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下準備
悪魔を確認される
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立ち上る土埃、いくつもの大きな穴の開いた地面。
周囲にはもはや何者であったのかすらわからないような肉片が飛び散っており、ここで大きな戦いがあったのだという事を教えてくれる。
大量に湧いたモンスターを駆逐するためだという理由で、まだ人間が残っていたというのに、街一つをいくつもの砲弾が襲い、街そのものが破壊された。
確かに、この街に出現したモンスターの駆逐には成功したが、その代償に、人間は同じ人間を大量に殺したのだ。
なんという自分勝手な行動だろうか。
モンスターが襲ってきたとはいえ、人間を逃がす余裕がまったくなかったわけではないのに、そんな事をしている間にモンスターが街の外に出たら、そちらの方が危険だと判断した。
確かに、餌になる人間が逃げたと知れば、モンスターはそれを追いかけるだろうが、それは個別に殺していけばいいだけの話であり、街に大量に巣食っていたモンスターを殺すまでの時間は稼げたはずなのだ。
わたくしが今日この地に来たのは、モンスターによって汚されたであろう大地を浄化して欲しいと頼まれたからだが、本心は違うのだろう。
本当は、自分勝手な都合で死んでいった人間の弔いをさせたいのだ。
呪いや怨念など信じていなかったくせに、モンスターと言うこの時代では非現実的なものを前にして、人間は恐れを抱くようになった。
自分が殺してしまった相手が、自分を恨み、呪ってくるのではないかと思うようになったのだ。
まったくもって今更だが、彼らは自らが命を奪ってきた人間の数の多さを理解していないのだろう。
彼らに恨みを抱いているのは、昔から大勢いたというのに、今更怯えるなどどうかしている。
しかしながら、今は『聖女』として期待に応え、モンスターがはびこった街を浄化する作業をしなくてはいけない。
わたくしの魔法によって空から舞い降りる光の粒に浄化されていく様を見て、人間はこれこそ神の御業だと褒めたたえてくるが、魔に属するものにだってこの程度の事、造作もなく出来るのだ。
神の奇跡? 笑わせてくれる。
「浄化作業はこれにて完了いたしました」
「素晴らしい御業でした聖女様」
名も知れぬ兵士にそう言われて、わたくしはニコリと微笑みを浮かべる。
彼らにはわたくしの事が完璧な聖女に見えているに違いない。
だが、実際は違う。
聖女の皮を被った魔王、それがわたくし。
いつわたくしが魔王であることを公表するのが効果的だろうか?
もっとモンスターに人間が襲われて甚大な被害が出る頃に、その原因がわたくしであると公表したら、それでさぞかし人間は混乱に陥るだろう。
それこそがわたくしの最高の快楽、最高の食事。
ああ、今からその瞬間が最高に待ち遠しいけれども、じらされればじらされるほど、その時は至高の物となる。
そこにふと、悲鳴のようなものが遠くで聞こえ、わたくしはそちらの方に顔を向ける。
他にも気が付いた兵士が居るのか、何事かと魔法銃を構えてそちらの方角を見た。
悲鳴は次第に大きく聞こえてくるようになり、兵士達はモンスターの残骸が残っていたのではないかと一斉に武器を構えた。
けれども、そこに現れたのは、紫の髪に青い瞳、二本の触角を生やした悪魔、そう、ベルゼブブが居た。
確かにこの街にモンスターを出現させて混乱に陥れるように言ったが、その後は一度わたくしの元に戻ってきたはずなのに、一体なにをしにここに戻ってきたのだろうか?
「せっ、聖女様! あれは何ですか!? あれもモンスターなのですか!?」
「いいえ、あれは悪魔。暴食を司る悪魔ですわ」
流石に目覚めてから人間の魂を食べていなかったから、お腹が空いて出てきてしまったのだろうか?
