モラトリアム

おてんば松尾

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第一章 

第23話

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「ごめんね。家にお見舞いに来てくれたんだね。母から聞いた」

私が学校を休んでいる間に大門君は何度も家に来たらしい。
礼儀正しい子だったと母から伝えられた。

「ああ、スマホ繋がらないし、心配した。もう平気?」

「うん!もう元気」

「そうか……後で話がしたい。それと……もしブロックしてるなら解除して」

大門君は半ば強制的にそう告げると席に戻った。
電話やラインがくるのが嫌だった。
何を話せばいいのか分からなかったし、思い上がっていた恥ずかしい勘違い女みたいで自分が嫌だった。
とにかくどうするか、大門君に何を言うかちゃんと決めてから話がしたかった。

「どうしたの?大丈夫?なんか大門君怖かったんだけど……」

麗美が心配している。

「大丈夫だよ、なんでもない」

明里は学校を休んでいる間にちゃんと決めた。
まずは大門君に北海道に一緒に来てくれたことのお礼を言う。
そして、今回の件は、クラスメートが心配で、大門君がついてきた。

ただそれだけの事だった。別に何もなかったんだから、彼女に特別に詳しい事情を話す必要はない。

「明里ちゃん……私、明里ちゃんの親友だよね。少なくとも私はそう思っている。だからちゃんと悩みがあったら打ち明けてね。役に立たないかもしれない。けど明里ちゃんの事は全力で守るから」

優しい麗美の言葉に泣きそうになった。
でも大丈夫。

私は強い。

昼休みに大門君からラインが入った。

『話がしたい。放課後、駅前のカフェで会える?』

明里は了解と返信した。

大門君は部活が忙しいみたいで、待ち合わせは七時になった。明里はいったん家に帰ってから出ることになりそうだ。

「あ、あの……すみません」

学校帰りに校門のところで呼び止められた。
相手はテニス部の真菜ちゃんだった。
麗美は『誰?』という顔をしていた。

「ん……と。はい」

「あの、この間駅で昭先輩と一緒にいた方ですよね」

「そうだけど」

「少しお話があるんですが、いいでしょうか」

彼女は一人で来る勇気がなかったのか、友達を連れていた。
面倒だなと思った。

「あぁ、ん……と、駄目。ごめんね」

「なんでよ!!」

真菜ちゃんは敬語を忘れてようだ。まぁ、いいんだけど。
彼女がエキサイトしてくるのが伝わる。
ああ、この子泣き出しそうだ。

「ん?私はあなたに話がないから。駄目」

明里は笑顔でそう言うと、驚いた表情の後輩をよそに歩き出した。

「ひ、人の彼氏をとらないで!」

後ろから叫ばれた。
あぁ、こういうパターンか。明里はため息をつく。

「大丈夫。とらないし。話したくないのは、面倒なことが嫌なだけだから。後はあなたと大門君が二人で話し合って。私は彼とは何でもないから心配しないで」

明里は真菜ちゃんにそう言って、麗美と一緒に校門を出た。





明里は麗美とカフェに来ていた。麗美は話を聞くまでは塾に行かないと言ってきかなかった。

「私は大門君と北海道へ行った。けど何もなかった。だから彼女の邪魔はしないし、これから大門君と私がどうにかなるとか、そういうことはない」

明里は麗美にそう話した。同じホテルに泊まったけど何もなかったという。
事実、何もなかった。
あの時、自分の中では、大門君と何かあってもいいと思っていた。
でも自分の本当の気持ちは絶対に誰にも言えない。

麗美は明里が大門君と二人で北海道二泊三日の旅に行っていたことに驚いたようだった。それはそうだろう。まさか彼氏でもない男子と二人きりでなんて普通有り得ない。

「大門君が勝手についてきたんだよね?それで、明里に手を出さなかったってこと」

「彼は、私が思いつめていると感じて、家出とか、多分自殺するんじゃないかと思ったんだと思う。おじいちゃんが亡くなってすぐだったから。私が介護をしていることを大門君は知っていたから」

「じ、自殺って……」

それはないでしょうと麗美はかたを震わした。

「けどそれで、北海道までついてくるなんて……あーでももし、明里がすごい思いつめた顔で大荷物で駅にいたとしたら、私もついて行ったかもしれない。そう考えると不思議じゃないかな」

麗美は考えているようだった。そこまで彼がクラスメイトに肩入れするのはおかしい。そう思っているんだろう。

「確かに北海道までついてくるとは思わなかった。けれど彼も北海道って言った時点で、意地になって絶対ついて行ってやると思ったって。私が来れないでしょう?って顔だったから腹が立ったみたいよ」

明里はわざとらしく笑った。
彼は正義感の強い人だ。困っている人がいたらほっとけないタイプ。それは三日間一緒にいてよくわかった。

「それで帰りに、たまたま駅で彼女に会ってしまったってことね」

「そう。間が悪いことに鉢合わせたの」

麗美は顔をしかめた。

「それは気まずいね。でも大門君は、彼女に何て言ったんだろう?さっきの感じだと、『自分の彼氏を取るな』っていうってことは、大門君は明里と付き合うから別れてとか言ったのかな?」

「それはどうかわからないけれど、私は付き合う気はないし、あと受験まで一年でしょう勉強頑張らなきゃいけない。そんな時に彼氏なんか作っていられない」

「そうだね。あと一年の我慢だもんね。ここまで頑張ってきたんだから、今更チャラチャラ遊ぶのはおかしいよね。今が一番大事な時だし……」

今まで高校生で必ずあるようなイベントを全て勉強に捧げた。同志のような存在の麗美。だからお互い気持ちは同じだ。

「うん。そう。とりあえずこれから大門君と話をするけど、この問題をだらだら続けたり、尾を引くような感じだと、勉強にも差し障るから。さっさとケリをつけようと思ってる。もう私には構わないでって言うから、だから麗美は心配しないで。ごめんね面倒なことに巻き込んで」

「いや、いいよ。全然大丈夫。でもあの彼女、ちょっと怖かったから。これからも毎日一緒に帰ろうね。なんかされたら嫌だしね」

「ありがとう」と笑顔で麗美にお礼を言う。

「それじゃあ私は塾に行くけど、大門君との話し合いで、もしこじれたりしたら、すぐに連絡してね。私も明かりの味方になるから」

「ありがとう。気をつけて行ってきてね」

少し歩くと麗美が走って戻って来た。

「い、今ね……恋バナしてたんじゃない?私たち!すごい!恋バナだよ」

そう言って笑って二人でもう一度バイバイをした。
私たちは恋愛の話をしたことがなかった。この年齢の女子が必ずしている話だろうけど、そういう事に興味は一切なかった。

大門君との待ち合わせの時間まで後もう少し。
一度家に戻るには中途半端だから、明里は勉強をして待っていようと、教科書を取り出した。

麗美に話してよかった。やっぱ友達は大事だな。なんかスッキリした気分で大門君と話ができそうだ。


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