………」
 
きつとこれも嘘なのだろう。取り繕った詭弁。それにどう返せばいいのかわからず黙っていると、不意にムクリと起きたレイル様が鬱陶しそうに髪をかく。そして、ため息を混じりに言った。

「はー、そろそろ起きるか。このままじゃまた、リーフェを抱きたくなる」

レイル様はカーテンから零れる太陽の光に眩しそうにしながら衣服を手に取ってシャツを着込んでいく。その光景を見るのもこれで最後だと思うと緩んだ涙腺から涙がこぼれそうになる。それにはっとして手をぎゅっと握ってその衝動に耐えた。振り向いたレイル様に、それは気づかれなかったようだ。

「………リーフェも起き上がれそう?いつまでもそんな格好でいると、悪い狼に食べられちゃうよ。俺とかね」

「………えっ、と。起きられるわ……」

食べられてもいいと思うし、食べて欲しいとも思う。だけどそれを口にすることは出来なくて、私はただ事実だけを返した。そのまま起き上がると、レイル様が私の髪を撫でてくれた。優しいその手つきに胸がはねる。それと同時に視界に零れてくる赤い髪。真っ赤な、血のような色。私はこの赤髪があまり好きではなかった。繊細な美しさを持つレイル様には釣り合わない、燃えるような赤い髪の毛。
…………レイル様の想い人であるヴィヴィアナ様は、レイル様同様太陽の光をかき集めたような金髪をしている。

「侍女を呼ぼうか。昨日たくさん無理をさせたから、多分歩けないと思うし」

「っ……」

か、と熱くなる頬に、レイル様が口付けをひとつ落とした。その口付けを受けながら、私は彼に向かって笑った。最後まで、笑ったままの自分をレイル様には覚えていて欲しかったから。泣いて、取り乱して、ひどく迷惑をかける記憶より、ずっと笑っている私を覚えていてもらった方がずっといい。自分をそう励ますようにして、レイル様に言う。

「では、行ってらっしゃい。また、後で」

言うと、レイル様も嬉しそうに微笑んでくださって、そして優しく抱きしめてくれた。ふわりと、触れるような抱擁。

「はぁ………行きたくないな、仕事。いっそリーフェも連れ込めたらいいんだけど」

「冗談は仰らないで。もうお時間なのでしょう?」

「割と本気なんだけど………。でもまあ、それはそれで仕事にならないから、これでいいのかもしれないね」

“仕事にならないから”
それは、わたしの存在がそこまで不快ということなのだろうか。そう思ったけれど、聞くことは出来なかった。



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