それならば、悪魔と言うものの恐怖を味あわせるために半分ぐらいの兵士の魂を食らわせるのもいいかもしれない。
わたくしはベルゼブブに視線で合図を送ると、ベルゼブブは一瞬で兵士達との距離を詰めてその体を引き裂き魂を食らい始めた。
恐怖のあまり魔法銃を乱射する兵士達だが、そんなもので殺せるのなら、人間達はわたくしたち魔王側を倒すのに苦労などしなかっただろう。
「聖女様、どうすればっ!」
「わたくしの力だけでは撃退させる事しか出来ません。それにしても、悪魔がまだ残っていたなんて、わたくし達が倒したはずなのにどうしてっ」
わたくしは絶望を浮かべたような表情を作ってベルゼブブを見るけれども、その間にもベルゼブブは多くの兵士の魂を食べている。
相変わらずの食欲ぶりに感心すらしてしまいそうだ。
「とにかく、あの悪魔は人間の魂を好物としています。近づいてはいけませんわ」
「わかりました」
わたくしの言葉に兵士達はベルゼブブから距離を取ろうとするけれども、ベルゼブブの方が勿論動きが早いので意味はない。
兵士の数が半分ほどになった辺りで、わたくしはさも今まで撃退用の呪文を練っていたという演技をして、ベルゼブブを見る。
「悪魔よ! この場から立ち去りなさい!」
強い閃光が辺りを包み込み、その光が消えた時にはベルゼブブの姿は消えていた。
生き残った兵士達は、食われてしまった仲間の事を思いながらも、自分は生き延びたのだという喜びに浸っている。
「申し訳ありません。わたくしがもっと早くに呪文を完成させていれば……」
「聖女様のせいではありません。悪魔が居るなど誰が思うでしょうか、半数もの兵士が生き残っているのです、それで十分ではありませんか」
「けれども、亡くなった兵士が居るのは事実ですわ。それから目をそらしてはいけません」
もっともらしい事を吐き捨てて、わたくしはベルゼブブの食い残しの所に行き浄化の炎でそれらを焼き捨てる。
人間は悪魔に食べられたものは悪魔になるかもしれないと怯えているからだ。
そんなはずがないのに、本当に今の時代の人間の知識の浅はかさには笑いそうになってしまう。
それにしても、マテが出来なかったベルゼブブには困ったものだ。
まあ、餌を前に吊り下げられて大人しくできる子ではないのだけれども、それでもこんな風に悪魔の存在を人間に見せつける羽目になるとは思わなかった。
どちらにせよ、いずれ悪魔の存在を知らしめる必要があるのだから、それがわずかに早まったと思えば構わないだろう。
人間は自分達に七人の天使が味方をしてくれていると思っているのだし、それに対応する悪魔が蘇ったのかもしれないとわたくしが言えば、それですべて解決してしまう。
「聖女様、悪魔がなぜ現れたのですか。聖女様達が倒したのではないのですか!」
「わかりません。確かに倒したはずなのですが、もしかしたらモンスターが復活したように、悪魔も復活してしまったのかもしれません」
「そんなっ」
「彼らもまた、人間の負のエネルギーを好んで居る存在です。人間が恐怖に怯えれば怯えるほど、彼らの力は強くなっていくことでしょう」
それは嘘。
そんなものに関係なくわたくしの配下の七義兄弟の悪魔は強い。
あの頃の戦いでわたくしを守りながら勇者達を殺していけるほどに強く、そして長い年月ランタンの中で赤い月の光を浴びてきたのだから、その強さは昔と変わらなくなっているだろう。
今の時代の人間にあの子達を止めることが出来るとは思えない。
爆弾という武器もあるそうだが、聞いた程度の威力はかつての魔法ではよくあったものだ。
その程度の物ではあの子達は殺すことは出来ない。
けれども、人間は大量破壊兵器をもってすれば悪魔だろうとモンスターだろうと殺すことが出来ると思っているのだから、何とも面白いものだ。
