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ご武運を
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「じゃあ、行ってくるよ。リリアンナ」
馬上のディアルトは、青空を背負って清々しい笑みを浮かべた。これから戦地に行くとは思えない爽やかさだ。
「殿下、お気をつけて」
ディアルトの手の甲にキスをしようと、リリアンナが手を伸ばした時、彼がサッとバラを差し出した。
その数は四本。
ヒュウッと誰かが尻上がりの口笛を吹き、周囲が沸く。
「『死ぬまで愛の気持ちは変わらない』。はい、受け取って。リリアンナ」
「……もう。縁起が悪いです」
これ以上ないほど大きな溜め息をつき、リリアンナはバラを受け取った。
「浮気したらお仕置きだからな? リリアンナ」
「私はただの護衛係です」
ディアルトの軽口に、リリアンナはいつものクールな態度で切り返す。
同時に彼がわざと〝いつものように〟振る舞ってくれているのだと察し、泣きたい気持ちになる。
「あと、無事に戻って来たら結婚と〝あのこと〟考えてくれよ?」
(ちょ……っ、こんな所で!)
ディアルトの大きな声にリリアンナはカァッと赤面したが、もう遅い。すぐにニヤニヤ笑った騎士たちが一斉にディアルトに向かってブーイングをする。
「考えるだけです」
ぴしゃりと言ったあと、リリアンナはディアルトの手甲に敬愛のキスをした。
「ご武運を」
周囲から「いいなぁ」と嫉妬混じりの声が聞こえ、その中からヤケクソ気味に「俺たちには勝利の女神がついているぞ!」と吠える声がした。
やがて隊列は動き出し、ディアルトはリリアンナの頭をポンポンと撫でてから、馬の腹を軽く蹴った。
「リリアンナ、いつも通りに過ごすんだよ。愛してる!」
最後にそう言うと、ディアルトは振り返らずに馬を進めていった。
先頭集団に続くように後続も動き出し、リリアンナはケインツに手を引かれ静かに後ずさる。
騎士団に恋人のいるレディたちもその場にいたが、彼女たちは運命に引き裂かれる王太子と白百合の君の悲恋に涙ぐんでいた。
遠くには王族や離宮の面々もいる。ソフィアは隊列が動き出してすぐ踵を返し、慌てて侍女や賑やかしの貴族たちが彼女の後を追った。
王都をまっすぐ進む隊列を、リリアンナはいつまでも見送ろうと思った。
……のだが、キャアッと黄色い声が上がったかと思うと、レディたちに取り囲まれてしまった。
「リリアンナ様。これからわたくし達とお茶をしませんか?」
「お辛いでしょう? わたくし達と同じですわよね? 一緒にお喋りをして思いを晴らしましょう」
「リリアンナ様。恋人の無事を祈るおまじないがあるんです。一緒にしませんこと?」
どこまでもたくましいレディたちの熱気に、リリアンナは思わず笑みを零した。
「……私で宜しいのなら、ご一緒しましょう」
女性向けの優しい笑みを浮かべると、またキャアッと声がする。
長身の彼女を取り囲むようにレディたちが集まるのを、ケインツは安心したように見守っていた。
馬上のディアルトは、青空を背負って清々しい笑みを浮かべた。これから戦地に行くとは思えない爽やかさだ。
「殿下、お気をつけて」
ディアルトの手の甲にキスをしようと、リリアンナが手を伸ばした時、彼がサッとバラを差し出した。
その数は四本。
ヒュウッと誰かが尻上がりの口笛を吹き、周囲が沸く。
「『死ぬまで愛の気持ちは変わらない』。はい、受け取って。リリアンナ」
「……もう。縁起が悪いです」
これ以上ないほど大きな溜め息をつき、リリアンナはバラを受け取った。
「浮気したらお仕置きだからな? リリアンナ」
「私はただの護衛係です」
ディアルトの軽口に、リリアンナはいつものクールな態度で切り返す。
同時に彼がわざと〝いつものように〟振る舞ってくれているのだと察し、泣きたい気持ちになる。
「あと、無事に戻って来たら結婚と〝あのこと〟考えてくれよ?」
(ちょ……っ、こんな所で!)
ディアルトの大きな声にリリアンナはカァッと赤面したが、もう遅い。すぐにニヤニヤ笑った騎士たちが一斉にディアルトに向かってブーイングをする。
「考えるだけです」
ぴしゃりと言ったあと、リリアンナはディアルトの手甲に敬愛のキスをした。
「ご武運を」
周囲から「いいなぁ」と嫉妬混じりの声が聞こえ、その中からヤケクソ気味に「俺たちには勝利の女神がついているぞ!」と吠える声がした。
やがて隊列は動き出し、ディアルトはリリアンナの頭をポンポンと撫でてから、馬の腹を軽く蹴った。
「リリアンナ、いつも通りに過ごすんだよ。愛してる!」
最後にそう言うと、ディアルトは振り返らずに馬を進めていった。
先頭集団に続くように後続も動き出し、リリアンナはケインツに手を引かれ静かに後ずさる。
騎士団に恋人のいるレディたちもその場にいたが、彼女たちは運命に引き裂かれる王太子と白百合の君の悲恋に涙ぐんでいた。
遠くには王族や離宮の面々もいる。ソフィアは隊列が動き出してすぐ踵を返し、慌てて侍女や賑やかしの貴族たちが彼女の後を追った。
王都をまっすぐ進む隊列を、リリアンナはいつまでも見送ろうと思った。
……のだが、キャアッと黄色い声が上がったかと思うと、レディたちに取り囲まれてしまった。
「リリアンナ様。これからわたくし達とお茶をしませんか?」
「お辛いでしょう? わたくし達と同じですわよね? 一緒にお喋りをして思いを晴らしましょう」
「リリアンナ様。恋人の無事を祈るおまじないがあるんです。一緒にしませんこと?」
どこまでもたくましいレディたちの熱気に、リリアンナは思わず笑みを零した。
「……私で宜しいのなら、ご一緒しましょう」
女性向けの優しい笑みを浮かべると、またキャアッと声がする。
長身の彼女を取り囲むようにレディたちが集まるのを、ケインツは安心したように見守っていた。
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