そんな生温い攻撃で本当にモンスターや悪魔が倒せるのであれば、勇者達はわたくし達を倒すのに命を懸ける事も無かったし、魔法使い同士で戦い世界が荒廃する事も無かっただろう。
その事から目をそらして今の時代を生きている人間は、いずれ全てわたくし達の操り人形になるのだろう。
そう、わたくし達に恐怖という食事を与える家畜になるのだ。
周囲にはもはや何者であったのかすらわからないような肉片が飛び散っており、ここで大きな戦いがあったのだという事を教えてくれる。
大量に湧いたモンスターを駆逐するためだという理由で、まだ人間が残っていたというのに、街一つをいくつもの砲弾が襲い、街そのものが破壊された。
確かに、この街に出現したモンスターの駆逐には成功したが、その代償に、人間は同じ人間を大量に殺したのだ。
なんという自分勝手な行動だろうか。
モンスターが襲ってきたとはいえ、人間を逃がす余裕がまったくなかったわけではないのに、そんな事をしている間にモンスターが街の外に出たら、そちらの方が危険だと判断した。
確かに、餌になる人間が逃げたと知れば、モンスターはそれを追いかけるだろうが、それは個別に殺していけばいいだけの話であり、街に大量に巣食っていたモンスターを殺すまでの時間は稼げたはずなのだ。
わたくしが今日この地に来たのは、モンスターによって汚されたであろう大地を浄化して欲しいと頼まれたからだが、本心は違うのだろう。
本当は、自分勝手な都合で死んでいった人間の弔いをさせたいのだ。
呪いや怨念など信じていなかったくせに、モンスターと言うこの時代では非現実的なものを前にして、人間は恐れを抱くようになった。
自分が殺してしまった相手が、自分を恨み、呪ってくるのではないかと思うようになったのだ。
まったくもって今更だが、彼らは自らが命を奪ってきた人間の数の多さを理解していないのだろう。
彼らに恨みを抱いているのは、昔から大勢いたというのに、今更怯えるなどどうかしている。
しかしながら、今は『聖女』として期待に応え、モンスターがはびこった街を浄化する作業をしなくてはいけない。
わたくしの魔法によって空から舞い降りる光の粒に浄化されていく様を見て、人間はこれこそ神の御業だと褒めたたえてくるが、魔に属するものにだってこの程度の事、造作もなく出来るのだ。
神の奇跡? 笑わせてくれる。
「浄化作業はこれにて完了いたしました」
「素晴らしい御業でした聖女様」
名も知れぬ兵士にそう言われて、わたくしはニコリと微笑みを浮かべる。
彼らにはわたくしの事が完璧な聖女に見えているに違いない。
だが、実際は違う。
聖女の皮を被った魔王、それがわたくし。
いつわたくしが魔王であることを公表するのが効果的だろうか?
もっとモンスターに人間が襲われて甚大な被害が出る頃に、その原因がわたくしであると公表したら、それでさぞかし人間は混乱に陥るだろう。
それこそがわたくしの最高の快楽、最高の食事。
ああ、今からその瞬間が最高に待ち遠しいけれども、じらされればじらされるほど、その時は至高の物となる。
そこにふと、悲鳴のようなものが遠くで聞こえ、わたくしはそちらの方に顔を向ける。
他にも気が付いた兵士が居るのか、何事かと魔法銃を構えてそちらの方角を見た。
悲鳴は次第に大きく聞こえてくるようになり、兵士達はモンスターの残骸が残っていたのではないかと一斉に武器を構えた。
けれども、そこに現れたのは、紫の髪に青い瞳、二本の触角を生やした悪魔、そう、ベルゼブブが居た。
確かにこの街にモンスターを出現させて混乱に陥れるように言ったが、その後は一度わたくしの元に戻ってきたはずなのに、一体なにをしにここに戻ってきたのだろうか?
「せっ、聖女様! あれは何ですか!? あれもモンスターなのですか!?」
「いいえ、あれは悪魔。暴食を司る悪魔ですわ」
流石に目覚めてから人間の魂を食べていなかったから、お腹が空いて出てきてしまったのだろうか?
それならば、悪魔と言うものの恐怖を味あわせるために半分ぐらいの兵士の魂を食らわせるのもいいかもしれない。
わたくしはベルゼブブに視線で合図を送ると、ベルゼブブは一瞬で兵士達との距離を詰めてその体を引き裂き魂を食らい始めた。
恐怖のあまり魔法銃を乱射する兵士達だが、そんなもので殺せるのなら、人間達はわたくしたち魔王側を倒すのに苦労などしなかっただろう。
「聖女様、どうすればっ!」
「わたくしの力だけでは撃退させる事しか出来ません。それにしても、悪魔がまだ残っていたなんて、わたくし達が倒したはずなのにどうしてっ」
わたくしは絶望を浮かべたような表情を作ってベルゼブブを見るけれども、その間にもベルゼブブは多くの兵士の魂を食べている。
相変わらずの食欲ぶりに感心すらしてしまいそうだ。
「とにかく、あの悪魔は人間の魂を好物としています。近づいてはいけませんわ」
「わかりました」
わたくしの言葉に兵士達はベルゼブブから距離を取ろうとするけれども、ベルゼブブの方が勿論動きが早いので意味はない。
兵士の数が半分ほどになった辺りで、わたくしはさも今まで撃退用の呪文を練っていたという演技をして、ベルゼブブを見る。
「悪魔よ! この場から立ち去りなさい!」
強い閃光が辺りを包み込み、その光が消えた時にはベルゼブブの姿は消えていた。
生き残った兵士達は、食われてしまった仲間の事を思いながらも、自分は生き延びたのだという喜びに浸っている。
「申し訳ありません。わたくしがもっと早くに呪文を完成させていれば……」
「聖女様のせいではありません。悪魔が居るなど誰が思うでしょうか、半数もの兵士が生き残っているのです、それで十分ではありませんか」
「けれども、亡くなった兵士が居るのは事実ですわ。それから目をそらしてはいけません」
もっともらしい事を吐き捨てて、わたくしはベルゼブブの食い残しの所に行き浄化の炎でそれらを焼き捨てる。
人間は悪魔に食べられたものは悪魔になるかもしれないと怯えているからだ。
そんなはずがないのに、本当に今の時代の人間の知識の浅はかさには笑いそうになってしまう。
それにしても、マテが出来なかったベルゼブブには困ったものだ。
まあ、餌を前に吊り下げられて大人しくできる子ではないのだけれども、それでもこんな風に悪魔の存在を人間に見せつける羽目になるとは思わなかった。
どちらにせよ、いずれ悪魔の存在を知らしめる必要があるのだから、それがわずかに早まったと思えば構わないだろう。
人間は自分達に七人の天使が味方をしてくれていると思っているのだし、それに対応する悪魔が蘇ったのかもしれないとわたくしが言えば、それですべて解決してしまう。
「聖女様、悪魔がなぜ現れたのですか。聖女様達が倒したのではないのですか!」
「わかりません。確かに倒したはずなのですが、もしかしたらモンスターが復活したように、悪魔も復活してしまったのかもしれません」
「そんなっ」
「彼らもまた、人間の負のエネルギーを好んで居る存在です。人間が恐怖に怯えれば怯えるほど、彼らの力は強くなっていくことでしょう」
それは嘘。
そんなものに関係なくわたくしの配下の七義兄弟の悪魔は強い。
あの頃の戦いでわたくしを守りながら勇者達を殺していけるほどに強く、そして長い年月ランタンの中で赤い月の光を浴びてきたのだから、その強さは昔と変わらなくなっているだろう。
今の時代の人間にあの子達を止めることが出来るとは思えない。
爆弾という武器もあるそうだが、聞いた程度の威力はかつての魔法ではよくあったものだ。
その程度の物ではあの子達は殺すことは出来ない。
けれども、人間は大量破壊兵器をもってすれば悪魔だろうとモンスターだろうと殺すことが出来ると思っているのだから、何とも面白いものだ。
そんな生温い攻撃で本当にモンスターや悪魔が倒せるのであれば、勇者達はわたくし達を倒すのに命を懸ける事も無かったし、魔法使い同士で戦い世界が荒廃する事も無かっただろう。
その事から目をそらして今の時代を生きている人間は、いずれ全てわたくし達の操り人形になるのだろう。
そう、わたくし達に恐怖という食事を与える家畜になるのだ。
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